第6話優しさのある世界
うん。今日も綺麗な空だ。とっても気持ちいい。
ベッドから飛び起きて、窓を開けた僕は、目の前に広がっているとってもきれいな青空をみて気分が良かった。
晴れの日って、うきうきするよね。
「んー!」
僕は思いっきり伸びをすると、寝間着にしている肌着の上から麻の服を着る。
「行ってきますー!」
「ちょっと、シン?朝ご飯は?起きてすぐのお祈りもまだですよ!」
「おかみさんが待ってるから、ダメっ!」
それだけ言うと、僕は修道院のシスターさんに手を振って走り出す。
朝の配達に行くためだった。
ここの修道院は、あまりお金が無くて、お腹いっぱい食べられない子もいる。
僕も何回も我慢して、下の子にご飯を上げたりしてるから。
少しでもシスターさんの手助けをしたくて、朝の仕事をしていたりする。
「あまり、怒らないでやってくださいませ。あの子が持ち帰っていただけているお金で、私たちは子供達を愛せるのですから」
「でも、ネリシスター。祈りは大事ではないですか」
「大事ではありますが、祈りでお腹が膨れるほど、この世界は柔らかくないのです」
「それは、そうですが、」
心配そうに、走って行ったシンを見送るシスター達。
「しかし、早いものです。あの子が来てから、もう一年ですか」
ネリシスターと呼ばれた女性が、シンの走っていった先を見つめていた。
「本当に。早いですね。彼が来た時、言葉もしゃべれず、目も、、いつも私たちが見る目でしたから」
もう一人のシスターが、目を伏せる。
ここに来る子供達は、みんな孤児だ。
親に捨てられた。魔物に親を殺された。
そんな子供ばかりだ。
「そんな目をした彼が、たった半年で、立ち上がれたのです。本当に強い子です」
「はい。あの子ほど、兄弟思いの子もおりません。あの子は、強く、優しく。彼が、どれほどの癒しを与えてくれているか」
「あの子の本当の名前は、結局分かりませんが」
「名前を呼ばれる事を拒否するほどの、何かがあの子にあったのでしょう。いつか、全てを受け入れる事が出来たら、思い出せることもあるでしょう。私たちにできる事は、彼を見守りことだけです」
「はい。彼を襲った、記憶すら奪った地獄が、彼を呑み込まない事を祈るだけです」
「あの子に神のご加護を」
二人で、祈るシスター達。
そんな二人の会話を知る事もなく、僕は町の中を走っていた。
僕、シンは、今年で11歳になった。
といっても、この世界では、誕生日を祝ったりすることは無いから、結構曖昧だけれど。
僕がこの町に来た時。
僕が生まれた村に何があったのかは、何一つ覚えていない。
生まれた時と、隣のエリちゃんの事は覚えているのに。
村がどうなったのか、エリちゃんがどうなったのかは、思い出せなかった。
ふと、修道院の中で目が覚めた時の事を思い出して、僕はぶるっと震えてしまった。
目が覚めたら、知らないベッドの上だった。
知らない部屋で、何が起きたのか分からないから、お母さんを呼ぼうとしたら、声が出なかった。
何でこんな所にいるのか、何で声が出ないのか。
何も分からなくて、泣いていたら、シスターさんが来てくれて。
僕の傍でずっと一緒に泣いてくれた。
村の事は覚えていたのに。お母さんの顔が、お父さんの顔が思い出せなくなっていた。
心配で、お母さんを呼びたいのに、声も出ない。
そんな僕を、シスターはずっと、抱きしめてくれた。
ずっとシスターが一緒にいてくれたから、僕は今こうして走れている。
喋ろうとするのに、声が出なくて。
自分がどうなったのか、分からなくて。
部屋の中に引き籠って、泣いて、シスターに八つ当たりして。
いっぱい暴れた記憶はある。
けど、シスターさんたちは、優しく抱きしめてくれて。
ご飯をくれて。
本当のお母さんのように、優しかった。
半年して、僕が喋れるようになった時、久しぶりに声が出せた時、本当に喜んでくれたのも、シスターだった。
本当に大好きな人だ。
だから。
いつも困った顔をしているシスターを助けたくて。
僕は、朝の配達の仕事をしてる。
いつも、ご飯が、服が、ちょっとした糸が無くて困った顔をしているシスターをちょっとでも助けたいと思ったから。
迷惑をかけたから?ううん。僕が、シスターの二人が大好きだから。
そして、修道院の中にいる、同じように孤児として連れてこられた妹、弟達が大好きだから。
ちょっとでも多く稼いで、みんなを笑顔にしなくちゃ。
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