第15話後継者

「本当に。あの子、頑張り屋さんよね」

「ん?シンの事か?」

シーツが擦れる音がする。

「そう。あの年で、回復。風魔法、多分、土魔法も使える。そのうえで無詠唱。天才よね」

レイアと、カイルはお互いの額をくっつける。

「それを言うなら、武器の近接攻撃もイケル口だと思うぜ。今はまだまだだが、なんていうか、体の使い方が上手い。あいつは将来、Aランクに成れる」

カイルは、レイアを引き寄せる。

「あの子を見てたら、子供が欲しくなっちゃった」

小さく笑うレイア。

「あいつの世話がひと段落したら、王都に移動して、引退気味にゆっくりするか。新人の教育でもしながらさ。キシュアにも話をしてみる」

「いいわね。それ」

「キシュアは、断らねぇだろうな」

「彼こそ、先生になりたがっているから」

二人はくすっと笑うと。

お互いの口をむさぼるのだった。




「さて。これからは、実戦だ」

突然、カイルが笑いながら宣言する。

「あれをやる」

指さすのは、カイルたちがあっさり倒しているイノシシ。

うん。でもね、、、

僕の4倍くらい大きさがあるんだけど。

「お?腰が引けてるぞ。大丈夫。そんなに強くないさ。俺達がいつも狩りしてるやつの一つ上の奴だけどな」

いや、カイル達が倒してるイノシシよりも、一回り、絶対大きいって。

怖い。


「ほら行くぞっ!」

ポンと、槍が手渡される。

思わずそれを握ってしまった僕は。

「強化魔法をかけるから、すぐに一撃を入れて、下がる事」

キシュアさんの声を聞いてしまう。

え、え?

僕が切り込み役?!

「安物の槍だから、捻るなよ。刺したら引く。捻ったら折れるぞ!」

カイルの怒鳴り声と。

「行くわよっ!」

レイアさんの掛け声。

「ファイアボール!」

足元に火玉が着弾。

同時に、僕の身体が一気に軽くなる。

怒ったのか、こちらに突っ込んでくるイノシシ。

「おらぁ!いけぇ!」

カイルの声に、いや実際に突き飛ばされるように押されて僕は走り出す。

体が軽い。

目の前にいるイノシシに、無我夢中で槍を突き出す。

鈍い手ごたえとともに、目を貫く。

「力いっぱい引けぇ!」

カイルの声に、素直に体が動く。

傷を負ったイノシシが体を上に向け吠える。

そのイノシシの上を、黒い影が通り過ぎる。

イノシシが足を着けた時。その頭が落ちた。

カイルがロングソードを振り。

血を飛ばしている。

速すぎる。まったくカイルの動きが見えなかった。

「うん。お前は槍だな。ハルバードの方が使い易いかもしれん。今度一緒に買いに行くか」

イノシシの目の傷を見ながら、カイルが呟く。


僕はというと。

始めて大物と目の前で対峙した緊張と、恐怖で、体に力がはいりまくっていたのを感じて。

そのまま座り込んでいた。


「良く頑張りましたっ!」

レイアさんが、僕を抱きしめて、頭を撫でてくれる。

「練習も、次に進んでよさそうですね」

キシュアさんが何か、考えている。絶対良くない事だと思う。


「次は、斬り込みから、避け、支援から、回復。まあ、連携だな」

カイルから、とんでもない発言が出て来る。

出来るわけないよ、、、、。






「違うっ!大振りにするな!隙が出来るっ!」

「回復が遅いよっ!もっと周りを見てっ!」

「風魔法で、相手を押し返してっ!あなたなら出来るからっ!」

3人が怒鳴るように声をかけてくれる。

その声を聞きながら、僕は魔物を突き。払い。

魔法を使い、カイルに回復をかける。

「右側に寄ってくださいっ!逃げ道を塞いでっ!」

キシュアさんの指示はいつも的確で。

逃げれないと悟った魔物はカイルさんへと突っ込み。


一刀両断されていく。

戦闘中は、怒鳴り、激しい口調だけど。

戦闘が終わったら、レイアさんに抱きしめられて、ぎゅっとしてくれる。

出来ない事は、徹底的に反復させられる。


命のやりとりである事を、その空気を体で感覚で覚えていった。


「人はね、どんなに強くなっても、どんなに有名になっても、一瞬で死ぬんだよ。一秒もあれば、一瞬でも気を抜けば。死ぬんだよ。だから、僕たち回復役は、魔法の扱いに長けていないといけない。支援魔法は消える前にかけ直す。回復魔法は、空白の時間を考えて使用する。一秒。下手をしたら、半秒空白があれば、人は死ぬよ」


「派手に魔法をバラまくのは禁止ね。威力の高い魔法をバラまいて、相手を見失ったら終わり。自分か、仲間が、死んでるわ。魔法は、前に言った通り。2段階、3段階の構成で倒して行く事。どんなに強力な魔法を覚えても、その事は忘れないでね。牽制は、必ず行う事よ」


「仲間の前に立つ時は、覚悟を決めろ。仲間を絶対に信頼しろ。自分が仲間を疑った時、信用しきれなかった時、自分の命は終わる。前に立つ者が倒れた時。それは、後ろに立つ者の命が終わる時だ。絶対に忘れるな」


3人が教えてくれるのは、覚悟。

相手の命を奪うために、命をかけているという事実。


逃げ方。避け方。魔法の使いどころ。

攻撃のタイミング。

3人についていくために、必死に覚える。

逃げきれなくて、絶対結界を発動させることもたびたびあった。


地図から、他の魔物が近づいている事を教える事もあった。

そんな僕のスキルを3人に教えた時。

3人とも、口をそろえて。

「絶対に、他の奴には話すなよ」

釘を刺されたのだった。



大変だけど。すっごい楽しい時間が、凄い速さで過ぎていったのだった。

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