第34話対戦
「それはそうと」
コーヒーを飲みながら、ゆっくりと顔を上げる。
「特に意味の無い行動はやめてもらっていいですか?校長」
呆れた顔でそんな男を見ていたのは、シュンたちのクラスの担任を任されている先生だった。
「君のクラスはどんな感じなのかな?」
少しその声に震えが交じっているのは気のせいでは無い。
「はぁ。私は何もしてません。あの3人の事が気になるのでしたら、もう卒業で良いと思いますが。ほんんとうに、ロアとか、ヒウマの担任の苦労が良く分からりますよ」
先生は、目の前に置いてある、校長のお茶菓子を一つつまむ。
「ほう?」
「つい先日、3人でワイルドウルフ3体の討伐達成報告が、ギルドから届いたばかりです」
「はっはっは。なかなか、ワイルドではないかね」
「笑いごとではありません!」
机を力いっぱい叩くと、先生は校長に詰め寄る。
「ワイルドウルフですよ!群れで襲ってくるあいつらを!新入生が、しかも、3人だけで!犬じゃなくて、オオカミを!」
「入学して半年、、かな」
「そうですよ!半年で、新人冒険者が受ける依頼を達成してしまったんですよ!」
「卒業試験ですよ!ワイルドウルフの討伐はっ!」
「まあ、まあ。先々が本当に楽しみな生徒じゃないですか」
呆れた顔をした先生は、もう一つお菓子をつまむ。
「まぁ。あの3人については、ロア君と一緒の対応で良いのでは無いですか?続けて、ジャイアントボアの討伐とか楽しみですねぇ」
「大蛇ですか。ビックバイパーとか狩ってきそうですけどね」
「流石に、Cランクの魔物は無理でしょう」
にこやかに笑うだけの校長に殺意すら湧く。
そんな敵の討伐を行う引率は誰がやるんだ。
「それはそうと。君を呼んだ理由は一つです」
担任の先生は、校長を見つめ直す。
「決定しました。シュン君も参加です」
「ああ」
頭を押さえる。
「そうでした。それも、問題でした」
「今回は、シュン君、ロア君、ヒウマ君。3人も優勝候補がいますねぇ。誰に賭けましょうか」
「校長?対戦の賭けは、数年前に禁止になったはずでは?」
「はっはっつ はっ」
「校長?」
目を背ける校長に、担任の先生は大きく息を吐き出す事しか出来なかった。
「シュン君!」
お昼ご飯を食べていた僕に向かって走ってきたのは、ライナだった。
「むぐっ」
肉が。肉が。
水。水。
「おめでとうございます!シュン君、対戦参加ですよ!」
「あー!ライナっ!俺が先に言おうと思ってたのにぃ」
「早い者勝ちですからっ!」
レイアが笑っている。
「ん?二人とも魔法対戦に参加するのは、前に聞いた気がするけど」
「違いますっ!シュン君の参加が決まったんです!」
「んぐっ!」
思わず吹き出しそうになったじゃないか。
「さっき、対戦のトーナメント表が張り出されたんです。そこにシュン君の名前もあったの」
ライナが興奮気味だ。
「なんと、特殊トーナメント。頂上決戦とよばれるトーナメントに名前が載ってたぞ」
レイアの言葉についていけなくて、思わず二度見してしまう。
レイアが持っているのは、そのトーナメント表。
張り出された者を持って来たわけじゃないよな?
「1年生で特殊トーナメントに出るのは、シュンが初めてだったよ!先輩方が、大騒ぎしてたぞ。」
いや、レイアも十分興奮しすぎだと思う。
「去年は、3年の魔法球のロア先輩と、釘打ちのヒウマ先輩の一騎打ちだったって。でも、今年はシュンの一人勝ちだよな」
「分った。分かったから。勝てるかは分からないけど、まあ頑張るから。落ち着いて。レイア」
必死にレイアをなだめる。
しかし、先輩方。二つ名なんてついてるんだ。
「でね、、、お願いがあるんだけど」
ライナが、少しだけ上目でこちらを見る。
「少し、訓練、、してもらってもいいですか?」
そのライナの破壊力に、再びパンを詰まらせて、僕は水をがぶのみするのだった。
「さぁ!皆さんお待ちかね!対戦大会の始まりだっ!」
えらくテンションの高い生徒がマイクを持っている。
「今年は、新入生が、1年が3人も参加と言う、異常な年となった!彼らの実力はいかほどなのか!ぜひ先輩方は、そんなに世の中は甘くない所を見せて欲しいところだっ!」
会場から、ブーイングが飛ぶ。
「しかしっ!今回は異例中の異例!その3人のうち一人が特殊トーナメントに参加と言う事だっ!あの魔法球も、くぎ刺しすら通常トーナメント参加からだったのにも関わらずっ!」
「どれほど強いのか。それとも噂だけなのか!だが、卒業試験である魔物をすでに討伐したという、信じられない話まで舞い込んでいる!彼はどれほどの物なのか!さぁ。今年はさらに期待がふくらむ伝説の回となりそうだっ!それでは、トーナッメント開始っだっ!」
始まる武闘、剣術の試合。
レイアも、ライナも、魔法部門の参加である。
魔法部門は、使えるのは魔法のみ。
ただ、、レイアは魔法をまとって殴るんだけど、、あれはアリなんだろうか?
そんな事を考えていると。
「はじめまして、、かな。シュンリンデンバーグ君」
後ろから声をかけられて、振り向くと金髪で長身の青年が立っていた。
うん。女性といわれても信じるくらい整っている。
「僕は、3年生のロア。君は、、いや、君も、、、かな。順当にいけば、当たると思うから、お手柔らかにお願いするね」
にっこりと笑うロア先輩。
思わず赤くなってしまった。
「ああ。僕は、女の子が好きだから。その辺は間違えないで欲しいな」
それだけ言うと立ち去って行くロア先輩。
周りにいた女の子の何人かの目がキラキラしているのは仕方ないと思う。
特殊トーナメント。
こちらは、何でもあり。
相手を殺さないように。の一文しかない。
「さぁ!東のレートは今2.5倍だっ!逆転もありえる一撃持ちの彼に賭けてみる気はないかっ!」
「賭けは中止すると言っただろうがぁ!」
「やべっ!日が落ちる亭で待っている!逃げろーーっ」
大騒ぎしていた集団が逃げていく。
賭けまでやってるんだ。
違法みたいだけど。
そんなバカ騒ぎの対戦大会が始まった。
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