第37話女神と聖女。そして

準々決勝戦。

僕は二人の応援のため、会場の最前席に座っていた。

「レイア。シュンくんは渡しません」

「ライナ。手加減はしないよ」


二人の声が聞こえて来るのは、最近ちょっと感覚が鋭くなって来ているからかも知れない。

EPで、いろいろとスキルを取ったからね。


けど、、二人の間に殺気が見えるのは気のせいだろうか。

「さぁ、さぁ。皆さんお待ちかね!まさか、まさかの番狂わせ!最強の新入生2人の直接対決だっ!誰が予想した?いや、誰も予想どころか、眼中にもなかったはずっ!しかし、ここに二人が立っている事こそが事実っ!そう! 踊るように魔法を避け、目を離す事が出来ないほど綺麗な氷を操る! 舞氷の聖女!ライナっつ! この氷は、自分だけではなく、対戦相手すら舞わせてしまう!氷の結晶を身に纏い、また、この舞台で死のダンスを舞って行く事は違いないっ!その氷が私たちを引きつけるっ!」


「ライナぁ~ 俺達のために、舞ってくれ~」

変なファンがついてないか?

というか、実況と言うか、紹介までファンっぽいし、二つ名がついてるし。

「舞氷の聖女の対戦相手は、 爆炎の女神っ! レイアっ!一瞬で相手に近づき、その炎で全てを包み込むっ!その燃えるほどの情熱にさらされた相手は、一瞬で燃え尽きるっ!炎とともに舞う赤い髪は、女神の名にふさわしい神々しさを秘めて、我々を魅了するっ!全てもやし尽くすその炎は、氷すら燃やし尽くすのかっ!」


「レイアお姉さま~。 私も燃やしてくださぁぃ!」

こっちにも、変なファンがついてる。


「さぁ。まさか、まさか。通常のトーナメントで、特殊トーナメント並みのマッチングっ!今から、新しい歴史が刻まれる事は変わりなし!では、試合、始めっ!」

レイアもか、、二つ名、、



僕の突っ込みをよそに、二人は闘技場の真ん中で睨みあう。


「痛くないように、一瞬で決着をつけますね」

「それは俺のセリフだよ」

ライナが、杖を振り。

大量の氷がレイアに襲い掛かる。

「ライナの魔法は知り尽くしているよっ!」

両手に炎を纏わせ。

拳を振りながら、炎をカーテンのように展開して氷を打ち消していく。

ほんと、レイアの戦闘センスはすごいと思う。

「突っ込んで来ないの?」

「第2弾があるんだろ?」

二人の殺気が半端ない気がする。


かくしていた第2陣の氷が発動し、レイアに襲いかかる。

近づいたら、氷の嵐に突っ込んでたな。


ところが、レイアはさらに炎を生み出す。

氷の弾丸たちが、レイアを打ち抜き。

レイアが消えた。


ざわめき出す会場をよそに、レイアは、ライナの傍に飛んでいた。

上手い。陽炎を使った誘導か。

「甘いよ」

「甘いのは、レイアです」

拳を振るうレイアの前に、氷が生まれる。

3弾目。

避けれない。

ふっと笑ったレイアが氷に打ち抜かれ。

消える。


反対側の空中に。

レイアはいた。陽炎の誘導か。

ナイフを突き出し。炎の弾を生み出す。

巨大な炎はライナを包み込み。


むなしく、地面を焦がしていた。

「逃げたっ?」

レイアが驚いている先に、水の塊が生まれる。

着地点だ。避けきれない。

「しまっ」

そのまま、レイアは水球に吸い込まれるように包み込まれ。

一気に水球が凍り出す。

完全に水が凍り付いたと思った時。


破裂するように、炎が氷を爆散させる。

爆散した氷が向きを変え。

一気にレイアに襲い掛かる。

「どんな魔法だよ」

思わず、叫びたくなる。

レイアは、再び炎を纏い。

氷を叩き落としながら下がる。


あの状態から、その動きが出来るって、レイアもどんな反射神経しているんだか。


「なかなか、、」

「やりますね、、」

二人は、笑いながら再び対峙する。


あまりの攻防に、シンと静まり返っていた舞台に、割れんばかりの歓声が響き渡った。


「これは、、これはすごいっ!炎を氷の攻防戦だぁ!これは、決勝なのかっ!いや、最上級の神の戦いを目の当たりにしているのかっ!まさに、これこそが最強の女神たちの舞いだぁ!」


