第18話悲しみの螺旋

「おい。ちょっと待ってくれ」

僕たちが帰って来た時。

門番の兵士に呼び止められてしまった。

「カイル、、お前の背中に担がれているのは、、ゴブリンか?見た事もない奴なんだが、、」

兵士が、不思議そうな顔をしているのが見えた。

「ああ。。こいつは、、ゴブリン、、アサシンだ」

カイルの声がやけに低く感じる。

ズタボロに切り裂かれたそのゴブリンは原型をとどめてはいないのだけど。

「は?すまん、、もう一度言ってくれるか?」

「だから、ゴブリンアサシンよ」

レイアさんの声もどこか疲れている。


「ちょ、、ちょっと待っててくれ!」

門番の兵士さんは、慌ててどこかへ走り出していた。

普段優しいし、冷静だと思っていた兵士さんがとんでもなく慌てている。


「それを持ったまま、ギルドへ来てくれとの事だ」

兵士さんは戻ってくるなり、息をきらしたまま必死に声を出している。

僕は、とんでもない事になったのだろうかと、冷や汗が出て来るのを押さえるので必死だった。


「ゴブリンアサシン、、、だな。確かに」

「特A指定の魔物ですよ!」

「魔物じゃない、、魔人だ」

ギルドに入るなり、カイルの背中に担がれているゴブリンを見て、ギルドの職員全員が、茫然とした顔をしている。


「本来なら、Bランク以上が討伐に行くはずなのだが、、そうか。君たちか」

ギルドの職員さんが、カイル達を見て頷いている。

「どうしましょうか、、低ランク冒険者の狩り禁止とか、、」

「いや、もう討伐されているのだから、そこまでは必要ないと思うが、、探索は必要だな」

ギルドの職員の一人が真剣に考え事をしている。

「あれが、ここのギルドの管理者なのよ」

レイアさんが、こっそりと僕に教えてくれる。

「私たちの後輩なんだけどね」

それは、、聞きたくなかったかも。


だって、どう見ても、目の前のおじさんの方が、カイル達より年上だから。

「封鎖処置はしなくていい。ただ、ゴブリンアサシンが出たという事実と、探索の再度依頼をお願いすることにしよう」


本来なら、ゴブリンアサシンを確認したら、低ランクの冒険者を外に出なくしたり、その地域全てを封鎖して、近づかなくさせる必要があるらしい。

その上で、Aランク、もしくは、Bランク冒険者が討伐に向かうとの事だった。


上位がとか言っていたカイルの言っていた意味が分かった気がした。

けど、理解は出来る。僕のマップにも映らない魔物だ。

普通なら、気がつかないまま殺されてしまう。

というか、、あの日、冒険者が異様に少なかったような気がしたけど、、


「蘇生の魔法なんて、便利な物は無いからな。全冒険者に注意喚起を」

おじさんは、真剣な顔で、ギルドの受付を行っている人へ声をかけていた。

「あと、未帰還の冒険者はいくらいる?」

その言葉が、、あの時、あの草原で起きていた事を意味していた。


「それはそうと。ゴブリンアサシンの討伐おめでとうございます。もう一度、上がるつもりは無いですか?」

おじさんは、カイル達を見て、目を細めていたけれど。

3人全員に首を振られて悲しい目に変わっていた。


「発見されていない、ゴブリンの巣があるかもしれない。何かあれば、お願いできないだろうか?先輩たちにはできれば、町で待機してくれると本当にありがたい。上位ランクの冒険者が今はいないんだ」

おじさんは、その後で、カイルたちに頭を下げていて。


カイルたちは、条件付きで受け入れていた。


「シンは、冒険者になりたいのかい?」

キシュアさんが、ご飯を食べている時に聞いて来る。

「今は、考えてないかな」

僕が返答するも。

「君には才能があるとおもうからね。もし興味があるなら、冒険者学校に通ってみたらいい」

「冒険者学校?」

「そう。昔の英雄っていわれた人が作った、冒険者を育てるための施設だよ。学校が出来てから、冒険者の死亡率はぐんと減っているからね」

「そうだな。学校に行くのが一番か」

カイルが真剣な顔をしている。

「あの剣術馬鹿は、学校なんて行かないって意地はって、すっごく冒険者の資格を取るのに苦労したのよ」

「うるさい。俺には、学校とか仲良しごっこは苦手なんだよ。俺には、これ一本あればいい」

剣を指すカイルに、何故か温かい目を向ける二人。


「勉強をしたくないだけでしょ」

「筆記があるって聞いた瞬間、断固拒否しましたからね」

この3人は、いつからパーティを組んでいるんだろう?

僕の考えを感じ取ったのか。

「腐れ縁ですよ」

キシュアさんが笑って答えてくれていた。


そんな中。突然木を叩く音が響き渡る。

「緊急招集?さっきの今で?」

レイアさんが驚いた顔をしている。

「地図、検索、冒険者」

僕はぼそりと呟く。

町の中央の広場が、緑色に染まっている。


「皆広場に集まっているみたい」

「行ってみるか」

カイルの言葉に、皆が席を立つ。


「緊急事態であるっ!」

僕たちが広場に行くと、黄色い鎧を着た兵士が並んでいた。

その兵士達の一段上には、蒼い線で縁取られた鎧を着込んでいるおじさんがいた。


「防衛兵団?来てたのか?」

「王都の守りをしているはずなのにどうしてこんな辺境にいるのかしら」

二人が首をかしげていると。

「先日!我々は、徹底的な調査をしていた所!森の中でゴブリンの巣と思われる洞窟を発見した!ゴブリンごときに遅れをとる我々ではないが、王都の法にのっとり、我々に強力してくれる冒険者を募集する!」

「ああ。そういう事か。あいつら、調査と言う名で辺境への訓練遠征に出てたのか。皆新兵だな」

カイルがぼそりと呟く。

「僕たちの殺気にまったく反応しないものね」

キシュアさんも、何仕掛けてるの?

とは言っても、僕も気が付かなかったけど。


「2週間後!大規模討伐を行う!全員の参加を望むものであるっ!」

おじさんの話が終わると、拍手と、ため息と、いろいろな声が漏れる。


「強制依頼かよ。やる気にならないなぁ。ギルドの依頼のが旨いんだよなぁ」

「それはそうと、、隠しましたね。彼ら」

キシュアさんの声が怖い。

「ゴブリンアサシンがいるかも知れない。それだけで、難易度は跳ね上がります。きっと、彼らだけで一回洞窟に挑んだ可能性が高いですね」

「で、返り討ちにあったと」

キシュアさんが笑って肯定する。

「それが一番しっくりしますね。藪をつついて蛇を出すとは」

「それを聞いたら、もっとやる気が無くなったわ」

カイルのボヤキはとまらなかった。

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