第17話繰り返しと、序曲

「ふう大漁だな。」

台車に、8匹詰め込み、ロープで括り付けながらカイルは笑う。

「大漁とか、そんなレベルじゃないような気がしますけどね。本当に、シン君のスキルは異常としか言いようがないです」

キシュアさんが、呆れた顔で荷台いっぱいのホワイトピックの山を見る。

「そして、これを持っていけるシン君の力もね」

レイアさんが僕の頭をガシガシと強めに撫でてくれる。

普段はもっと優しい撫で方なんだけど、でも嬉しく感じてしまう。

きっと、役に立っている。

「本当になぁ。半月分の稼ぎをほぼ一日で出してしまえるって、異常だよなぁ」

ガシガシ撫でられた後、ご褒美と言われて、ぎゅっと抱きしめられて、目をまん丸にしてしまう。

力いっぱい抱きしめられると、間に埋もれて息が苦しくなるんだ。

「今日は、一回帰るか」

カイルはジト目で僕を見ている。

けど、助けて欲しい。

本気で苦しくなってきた。

「じゃあ、少しだけ本当の休憩をして、帰りましょう。シンの連携練習でもしましょう」

「お、いいね」

不穏な会話が聞こえて来るけど、僕はやっと谷間から解放される。

必死に空気を吸う僕を見て、皆が笑っていた。




休憩も終わり。

さあ、帰ろうかと皆が立ち上がる。


けど。カイルが自分の剣に手をかける。

キシュアさんが索敵を始めている。

「どうしたの?」

僕は、二人を見る。

レイアさんも、自分の杖を握りしめている。

「嫌な予感がする」

カイルが、小さく呟く。

僕は地図を見るけど、地図には何も映っていない。


僕が首を傾げた時。

僕の目の前に突然光の壁が生まれた。

リィンと鈴が鳴るような音と一緒に、黒い刃がはじかれる。

空中を舞う、刃。

『絶対結界、自動発動』

頭の中で、声が聞こえる。


「ちっ!クナイだ!ゴブリンアサシンがいやがつ!」

カイルが叫ぶ。

二人の目つきが変わった気がする。

「上級モンスターが、来てんじゃねぇよ」

何も無い空中を斬りつけるカイル。


何も無いはずの空中に、血が舞い散る。

「お前ら」

レイアさんが唸る。

「霧よ!光よ!風よ!土よ!愚かに隠れる者の軌跡を浮かびあがらせ、その姿を、その動きを、全て示せ!新たな目となり、壁となり動きを縛れ!ダストミスト!」

レイアさんが叫ぶように呪文を唱える。

周りの景色が、うっすらと茶色によどむ。


淀んだ空気が、少し揺らぐのが見える。

揺らいだ場所を斬りつけるカイル。

「シン!空気の揺らぎは、あいつらが通っている印だ!あいつらは姿を隠せるが、この魔法なら位置の予測が出来るっ!斬りつけろっ!」

カイルが叫ぶ。


キシュアさんは、レイアさんよりさらに長い詠唱を始めていた。

「近くにいて」

レイアさんが、僕を引き寄せる。

分からない。

どこにいるのか。

何処から来るのか。


地図は相変わらず、綺麗なままだ。

ふと。何か嫌な予感がした。

直感で突き出した槍に、重い感触がする。

ギンと鈍い音を立てて、金属同士がぶつかる音がして。

再び音が無くなる。


リィン。光の壁が、レイアさんに飛んできたクナイを弾き飛ばす。

その音が合図とばかりに。

キシュアさんの咆哮が聞こえる。

「おまえらぁ!あの時の事!ぜったいに忘れるかぁ!許すものかぁ!イレイズっ!」

光りが爆発的に広がり。

光りが消えると同時に、2匹のゴブリンが姿を現していた。


スキル強制解除魔法。

使える人はほとんどいなかったはずだった。

凄い長い詠唱。

凄い長い集中力。

凄い多くの魔力を使うこの魔法は実践向きじゃないと言われている。

データベースにも、そうはっきりと書いている。

なのに。キシュアさんは、こんな短時間で言い切った。


普段は温厚なキシュアさんが、メイスを思いっきり振り回す。

メイスロッドが折れるっ。

僕でもそう感じられるほど、雑な動き。


カイルさんも、普段より明らかに大振りだ。

まるで、一撃でその心臓をえぐり出してやると言っているような。

レイアさんに至っては、カイルの攻撃を避けたゴブリンに、相手が見えなくなるまで、連続で火魔法を打ち続けている。


動けなくなったゴブリンに、深く深く剣を突き刺すカイル。

えぐるように剣を回し、斬り抜く。


死んだと思われるゴブリンに、レイアさんの魔法がさらに追い打ちをかける。


キシュアさんは、後ろからカイルに首を跳ねられたゴブリンに対して何度も何度もメイスを振り下ろしている。


そのキシュアさんの肩に、そっと手を置くカイル。

その手を感じたのか。キシュアさんが手が止まる。


返り血を浴びたキシュアさんは、ゆっくりとカイルを見る。

カイルは、そんなキシュアさんに頷き返していた。


皆息が上がっている。

たった、数分。

そんなに長く戦ってはいないのに。


「ごめんね、シン。怪我は無い?」

大きく息を吐いた後。レイアさんが僕の声をかけてくれる。


今まで、こんな皆を見た事は無い。

いつも冷静なキシュアさん。

いつも周りを良く見ているレイアさん。

的確に、相手の先を読むカイル。


そんな3人が。

僕でも分かるくらいに、めちゃくちゃだ。


腰を下ろして、落ち着いて来たキシュアさんが、ぽつぽつと話しをし始める。


「ごめんね。少し驚かせてしまったよね。僕には、昔、大事な人がいたんだ」

「パーティメンバー」

レイアさんがボソリと呟く。

「すごく好きでね。結婚も考えていた」

「だがな、、ちょっとした討伐依頼を受けた時だった」

「出て来たのよ、、、こいつらが」

「クナイで、一撃」

その言葉を聞いて、僕はビクッとしてしまった。

地図にも反応が無かった。


つまり、光の壁。絶対結界が発動しなかったら、僕も死んでいたと言う事。

「あの頃は、俺達には何も出来なかった」

「切り刻まれるカイルに、回復をかけるのが精いっぱいで、アリンまで回復が間に合わなかった」

キシュアさんの声が。


「勝てないと分かった私たちは、、、彼女を見捨てた」

「これだけ。彼女が最後に渡してくれたのは、これだけだった」

キシュアさんが、胸にいつもつけている袋。

「彼女の髪が入っている」

「昔の話だ」

カイルは、空を見るけど。


引きずっている。

絶対に。

でないとあんな無茶苦茶にはならない。

それが分かるくらいには、3人と一緒にいたのだから。


ゴブリンアサシン。

そんな暗殺特化の魔物がいる事に、そして、勝てなかった、助けれなかった悔しさで。


あんなに、必死なんだ。

この人達は。

世界に、数人しか覚えていない、イレイズや、超高難易度と言われる、混合魔法ダストミストを覚えるくらいに。

帰り道。僕は彼らに何も話しかける事は出来なくて。

無言で町へと帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る