実況が興奮しているけど。

ライナの魔力がちょっと怪しいはずだ。

かなり無茶な魔法連打をしているはずだから、レイアの方が余裕があるはずだ。


ん。少し、会場が見えにくい気がする。

少し違和感を感じていると、レイアが走り始める。

少し濁った霧のような空気が切り裂かれるように動く。

「あ、馬鹿」

ライナの罠だ。

がくんと、レイアの足が動かなくなる。

「麻痺毒の霧魔法とか、何処で覚えたんだか」

対人戦特化の魔法だ。

魔物には効かないから、僕が覚えようとは思わない。


霧で見えなくなった足元をすくわれてレイアが転ぶ。

水球を飛ばしたのか。

「終わりですっ!」

ライナが巨大な氷弾を生み出す。

打ち込まれようとされたその氷を見たレイアは。

「うわぁぁぁぁっ!」

叫びながら、足元を包んでいた水球に直接炎の魔法を撃ちこみ水球を蒸発させる。

おい。やけどしただろ。今の。


爆発するかのように魔力が弾け。

その魔力の乗るかのように、ライナに向かって跳んでいくレイア。

魔力が、レイアを包み込み。全身が炎に包まれる。

「あの馬鹿っ!ほんとにバカかっ!」

僕は、咄嗟に闘技場の壁を乗り越えていた。

自分自身に着火するとか。

炎となったレイアは、そのままライナへと突っ込んで行く。


あまりにも無茶苦茶な攻撃に、呆気にとられ避けきれなかったライナ。

直撃を受けた二人は一気に燃え上がり。

炎の柱を生み出し、二人を呑み込む。

そして、炎が収まった時。

くすぶりながらも、立っているレイアと、倒れているライナがいた。

「し、、、勝者、爆炎の女神、レイアっ!」

勝者のアナウンスにゆっくりと手を上げるレイア。

会場は爆発的な歓声に包まれる。


それどころじゃない。

体からまだ煙を出しているレイアの両足はひどい傷だ。

倒れているライナも、酷いやけどになっている。

闘技場の回復量を明らかに超えている。

即死しなかっただけマシといった感じだ。


力尽きたのか。倒れるレイアを抱きとめて。

倒れているライナを抱き起す。

「くそ馬鹿」

それだけ言うと。僕は全力で回復魔法を発動させる。

馬鹿みたいにステータスを上げた今の全力の魔法発動は始めてだ。

でも。

舞台全てを覆うほど巨大な緑色の魔法陣が生まれ。

緑の光りが、揺らめき始める。

観客が、生徒が、ざわめくが気にしている余裕は無い。

魔力2000を超える今の僕の全力だ。

緑色の光りが回るように動き出す。


まるで、踊っているかのように舞い始めた緑色の光りが、二人の傷を一つ残らず癒していく。

レイアの足のひどいやけども。

ライナのやけどの傷も。


まったく、無鉄砲にもほどがある。

学校の競技試合で死にかけるとか。

二人には延々とお説教が必要みたいだ。


ゆらめくように、囁くように、問いかけるように回る緑色の光りが、見ている人すら癒しを施して行く。

魔法の光りによって作り出された緑色の柱。

ゆっくりと回る緑色。

そのあまりにも神秘的な光景を見た人達によって、僕にも二つ名がついてしまったのだった。

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