第36話ライナ
「一撃かよ」
僕はあきれるしかなかった。
先輩も風魔法使いとして、相当だと思う。
最初に使っていたのは、
すぐに切り替えたのは、
どれも、距離的に最適な魔法だった。
けど。
突っ込んで来たレイアの一撃は
を発動させるといった暴挙に出ていた。
あんな近距離で、炎を浴びせられたら、、そりゃ全部当たるよ。
笑顔で手を振っているレイアに、僕も手を振り返す。
この学校にいる生徒は、、というか、この世界の魔法使いは基本砲台スタイルだ。
あの優しかったレイアさんも同じだった。
そんな中で、レイアの戦い方はおかしいとしか言いようがない。
一気に距離を詰めて、強力な魔法を近距離で叩きこむ。
そして、離脱して再び距離を詰める。
剣士か、格闘家かと言った戦闘方法だ。
レイアの身体能力の高さがなせる業だけど。
「牽制の魔法を使わないから、見てて怖いんだよな」
呟きながらも、原因は知っている。
昔の経験から。
囲まれたら、足を止められたら死ぬのは身に染みている。
昔、森の中で生きていた時、数十体の魔物に追い回されて、半日森を走り回った時は、本当に何度も死ぬかと思った。
いっそ死んだほうが楽になるかと思ったくらいだ。
力尽きる前に、地面に穴を掘って、相手が諦めるまで身を潜めた事もあった。
絶対結界が無かったら、本当に何度死んでいたか分からない。
その時の動きを自然としてしまう僕に付き合っていたレイアは気が付いたら、とんでもない魔法近接アタッカーになっていたのだった。
ライナは、そんなレイアの試合を会場の選手控の廊下で見ていた。
レイアの試合を見ながら、私は覚悟を決める。
「負けない」
自分の杖を握りしめる。
レイアは本当に凄いと思う。
私が使えない炎の魔法も。
敵の中へと切り込んでいくその度胸も。
私には無いものだけど。
「それでも、シュン君だけは、渡さない」
シュン君は普通にかっこいい。本人はいつも笑っているけど。
そのしぐさも。黒い瞳も。黒い髪も。
そして、戦闘の時、思い詰めたような目をする所も。
何かを抱えているのは分かっている。
けど、シュン君が抱えているものを教えてくれる事は今までなかった。
だから。
「勝って、シュン君の傍にいて。教えてもらうんだ。シュンくんの全てを」
私は、シュン君からの贈り物をもう一度握りしめる。
家すら買える。その武器を。
「魔法トーナメント 一回戦 ライナ対バイル 開始っ!」
私の相手は、まさかの3年生だ。
じっと動かない私を見て、笑う相手。
普通なら絶対に勝てない相手だ。
「1年だからと言って、手加減は無しだ」
バイル先輩の岩が私に向かって来る。
重そう。
そんな事を思いながら、シュン君との練習を思い出す。
「魔法を発動させた後、突然の方向転換は出来ないから、ギリギリで避ける事は可能だ。まぁ、やる人は少ないけどね」
シュン君は、それをやってのける。
だから。
「ま、、おまっ!」
私の後ろで、岩弾が弾ける音がする。
やった。出来た。
少し、頬に傷があるけど、避けきれた。
無言で、私は杖を先輩に向ける。
魔法を発動。
「シュン君以外には、触れさせません。それが魔法でも」
「ちょ、、おまえ、本当に、1年、、、?」
氷の弾が、一気に動き出す。
数十発の氷の嵐に巻き込まれた先輩は、先輩を吹き飛ばして。
地面に叩きつけていた。
「勝者っ!ライナっ!」
その声を聞きながら、私は顔を上げる。
私の好きな人の顔を見るために。
とある校舎の中。
校長室で、一人笑っている男がいた。
「ははh、、すごいではないか、、」
額に汗を流しながら、校長は笑っている。
けど、私には、それが冷や汗だと言う事は分かっていた。
「あの二人に賭けなかったんですね」
「ま、、まぁ、一年だし、、そこまではと思って、、な、、」
私は大きくため息を吐く。
学生のこの戦いで賭け事をしないと決めたのは自分のはずなのに、堂々とかけている事を認めている事にツッコミを入れるべきなのか、それとも、あれだけ二人の異常さを伝えていたのに、伝わっていなかった事に、嘆くべきなのか。
「だから、あれほど言ったでしょう。あの二人も異常です」
「ああ。今年は、本当に、、凄いなぁ」
相当な額をスッたな。
「それよりも、校長、これからどうしたらいいんですか?私たちが教えれる事なんてまったく、これっぽっちも、1ミリも存在しませんよ!なんで、一年で、
魔力量と、魔力の制御力が問われる魔法だ。
学生がほいほいと使えるものじゃない。
「まあ、まあ、落ち着きましょう。先生。しかし、こうなると、二人には、冒険者の特殊登録を考える必要が出てきましたね。シュンくんと一緒ならと言う条件か、2人でそろってならと言う条件で、行いましょうか。これだけの人材。冒険者ギルドとしても、強い者を放置している余裕はないみたいですからね」
校長の目は、いつの間にか鋭いものに変わっていた。
私は、その目に思わず足がすくんでしまう。
「ほんとうに、楽しみですねぇ」
いつもの表情に戻った校長を見ながら、私はもう一度ため息を吐くのだった。
会場の外。
僕が二人を待っていると、真っ先にレイアが走って来る。
「見てくれたか?」
そう言うレイアの顔が少し赤い気がする。
僕が口を開こうとすると。
「シュン君!」
ライナも走って来た。
二人とも、目を輝かせてこちらを見ている。
その姿を見て、思わず僕は、ライナの頬っぺたをつねっていた。
「にゃ、、にゃにを、、」
ライナが苦情を言うが。
「だ、れ、が、魔法を避けろと言った!見てるこっちが冷や汗が出た!」
本心だ。本気でひやっとしたんだから。
「ふふ。俺ほど早くないんだから、ライナは、魔法を撃っていればよかったのさ」
そんな事を言うレイアにするどく手刀を頭に入れる。
「いにゃっ!」
可愛い声を出すレイアに。
「レイアは突っ込みすぎっ!罠魔法が仕掛けてあったら、吹っ飛んでるっ!だいたい、ナイフも渡してるだろ!?殴りに行く馬鹿があるかっ!」
「ライナぁ」
「シュン君が、厳しいです。頑張ったのに」
二人が落ち込んでいるのを見ながら、僕は二人を撫でまわしたいのをじっと我慢する。
「あんな方法で魔法を避けてたら、腕の一本や二本すぐに無くなるぞっ!だから、絶対に禁止っ!レイアは、腕二本分の距離は絶対に取るようにっ!」
二人がすごく落ち込んでいる。
そんな二人を見ながら、僕は二人の頭に手をそれぞれ乗せる。
「だけど、凄かった。二人とも。先輩に圧勝だ。十分すぎるくらい強いよ」
二人の頭を撫でると、二人とも可愛い笑顔を見せてくれる。
この顔が見たいから、一緒にいるんだよなぁ。
そんな事を思いながら、僕はしばらく二人の頭を撫でる。
そして。撫で効果なのか。
二人は順調にトーナメントを駆け上がっていったのだった。
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