第72話脅威

「天使さまっ!お食事ができました!」

にこにこした顔で、僕を呼びに来るカラさん。


修道院で、回復魔法を使ってからずっとカラさんはこんな調子だ。


「いえ!わずか10歳程度で、数千人、数万人の傷を治したという、奇跡の天使様は、もう、、、ほんとうに、、、」

そんな事を言われてしまう。


「カラさんが尊敬されるのは、仕方無い事だと思います。

私も、会う事が出来て、本当に、、本当に幸せですわ」

この村のシスターさんまで、涙目になっている。


「天使様は、ローダローダ様を敬う者でしたら知らない者はおりません。修道院が崩れるその日まで、癒しを施し続けた少年は、私たちの希望なのです」

シスターのきらきらした目に、僕は思わず頭を押さえていた。


なんだよ。めちゃくちゃ美化されている。

冒険に出てる間に、ゴブリンに修道院は燃やされた。

ただ、それだけの事なのに。


「あの方たちも、天使様がおられて良かったです。これも、お導きかと」

シスターの目線の先には、ぐっすりと眠っている二人の冒険者がいた。

あの後。

いびきをかいて寝ていた二人を簡易ベッドへ移動させたのだ。

ステータスを上げてなかったら、絶対動かせないくらい二人とも重かったけど。


「お食事がさめてしまいます。どうか、お召し上がりください。それとも、私ごときのお料理では、お口に合いませんか?」

いや、カラさん。。涙目にならないで。

「食べる、食べるから」

それと、その口調というか、話し方は止めて欲しい。

馬車の中では、気軽に話をしていたのに。


「あまり気にしなくていいから。僕に構うより、カラさんも仕事があるでしょ?」

「いえっ!天使様の世話より勝る仕事なんてありません!」

いや、僕、そんなにすごい人じゃないから。


これ以上カラさんを放っておくと、神様にされそうな気がして、拒否の言葉を出そうとすると。


「ガッシュ!!」

冒険者の一人が飛び起きた。

「ガッシュ!無事かっ!」

隣に寝ているもう一人の冒険者に声をかけているけど。

「天使様に、治癒を施していただいています。もう、傷は全て治っていますよ。体力が落ちているので、もうしばらく、ゆっくりと休ませてあげてください。無理はダメですよ」

カラさんが、少し怒った目で冒険者を諭す。


「天使様の世話を中断されたので、少し怒っていますね」

シスターさんに、小さく耳打ちされて、僕はため息しか出なかった。


「そうか。助かったのか、、、すまない。治癒の代償は、、今手持ちがないんだ。いつか、必ず払う」

土下座する勢いで、頭を下げる冒険者。

あの時は、勢いで言ったけど、別に治療代をもらうつもりは無いんだけど。村の人たちも一斉に治してしまったし。


「あの、少しよろしいでしょうか。すごい傷でしたけど、この辺りにそんなに強い魔物がいたのですか?」

シスターさんが、頭を下げている冒険者の肩をそっと上げる。


「オークファイターがいたんだ」

「ガッシュ!良かった!目が覚めたかっ!」

「隣で、そんなに騒がれたら、目も覚める」

「本当に、ほんとう、、、に、、、よがっだぁ」

「なんとか、俺が気を引いている間に逃げるつもりだったんだが。

一撃いいのをもらったみたいでな。気が付いたらこいつに引きずられてた」

相方を完全に無視するガッシュ。


「なんとか逃げ切れたんだが。。」

それで、二人ともその怪我か。


オークは、、ちょっと面倒な敵だ。

昔、多分50歳くらいの頃森の中で何度か戦った事はあるけど。


「ギルドに報告は?」

「この辺りにギルドは無いんだよぉ。だからといって、王都まで行けるほど金があるわけじゃないしなぁ」

「出来れば、帰って報告してくれないか?俺達だけじゃ、無理だ」

落ち着いたのか。

まだ泣き声だけど返事をする冒険者と、ガッシュ。


ギルドが無い場所で活動する冒険者は、基本その討伐素材を全部村に渡して、食料を得たりしている。

多分、この二人もそんな風に生活しているんだろう。


「そうだ・・ね」

「天使さまっ!私たちで倒しましょう!オークはすぐに増えると言いますしっ!一匹みたら、10匹はいると思えっていいますしっ!」

いや、いや、オークが10匹もいたら、こんな村、無くなるから

カラさんの突然の発言に、思わず心で突っ込みを入れる。


「大丈夫ですよっ!天使様なら、あっさり倒せます!あれほど凄い魔法がお使えになるのですからっ!」

カラさんのテンションがおかしくなってる。

「僕は、カラさんの護衛なんだけど、、、」

「でしたら、私がいけばいいのですねっ!」

「いや、なんでそうなる!?」

「私が行けば、襲われた私を守って倒したっていえるじゃないですかっ!」

どんどんテンションが上がって行くカラさん。


「じゃあ、今からでも行きましょう!」

「っちょっと待ってっ!」

「すぐ行かないと!増えたらどうするんですかっ!」

「今すぐは無理だからっ!少し時間が欲しいのっ!」

「では、行って下されると言う事で、よろしいのですね」

突然、真顔になって、僕を見てうっすらと笑うカラさん。


その顔を見て、僕は苦笑いを浮かべていた。

カラさんのさっきまでのおかしなテンションは、、見事にひっかけられたみたいだ。



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