第109話 残念剣士

「このベア様と勝負しろっ!」

突然突き付けられた剣を見ながら、どうしようと思う。

「ダメです。マスター」

思わず一撃で仕留めようとしていた手を、ミュアが抑える。

少しだけ震えているミュアの手を感じて、すこしだけ冷静になれた。

危ない。セイの村の事を聞いて、腹が立ちすぎていて。

思わず殺す所だった。


「なんだ!おじけづいたのかっ!やはりその程度かっ!」

挑発してくるのはいいんだけど。

ベアと言った冒険者の足が震えてるのは気のせいじゃないと思う。

僕は小さくため息を吐くと。

風魔法を発動する。


「あら。今日は暴風注意報でしたかしら?」

受付のお姉さんがにこやかに呟く中。

ベアはギルドの天井を回っていた。




「くっ!まさか、竜巻が突然おきるとは!風のいたずらに感謝する事だなっ!次に会ったときは、容赦しない!」

それだけ言い残して走って行くベア。

「あれ、本気で言ってるから、面倒なんだよなぁ」

誰かの声が、聞こえて。

「あいつ、しつこいからなぁ」

大きく肩を落とすのだった。



「シュンリンデンバーグ!」

宿から出ると、目の前にベアがいた。

「ミュア、今日は、すこしだけ買い物をしようか」

「はい!嬉しいです!」


「俺を無視するなぁ!」

ベアが声を上げながら剣を振り下ろす。

次の瞬間。

ベアは天高く飛んでいた。



「シュンリンデンバーグっ」

次の日も、目の前に剣士が立っている。

右手に包帯が巻かれているのは、気にしたら負けなんだろうか。

「この人、、、」

ミュアが本当に残念そうに彼を見ている。

「2度も風のいたずらに邪魔されたが、今度はそうはいかないっ!今度こそ正々堂々と戦ってもらうぞっ!」

言い切ると、剣を、、、

「ぬ、、、ぬけなっ、、、、」

利き腕、吊られてるからねぇ。


「くっ、すまないが、、剣を抜いてもらえないか?」

おい。

対戦相手に頼むな。


「はい。どうぞ」

「すまない、助かった」

素直に、剣を抜いてあげるミュアもどうかと思うけど。

「さぁ!尋常に勝負っ!」

左手で剣を振りかぶって。。。。。


「ぴぎゃらっ!」

お空へと上がって行った。




「暴緑っ、、、、」

4日目。

もう何も言わない。

というか、暴緑といわれているんだから、気づくよね。

風魔法が得意なんだって、普通気が付くよね。

「しょうぶ、、、を、、、、」


包帯だらけだけど。

とりあえず。

彼は飛んだ。




「流石にもう来ませんね」

ミュアが少しだけ残念そうな顔をする。

5日目。

彼は姿を見せなかった。



「あっ!シュンさん!」

ギルドに入ると、受付のお姉さんが、笑顔で手を振ってくれる。

「休暇は楽しめましたか?」

「ベアにずっと対戦を頼まれてた」

ああ、、、、

残念そうな顔をするお姉さん。

「あ、でも、もう大丈夫かもですよ。ベアさん、竜巻に勝つんだって、風を切る練習を始めたみたいですから」

なんだそれ。


「何でも、突然生まれた竜巻に3度も巻き込まれて、悔しい思いをしたから、今度は、風を切ってやるそうです」

なんというか、、、4度だけど、、、

あれだけの怪我をしていながら、タフというか、、、、

「でも、、いつか本当に斬りそうで怖いんですけどね。あの人、、いろいろと、アレなので、、、」

その意見には、納得だった。



「それよりも、少し気になる依頼が出ているの」

あっさりと話題を変えるお姉さん。

「気になる依頼?」

「そう。ただの調査依頼なんだけどね。前にシュン君が行ってくれた、農場があるじゃない。あそこからの納品が滞っているらしいの。手紙の返事も無いって。だから、ちょっと調べて欲しいっていう依頼なんだけど」

あの人のいい親子か。

「カイナちゃん、元気でしょうか?」

「ダンさんもね」


依頼を見てみると。

大銅貨3枚。

3千で、命をかける人はいないよね。

僕は了承のサインをするのだった。


ーーーーーーーーーーー

ベアさん。

実はこの先、本当に風を斬れるようになって、【風斬】のベアと呼ばれるようになります。

けど、もう出来て来ません。

ええ。絶対に出て来ません。

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