第35話レイア

ガンガンと鳴り物が鳴っている。

怒号と、声援が飛び交う。

そんな中、今、二年生の二人が戦っていた。

魔法対戦1回戦。


「あの人知ってます。最近シュン君が居ない時に、食堂で私の隣にしつこく座ろうとしてくるんですよね。レイアに追い払ってもらってるんですけど」

僕の隣にいるライナが、対戦相手の一人を指さす。

「へぇ」

まあかっこいいといえばかっこいい男だった。


「もう片方の対戦相手は、交際を直に申し込んで来た。しかも俺達二人同時に」

レイアが、ライナが指さした男の対戦相手を指さす。


こっちもかよ。


「まあ、二人とも可愛いし。美人だから仕方ないか」

僕の独り言に、顔を赤くする二人。


ライナは僕の袖を掴み。

レイアは顔を赤くしたまま、僕の腕を掴む。

武器を渡してあげたくらいから、二人の距離がおかしい気がする。

そんなに凄い武器じゃないんだけど。

なんて言っても、素材が不足しすぎているから。


「あ。黄色の先輩すごいです!」

ライナの声に顔を上げると、ライナに付きまとっている先輩が、詠唱終了と同時に雷が地面を走る。

「へぇ。上位魔法か」

電撃マヒ系の魔法だ。回避は難しいと思う。

けど、あの魔法、人相手には強いけど魔物相手にはあまり効果が無いんだよな。

相手は、発動が間に合わなかった火魔法を空中にまき散らしながら、倒れて行く。

「勝者!迅雷のガイヤっ!」

激しい怒声と、歓喜の声が響き渡る。

会場が揺れてないか?

けど、さすが、選ばれた人しか参加しないトーナメント。

特殊トーナメントでも無いのに、凄い人がいっぱい出るんだな。


「ああ、こんあ、会場で、戦うのか、、」

レイアが、小さく呟いている。

思わずレイアの頭をポンポンと叩く。

「大丈夫。レイアなら勝てるよ」

「ああ。頑張る!」

レイアはさっきまでの弱きは何処へやら。満面の笑みを浮かべていた。


「あ、あれ、わたすも、緊張してますのっ」

ライナの口調がおかしい。少し頬が膨れている気もする。

仕方ないので、ライナの頭もぽんぽんとしてあげる。

それだけで、ライナは笑顔になっていた。


「レイアさん!試合準備お願いします!」

進行係なのか、生徒の一人から声をかけられる。

「じゃあ、行って来る」

「私も、すぐなので、行ってきますね」

応援お願いねと言って歩いていく二人の後ろ姿を見る。


「データベース検索、レイアとライナ 現状」

僕はぼそっと呟いていた。


目の前に、二人のステータスが浮かぶ。


[名前] レイア

[職業] 冒険者見習い


[ステータス]

[Lv]  24

[Hp] 700

[Mp] 300

[力] 120

[体] 103

[魔] 180

[速] 82


火魔法 身体強化魔法 無詠唱 連続魔法

着火 無鉄砲




[名前] ライナ シュリフ

[職業] 冒険者見習い




[ステータス]

[Lv] 22

[Hp] 600

[Mp] 380

[力] 80

[体] 93

[魔] 283

[速] 92


水魔法 氷魔法 無詠唱 連続魔法 同時魔法発動 速度強化魔法

回復魔法 瞑想 妄想


うん。二人とも強い。なんか、見てはいけないスキルも見えるけど。

Eランクの冒険者よりは強いはずだ。


「まあ、負ける事はないよな」

俺は、同級生の秘密を覗き見る罪悪感に包まれながら、独り言のように呟くのだった。


俺は。レイアは、相棒のグローブを突き合わせて、会場へ向かう廊下で笑っていた。

「さあ行くかっ!」

シュンに、なぐさめられて気分がいい。


相手は、、、誰だったか。さっきまでは覚えていたのだが。

速く帰って、シュンにまた触って欲しい。

俺はそれだけしか思わなかった。

「魔法トーナメント 一回戦 レイア対ファウ ! はじめっつ!」

「また褒めてもらう」

俺は両手のグローブを握り直しながら、走り出す。


一気に距離を詰める。

俺の得意な距離。

びっくりした顔をしている先輩に。

俺は笑う。

「魔法使いが、殴っちゃいけないルールは無いよな」

詠唱していた魔法を破棄して、すぐに短い詠唱の魔法に切り替える先輩。

凄いけど。

遅い。


俺は、炎をまとった拳を振り下ろす。


「勝者!レイアっ!」

大きな歓声と、とんでない文句が聞こえてくるけど。

俺は気分よく手を上げていた。


俺の両親は、AAランクの冒険者だった。

鬼のように強かった。

竜すら倒せるほどに。

だから、竜が里に下りて来たと言われたとき、二人が出て行くのは当然の事だった。

父親の動きは見えなかったし、母親の魔法は山すら吹き飛ばせると思えるほど凄かった。


なのに。

二人は帰って来なかった。

まだ幼かった私に、今でも泣きながら頭を下げていた騎士の姿は目に焼き付いている。


ふと見ると、シュンの姿が見える。

思わず俺は笑顔で手を振っていた。


ライナも、シュンの事を気にいっているみたいだが。

負けない。

親友だからこそ。

ずっとそばにいた人だからこそ。

「勝って、シュンを手に入れる」


俺には、目標が出来たのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る