第16話新しい日常
いつもの朝。シスターの二人は、顔を見合わせていた。
「私たちは、、どうするべきなのでしょうか」
悩み抜いた。それでも答えは出なかった。
「全ては唯一神である、ローダローダ様のおぼしめしなのです。あの子が来て。私たちは、その日の糧をえられるようになりました。しかし、あの子には、あの子の夢が、人生があるのです。私たちが縛る事はできません」
元気に走っていく少年を見ながら、呟くように答える。
「あの子が進みたい道を見届けるのが私たちの役目。神の御心のままに」
穏やかにもう一人のシスターを諭す。
「けれども、それでも。私は神父として、この教会に。孤児院に残っていただきたいと思っているのです。何も、危ない事に挑戦しなくても良いとは思いませんか?」
「私も、安全に、安心に過ごしていただきたいと願っているのですよ。でも、彼は、きっとそれでは収まらない。そんな気がするのです」
晴れない表情をしたまま、消えていった後姿を見続ける二人のシスター。
シンは明らかに冒険者に憧れている。
今も冒険者から買ってもらった
怪我だけは、しないで帰って来て。
シスターの二人の思いはそこだけ同じだった。
僕が炎の楔の人達と一緒に行動するようになって、半年は経った。多分。もうすぐ、12歳だと思う。
自分の誕生日を正確に覚えていないから、かなり適当だけど、あまり気にはしていない。
僕にとっては、今日は特別な日だ。
半年続けていた、配達の仕事も今日で終わり。
回復の仕事も別の子が回復魔法が使えるようになったから任せている。
僕は、明日から炎の楔の専属荷物持ちとして、本格的に働く事にしたんだ。
僕のスキルを伝えから、地図を活用するようになって、僕の受け取り額がとんでもない事になっていた。
「旨い獲物を正確に、定期的に狩れるのが、でかいよなぁ」
カイルはそんな事を言いながら、にまにましている。
ウサギ狩りをして、配達をして。
それでも、金貨(100万)までいかなかったのに。
最近では、月終わりに金貨に手が届きそうな時がある。
4人で分けているのにである。
カイルが、キシュアさんに借りていた酒代は全て返し終わったらしい。
それでも、飲みにいけるくらいの稼ぎは出ている。
「やっとキシュアに金返せって言われなくて済むぜ」
「私も言わなくて済むようになって、ほっとしています」
二人の会話がちょっとシュールだった。
「あとな、、言い難いんだが、俺達王都に戻ろうと思っているんだ。その、、な。引退気味にして、ちょっと家庭をつくろうかなぁ、、と」
照れながら話すカイル。
「ずっと頑張って来たから、少しゆっくりしたいの」
そんなカイルの腕に手を絡ませ微笑むレイアさん。
いろいろあって、レイアさんは僕も好きだけど。
でも、いつも見ているから分かる。
カイルには絶対勝てない。悔しいけど。
でも、王都に帰るなら、カイル達と僕は一緒にいられなくなる。
だからこそ。僕は彼らと一緒に少しでも長い時間を過ごしたいと思ったんだ。
シスターさんとも何度も話し合いをした。
冒険者と一緒にいる事でどんなに危険な事に巻き込まれるか、さんざん説教もされた。
それでも。
僕は彼らと一緒にいる事を選んだんだ。
「シンが手伝ってくれて、本当に助かったよ。今までありがとうね」
最後の仕事が終わった後、女将さんは笑顔で笑ってくれた。
最後の賃金と、肉のスープの肉の量がいつもより多かった。
「餞別だよ。魔物退治ばっかりやるんだろ?怪我するんじゃないよ。頑張りなっ」
「今までありがとうございました」
頭を下げる僕に。
「ほら、行っといでっ!」
女将さんは、少し涙目で僕の背中を力いっぱい叩く。
そんな事を思い出しながら、カイルたちとウサギを追いかけまわす。
けどね。女将さん。あの時の一撃、イノシシの一撃よりも痛かったよ。
そんなある日。
「よしっ。引っ越しの金も稼ぐ必要があるし。今日も頑張るかぁ」
カイルは笑いながら、剣を肩に担いでギルドから出て行く。
「はいはい」
「さあ、行こうか。シン」
二人も笑いながらついていく。
「ねぇ。カイル。今日はおすそ分けとかある?」
「おう。数が取れたら、依頼とは別に俺達も食おうぜ」
よし。
僕は小さくガッツポーズを取る。
今日の依頼は、近くに現れたホワイトピックと呼ばれる白いイノシシの討伐。
白豚って名前がついているくらい、肉が旨い。
5日くらい、ホワイトピックのステーキを食べ続けられるくらい美味しい。
「地図。ホワイトピック。検索」
地図に、いくつか赤い点が生まれる。
群れがいる場所がある。
「こっち」
僕の誘導で、皆は動き出す。
「本当に、シンの索敵は反則だよなぁ」
「魔力の節約になるから、大歓迎です」
カイルとキシュアさんが笑っている。
僕は、胸を張って皆を誘導する。
けど、いつもより、冒険者さんの数が少ないような気するのは僕の気のせいだろうか。
目の前に白い影が見えた時。
カイルは僕を追い抜いて、ホワイトピックの頭に一撃を入れて仕留めていた。
本当に早い。僕はまだ、槍を構えてもいなかった。
「次っ」
『なんだっ。なんだっ』
ホワイトピックが騒いでいるのが聞こえる。
「風よ。大地よ。その力をわが友へ。我が友を守る盾となり、我が友の道を開きたまえ。身体強化!」
キシュアさんの身体強化とともに、カイルは次の獲物の首を斬り落としていた。
僕が槍を構え、突撃体制を作る頃には、6匹近くいた群れがほとんど倒されていた。
僕は皆の役に立ちたくて。カイルの背中から襲おうとしていたホワイトピックに槍を突き立てる。
けど、思ったよりも深く刺さり過ぎた。
「馬鹿ッつ。刺しすぎだっ!」
カイルが怒鳴るのと。
ホワイトピックが、体を振って僕が飛ばされるのと同時だった。
「よっと」
空中に放り出されていたけど、カイルに受け止められる。
ふと見ると、僕が槍を深く差したホワイトピックは、胴体が真っ二つになっていた。
珍しい。
値段が落ちるからと、カイルは大体首を落とすのに。
「次、俺はこう動くから、深く突くんじゃなくて、こう。バシッとやるくらいでいいんだよ」
そう言うカイルの目が少し泳いでいる。
「シンが心配で雑になってるじゃない。まぁ、こういうのは経験よ。経験。最近、連携も様になってきてるじゃない」
レイアさんに笑いながら頭を撫でられる。
思うように動けなかった。
僕は刺さったままの自分の槍をじっと見るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます