第38話中休み

「ごめんないっ!」

二人が、あわせるかのように頭を下げる。

足元には、水たまりが出来そうだ。

まったく喋らず。二人からするりと逃げ続けて。

一日中僕に触る事すら出来なかった二人は、絶望の顔をしていた。

僕にキスする権利をかけて戦ったのだから。

一切触れないというのが一番いいお仕置きになると思ったけど。


思ったより効きすぎているようで。

二人は、ぼろぼろと泣きながら頭を下げている。


全く、誰が死にかけるほどの激闘をしろといったのか。


まったく。


一日中無視しつづけたお詫びとして、次の日に二人のおでこにキスをしたら、二人ともきゅう と腰砕けになってしまったのは、別のお話である。


結局、レイアの自爆攻撃は、あまりにも効果があったみたいで。

準決勝、決勝の相手が棄権してしてしまったため、レイアが学校初の、一年生での優勝者となってしまった。


まぁ、僕でも、レイアの自爆攻撃は受けたくないからね。



試合が無くなったために生まれた休みの日に、僕は二人に付き合っていた。

「シュン君!食堂っ!行きましょう!」

ライナが、僕の手を思いっきり引っ張る。

積極的になったなぁと思っていると。


「私、決めましたから」

それだけ言って笑われてしまった。

何を決めたのかは、教えてくれなかったけど。


レイアはと言うと、女子生徒に囲まれて動けなくなっている。

「お姉さまっ!コレ食べてください!」

「お姉さまっ!触れてくださいっ!」

「私のお姉さまよっ!ねぇお姉さまっ!」

なんて、声が聞こえてくる。

人気だなぁ。


ライナはというと。

学校にいる間中、僕の手を掴むようになってしまった。

「離れると、面倒な事になるので」

そんな事を言っていたような気がする。

実際は、無数の男性陣の殺意が感じ取れるけど。

前よりも、殺意が深い気もするけど。

気にしたら終わりだと、思う事にした。


「作って来たので、食べてくださいっ!」

キラキラとした目を向けてくれるライナ。

ライナが出したボックスの中は、僕がいつも食べている肉サンドの豪華版とも言える物が入っていた。

イノシシの肉やら、レタスのような、ちょっと苦い葉っぱ。

スポンジのような食感のトマト。

トウモロコシのような植物を粉にして、スティック状に形成して作ったポテト。


お昼ご飯としては、あきらかに手が込んでいる。

こっちのお昼は、その辺の物を簡単にパンにはさんで食べる物が多いから。


「うん。美味しいよ」

顔を輝かせて笑うライナには、負けたと思う。

本当に、改めてみるとライナはかわいい。


「舞氷の手づくり、、、」

「アレを食べれるなら死んでもいい、、」

なんか、不穏な声も聞こえて来る。


可愛い彼女の手作り弁当なんて、前の人生じゃ起きなかったイベントだもの。

そんな事を思いながらも、目の前のランチボックスをしっかりと堪能するのだった。

まだ、レイアは女子たちに囲まれていて、こちらをちらちらと見ている。

助けてといった視線を感じる。


けど、女子って、怖いんだよ。

ごめん、レイア。

とりあえず、レイアを見捨てていると、ひょいっと手が伸びて、ポテトもどきのスティックが盗まれた。


俺が顔を上げると。

金髪に、蒼い目の超カッコいい男と目があった。

自分自信がそんなに容姿が整っている方ではないから、思わず二度見してしまう。


「うん。美味しい聖女様は、料理も一流だね」

男でも惚れてしまいそうな、心地いい声が耳に残る。

レイアを取り囲んでいた女子生徒たちの目に、ホワンとハートマークが見える。


「人の弁当を盗み食いしといて、良い根性してるな」

僕は少し怒り気味に反論する。

「いやいや、とっとリア充を制裁したくなってね」

片目をつぶる男。

本当にいい男だな。


ん?今、この世界じゃ聞かない言葉が混じっていたような。

僕が思わず顔を上げて、男を見る。


金髪をゆらめかせながら、蒼い目にはからかいの光りが浮かんでいる。

「やっぱりね。ありきたりな恋愛フラグと、ハーレムフラグって、叩き折りたくなると思わないかい?」

笑っている彼に対して、完全に確信を深める。

「そういうフラグを立てる奴は、すぐ負けるか、死ぬのも定番だけどな」

僕の反論に、腹を抱えて笑いだす。

「ははは。やっぱり君も、、なんだね。確信できて良かったよ。あれだけの回復魔法?あんな大規模なのは初めて見たよ。ラノベか、転生物の物語でしか知らないくらい凄い魔法だったよ」

「記憶持ち、、なのか?」

「いやいや、僕は、普通に転生だよ。スキルを女神からもらってね」

にっこりと返される。


なるほど。女神が言っていた、いろいろと出来ると言っていた一つか。

「君も、同郷なんだね。回復魔法のチートとかかな。あ、僕は、ロア。君とは2つ上になるかな。特殊トーナメント。当たるのを楽しみにしているよ」

楽しそうに、手を差し出して来るロア。


「ロア。そんな奴より、俺との決着が先だろうが」

不機嫌そうな声がする。

声の主を見ると、あきらかにアジア圏の顔立ちをした男が立っていた。

「ああ。去年は勝ったからね。今年も勝たせてもらうよ。ヒウマ君」

笑顔で、少し悪そうな顔立ちの男に笑顔で返すイケメンロア

ヒウマと呼ばれた男は、少し吊り上がった目に、髪を逆立てていて、昔のちょっと頑張っている学生といった風貌だった。

タバコを吸っているような学生のイメージか。


ロアの返事に、さらに目を吊り上げ睨みつけるヒウマ。

「ああ。ごめんごめん。まあ、そんなに睨まないでくれるかな。じゃあ、トーナメントで」

片手を振りながら、食堂を出て行くロア。

「てめえも、潰してやるよ」

それだけ言うと、ヒウマも食堂から出て行く。

「今のが、学年最強と呼ばれているロア先輩と、無敵と呼ばれているヒウマ先輩です」

なるほど。

去年の優勝者と、準優勝者。

確かに強いと思う。

隙は無かった。


僕はそっとため息を吐く。

女神も、転生やらいろいろと、手助けをしてくれているらしい。

あれだけの人がいれば、少しは気が楽になる。

彼らのような人がいれば、とんでも無い数の敵を前にしてもなんとかなるかもしれない。


一人で10億を倒そうと考えていた僕は、自分の無茶振りに自分で笑ってしまう。

そりゃ、無理だよね。

「頑張ってくださいね!絶対に勝ってくださいっ!」

ライナが真剣な顔をして、僕の手を握る。

「あんな先輩、張り倒してくれ」

レイアまで、いつの間にか女子生徒の包囲網を抜けて、僕の手を取っていた。

「二人とも頑張ってたから、僕も頑張るよ」

嬉しそうに笑う二人。


ちょっと気分がいい。

可愛い二人が僕の心配をしてくれる事も。

チート持ちの人間がこちらに何人もいる事が分かった事も。


10億と戦うためには、彼らの力は絶対に必要なのだから。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る