第108話 帰還と現実
「おかえりなさい!」
王都のギルドに入るなり、受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれる。
「何も無かった?大丈夫だった?」
すごく心配するお姉さん。
「何かあったのでしょうか?」
ミュアが心配そうに声をかけてくる。
ミュアと顔を見合わせていると。
「よぉ。荒稼ぎしてるみたいじゃねぇか。ちっと先輩におごってくれてもいいと思うんだが?」
突然肩に手を回される。
相変らず、酒くさいなこのおっさんは。
「ダルワン。少しは、控えたらどうだ?」
「あ?なんの事を言ってるんだ?」
とぼけるダルワンの手に持っている水筒を指さしてやると。
「お前は俺に死ねっていうのかよっ。これは俺の血だっ!」
一気に水筒をあおる。
ドワーフかよ。
呆れていると、そっとダルワンの顔が近づく。
「セイの村が壊滅した。お前が砦を出てすぐの事だ。何か知ってるか?」
僕は、ちいさく頷くしかない。
あの状況で。村の人は本当に打ちひしがれていた。
「軍が、あの村を壊滅させたという話も上がっている。お前さん、まさか、討伐に参加してないよな?」
は?
それは知らない。
「知らないならいいんだ。お前にいろいろ聞いて来る奴もいるかもしれないが、知らんふりしとけ。それとお前な。4Sから名前が出ているらしい。気をつけろよ。あいつらは、何処かおかしいからな」
「ははは!なんだよ!そんなに稼いでるなら、少しくらいおごれや!なんなら、ミュアちゃんが横にいてくれるだけでもいいんだぞ!」
背中をバシバシ叩いて来る。
それだけは絶対拒否させてもらう。
酔っ払いの横に、ミュアを置いておけるか。
「まあ、ちっと俺も今忙しくてな。また、今度おごってくれや」
それだけ言うと、ダルワンは、ギルドを出て行く。
「相変わらずの飲んだくれだよな」
僕が苦笑いをすると、他の冒険者も笑っている。
ただ一人、受付のお姉さんがだけ真剣な顔をしていた。
「また、飲み逃げです」
なんだか、仕方なく。
僕は、ダルワンの酒代を払っていたのだった。
「これが、報酬ですね、、報酬なんですが、、、」
受付のお姉さんが困った顔をしている。
「ギルドに預けませんか?」
「そうしようと思ってました」
思わず、丁寧口調で返事を返してしまった。
バルクルスさん!!!
報酬は払うって言ったけどっ!
金貨100枚とかっ!
金貨一枚10万だよっ!
1000万とか、報酬じゃないからっ!
怖いからっ!
「では、手続きをさせて頂きますね」
気のせいか、受付のお姉さんの手も少し震えていた。
「シュンリンデンバーグ様!ギルドマスターがお呼びです!」
突然、少し高い声に呼ばれて顔を上げると、新人の子が顔を真っ赤にしていた。
「あら。もしかして、これの事かもしれないですね」
報酬金額を見ながら、呟くお姉さん。
まあ、、、ね。。
僕は返事をすると、ギルドの2階へと上がるのだった。
「おお。来てくれたか。シュンリンデンバーグ君!」
2階に行くと、ギルドマスターと呼ばれている人が立っていた。
学校の挨拶の時に少し顔を見たくらいだったような気がするけど。
「改めて、挨拶をさせてもらおう。ギルドマスターのマッシュだ」
その名前は納得が出来る。
筋肉と言ってもいいくらいの筋肉の塊だった。
リンダは、ボディビルダー的な筋肉で。
このマッシュさんは、格闘技的な筋肉の付き方。
上手く言えないけど、そんな感じだった。
「まあ、そんなに緊張しないでくれ。少し聞きたいんだ。西で何があったのか」
椅子に座るギルドマスター。
大きな体を丸めながら椅子に座る姿は少しだけ可愛かった。
「で、大進攻があったと、、、」
リンダの依頼、砦での事。
そして、大進攻の事を話していると。
手を出して言葉を止められた。
「それ以上は、俺が知るといろいろ面倒な事になりそうだからいい。それよりも、そんな事があったからの、この報酬額か」
ギルドマスターの前に置いてあったのは、バルクルスさんからの書状だった。
「国庫から出してもらっていいとか、初めてみたぞ。こんな手紙」
ギルドマスターがため息を一つつく。
そういえば。一つだけ気になっている事があった。
さっきダルワンが言っていた事だ。
「ギルドマスターさん」
「マッシュでいい」
「えと、マッシュさん、一つ聞きたい事があります。セイの村が壊滅したとの事でしたが、僕が行った時にはまだ村の人はいました」
討伐とか言っていた。
まさか、、、ね、、、、
ギルドマスターは、少しだけ天井を見る。
「あの村が、どんな状況であったか、君は知っているのか?」
小さくうなづく。
僕の顔を見ると、ちいさく頷くと、ギルドマスターは口を開いた。
「奪った者はいつか奪われるものだ。それが、いかなる理由があってもね。奪う者の拠点は、潰しておかないと、また奪われる者が現れる」
その言葉に。
僕は言葉を失ってしまう。
こいつら、、、、やりやがった、、、、な、、、
怒りで思わず席を立ちあがる。
「彼らが襲ったのは、彼らを助けるために送られた商隊だった。それも、2回も。護衛には騎士がついていたが、騎士は村人へは、国の民には手を出せない。それが、犯罪者であってもね」
ギルドマスターの目が真剣だった。
「だから、こそ。盗賊一家に優しくできるほど、この世界は甘くはない。盗賊はその場で討伐されるか、奴隷落ちか。拠点を作っていたのなら、その家族も同罪だ」
穏やかに。
しかしはっきりと言い切るギルドマスター。
盗賊に襲われた馬車。
殺された人は確かに見た事がある。
怒りも湧くし、人としてゴミだと思う。
だけど。
あの村には。
お父さんの帰りをずっと待っている子がいるんだ。
どうしようもない感情を持て余していると、ミュアが僕の手をそっと握ってくれる。
「今回は、村ぐるみでも盗賊行為と言う事で、速かったよ」
震える手をどこに持って行く事も出来ずに。
僕はギルドマスターの部屋を出る。
「優しさをはき違えないでくれよ。シュンリンデンバーグ君」
ギルドマスターの声は、僕には届かなかった。
【ギルドマスター】
「まだ、若いな」
「それが、良い所もあります。あの子の場合。危ういですが」
カーテンが揺れた時。
そこには一人の女性が立っていた。
「暗部、、か。あんな子供に付き合っているとは、有名になったものだな」
「彼は、危険です。4Sに匹敵する力と、あまりにも未熟な心。
虐殺を好む性格。止めれる時に止めないと手遅れになると判断しています」
「だから、監視していると」
ギルドマスターが、小さく呟くと。
「マッシュ様も、あまり彼に関わらないようにしてください。
いくらマッシュ様といえど、対処しなければならなくなります」
「それは、忠告かい?」
「いえ。これは、親告です」
「そうか」
マスターの呟きと同時に、女性の姿は消えていた。
「シュンリンデンバーグ。君も、背負う者になるのか」
ギルドマスターの呟きは、誰にも聞き取れなかった。
「シュンリンデンバーグ!」
2階から降りて来た僕に、剣を突き付けてくる奴がいた。
「お前が、暴緑かっ!私と戦ってもらおう!」
激しい声で、叫んでいるのはどうみても駆け出しと言ってもいいくらいの冒険者だった。
周りの冒険者が、全員苦笑いと、なんとも言えない顔をしている。
「この、ベア様と、勝負しろっ!」
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