第107話幕間 ロア

【ロア】


僕は王の間に呼び出されていた。

荘厳な謁見室の中で、王は鮮やかな赤のマントを見にまとい、きらびやかな王の玉座に座っていた。

金色の髪が、本当の神様のように光ってみえる。


「わざわざ来てもらってすまないな。ロアよ」

王が穏やかな口調で話かけてくれる。

頭を下げたままの僕は、すぐにでも返事をする。


ライナと婚約して。シュリフ家の人間となった。

自分の実は貴族の末席の生まれではあったけど、遥か昔から騎士団を任されてきて、現在、家の主が騎士団長を務めるシュリフ家とは、家の格がまったく違う。

侯爵と、騎士伯くらい。

シュリフ家に入ると言ったとたん、両親は盛大なパーティを開くとか言い出した。

それは、シュリフ家の方でやるから、待ってくれと抑えるのが大変だった。

下手に小さいパーティにでもなろうものなら、うちの家がつぶれてしまう。

変なフラグを建てないで欲しいと、本当に思う。


で、何故王との直接謁見を行っているのかというと。

まったく分からなかった。


「どうだ?シュリフ家の居心地は?」

少し王が笑っているようにも見える。

からかっているのか。

「いえ。この身に余る幸せで。大変良くしていただいております。愛する人もいますが故、毎日が充実しております」

その返答に満足したのか。何度も首を振る。


「そちに、ナンの村への遠征をお願いしたのは実は私でな。で、、だ」

王の口調が変わった事に気が付いて僕は顔を上げる。


「シュリフ将軍の婿どのをお披露目したいと思ってな」

その言葉に、僕の思考は停止してしまった。


お披露目?まさか、、、

「パレードを行い、送り出してやりたいと思っての。あのシュリフの婿だ。しかもシュリフが、時期騎士団長の器とか言い出しおっての」

「王、、それ以上は、、、」

「ははは。謙遜はいらん。それほどの男なのであろう?ならば、私からも祝福をしてやろうと思っておるだけじゃ」

静かに、僕は再び頭を下げるしかなかった。

ガチガチの英雄フラグじゃないか。

けど、このフラグは流石に折れない。

王の言葉を拒否したら、ライナの立場も怪しくなる。


「謹んで、、、、」

その返答しか僕には用意されていなかった。




ロックバードに乗ったライナと、横に別のロックバードに乗ったレイアを連れて、僕は街の中にいた。


「あれが、新しい婿様よ」

「ロア様じゃない!やっぱりカッコいい!」

「ロア様なら仕方ないわよねぇ。ライナ様が羨ましい」

そんな声が聞こえて来る。


注目を浴びながらロックバードに揺られてゆっくりと歩く。

金ぴかの装備を渡されなかった事が唯一の救いかもしれないと思いながら。

「ロア様?もう少し派手な装備でも良かったのではありませんか?」

商人のバングが話しかけて来る。


奴隷からナイフまで。

取り扱わない商品は無いと言うくらいの大商人だ。

以前、奴隷を扱ってひどい目にあったらしく、ここ最近は奴隷の取引は抑え気味らしいのだが。


元々、西の物資の補給隊のとりまとめをしていたらしいのだが、今回から、僕の部隊の専属商人に任命されていた。

凄腕なのだろうと思う。

あまり作物が育たなかったという状況の中で、あっさりと今回の遠征の物資をそろえてみせたのだから。

騎士団長の父上も驚いていた。


噂では、どこかの支援物資を一部抑えたために生まれた余裕との事だったのだけれど。

「なんでしたら、今からでも、王のマントに匹敵するものをご用意できますが?」

バングが笑っている。

「大丈夫。僕はお飾りの神輿になるつもりは無いからね。僕は僕だ。飾る必要は無い」

「そうですか。ロア様の初のご出陣ですからな。私も舞い上がっているようです。ですが、必要な時に、必要な神輿がいる時もあります。その時は、遠慮なく着ていただきますよ」


気さくに話をしてくるバング。

彼はこう見えて、騎士と一緒に剣も使えるらしい。


「ロア様の晴れ舞台ですから。私ももう少しロア様は着飾っても良いと思いますけど」

ライナが横で笑っている。

婚約して。シュン君には申し訳ないけど、彼女たちとは夫婦のようにさせてもらっている。


この世界。婚約しようか、婚前であろうが、結ばれても気にしないという風潮があるのは、死がすぐそばにあるからだろうと思う。

むしろ、初めては重いと言う人までいるくらいだ。

自分も、相手もいつ死ぬか分からない。

この世界は、本当に厳しい。


「死なせない」

あらためて、隻眼の聖女ライナと、白火の魔女 レイアの二人を連れて、王都を出発したのだった。





【王城にて】

「行きましたな」

「うむ。新しい英雄の出立だ。良きパレードであった」

王と、髭を蓄えた騎士団長。シュリフが城のバルコニーからパレードを見送っていた。


「それはそうと、セイの村。あれでよろしかったのですか?」

「セイの村?ああ。あれか。知らん。バングが勝手にやった事だ」

「セイの村へ落としていた物資を全てカット。その分ルートを替えて、到着時間を早めるように野営地の新設。結果として、すさまじいほどの節約をしていましたが、、末恐ろしい商人ですな」


「あの会計を見た時は、儂ですら目を見張ったわ。いくら不作とは言え、盗賊まがいの事をしおって。王国御用達の商人をセイの村へ支援として送ったのにも関わらずな」


ギリっと歯ぎしりをする王。

よほど腹に据えかねていたらしい。


「浮いた分、そちの愚息に使うと良かろう。盗賊や強奪まで行う村の面倒など見る気も起きぬ。もし、今以上に予算が浮くようなら西の砦を城塞化するのも良いのではないか?」

「王のご厚意には感謝しております。西の愚息より、未曾有の大進攻をなんとか食い止めたのは良いのですが、いろいろとにぎやかになりそうだと手紙が来ておりまして。頭を悩ませておりました」

「そちは優秀な子供ばかりで、果報者よの。物資移送の邪魔になるかもしれん。盗賊の村など討伐してくれてもかまわんぞ。しかし、婿どのはとても仲が良いと聞く。孫に囲まれるのも、そう遅くなさそうであるな。シュリフよ」

「まだまだ。前線に出ても良いと自負しておりますゆえ。爺とは呼ばせる気はありませぬ」

「ははは。気ばかり若いと、若い世代に嫌われてしまうぞ」

気さくに笑いながら、王は自室へと戻って行く。

シュリフ騎士団長もその後を追っていく。


しばらく後で。セイの村に討伐隊が派遣され。

地図からセイの村は姿を消した。大きな話題になる事も無く。


魔物による壊滅として。文献には残っている。

ただ、西の砦で、大量の奴隷が動員された時期とかぶっているのは、誰にも触れられていなかった。



ナンに向かったロアの部隊。

オーク退治は難航し、3年近くかかる事になる。

英雄騎士団記録には、英雄ロアの苦悩と、その妻の献身的な支えがあった事が記載されている。

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