第5話騎士
どれくらいの時間が経ったのか。
明るくなって、何も残っていない村へ、ダチョウのような生き物に乗った一団が村に入って来た。
銀色に揃えられた鎧と、規律正しく並んでいる。
「遅かったか」
ヒゲを生やした、中年の男性が呟く。
「すぐに捜索を!生存者がいるか確認するんだ!」
副長なのか。
少し長身と、茶色の長い髪をなびかせている女性が、一団へ指示を出す。
鎧をまとった一団は、その言葉を聞くと同時に散らばる。
「ひどいありさまだな」
ヒゲを生やした男が、辺りを見回す。
あちこちに黒焦げになった柱が突き立っている。
燃え残った家は無いようだ。
残っている家を見つける事は不可能だろう。
石造りだったと思われる家の壁が、真っ黒に染まっているのを一目見ると視線を逸らす。
壁の半分は崩壊していて、壁の役割を果たしていなかった。
道だったと思われる地面や、家だったと思われる瓦礫の前に落ちているのは、赤くそまった水たまりと、人だったモノの欠片たち。
綺麗な女性の足が見えて、一瞬生き残りかと息を呑むが、その足の付け根から先は見当たらない。
それだけを確認すると、ヒゲの男は目をそらす。
「隊長。報告があります」
ヒゲの男に話しかける鎧を着た男。
「生き残りの男の子を発見しました」
隊長と呼ばれたそのヒゲを生やした男がびっくりした顔をする。
「オークだぞ。ここを襲ったというのは。そう報告を受けている。しかも、複数体。生き残りがいる訳が」
「私も発見した時はびっくりしました。しかし、泣きつかれたのか、眠っているだけで、確かに生きています」
「本当に人か?」
「私が見るかぎり、確かに人間の子供です。しかし、この状態で、生き残っていられただけでも、奇跡としか、、言いようが」
男の言葉に、思わず頷く隊長。
生き残れるはずが無い。
あのオークなのだから。
「両親は?」
隊長の言葉に、首を振る団員。
「近くに、母親と思われる腕は落ちていましたが」
「もういい」
その言葉で全てを理解した隊長は、片手で部下の報告を止める。
「しかし、、オークが見当たらないのが気にはなる。村人が倒せるような魔人ではないのだが」
「はい。広範囲で捜索をしておりますが、全く姿が見えません」
「このやり口を見る限り、3体はいたと思われるんだが」
隊長は、遠い目をする。
「森に帰ったと思いたいな。私たちですら、出くわしたら半分で済むか分からん」
「出会いたくない敵ですからね」
部下の言葉に、小さくうなづくと。
「全兵に告ぐ!捜索は打ち切り!村人の遺体を集めて、葬送を行うぞ!夕方には撤収!近くの町にて、もう一度情報を仕入れて、帰還する!」
「はっ!」
全員が返事を返す。
「隊長。いいのですか?王都からは、調査が終わり次第、すぐに戻ってくるようにとの指示でしたが」
「私にも、娘がいてな。近衛騎士団に入りたいと言い出していてな。こんな辺境で、ゾンビでも生まれてみろ。ここまで来る事になるんだ。それは、あまりにもかわいそうだろう?」
少しいたずらっぽい子供の目をした隊長が笑うと。
「隊長の言い訳は、いつも苦しいですね。親ばかですか?」
副隊長の女性が笑う。
「けど、そんな隊長がみんな好きなんですけどね。全員!急げ!葬送の送り火を絶やすなよ!」
副隊長の声に、再び動き出す隊員たち。
村中に散らばっている欠片を集めて、燃やし。埋めていく。
「隊長、、あの子共は、どうしますか?」
「いつも通りだ。騎士で預かるわけにはいかん。孤児は、孤児院に入れるしかないだろう」
送り火を見続けながら、返事をする隊長。
「全て拾っていては、そのうち国が崩壊するかもしれんな」
そんな独り言が出てしまう。
この世界は残酷だ。
毎日、どこかで、彼のような子供が産まれている。
魔物はいつも人を追い込み、大事な人を奪っていく。
そしてそれを止める術も。力も自分達に無い事を自覚している。
「まったく。何のための騎士と言うのか」
送り火の炎を見ながら、隊長は独白する。
騎士全員で、送り火が消えるまで見続けた後。
騎士団は、近くの町へと移動を始める。
一人だけ生き残った、眠ったままの男の子を連れて。
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