第105話 戦いの終演
そろそろきつい。しんどくなって来た。
どれくらい舞っているのか。
魔物を倒しても倒しても、次々と湧き出て来る。
「大丈夫です」
ミュアの声が聞こえる気がする。
背中を押してくれる。
それだけで、もう一歩踏み出せる。
もう一振り出来る。
自分のスタミナの限界を感じながらも、槍を振るう。
「開門!開門!」
門が開いて、傷だらけの兵士達が村の中へと入って行くのが見えた。
出て行った時の半分以下だと思う。
それでも。
やり切った。助けれた。
小さな誇りを感じて笑みを浮かべていると。
「ほう。なかなか。面白い人がいますね」
突然聞こえた場違いな声に思わず上を見る。
学ランを来た青年が空に浮かんでいた。
その横には、ゴスロリ服を着た女性が、その腕を掴んで笑っている。
「君がシュンリンデンバーグですか。なるほど。この数を一人で倒しますか」
にっこりと笑う、学生服の青年。
何か、見てはいけない物を見た気がした。
そんな青年に矢が放たれる。
森の全ての木からと思えるほどの数の矢が。
しかし、その矢の全てが、空中で燃え尽きる。
「これはこれは。面倒ですね。森の住民まで出て来たみたいで」
「相手にするのは、ちょっとめんどくさいと思うけど」
「そうですね。今日はこれで引きましょうか。実験も成功した事ですし」
学生服の青年は嬉しそうに声をはずませる。
「シュンリンデンバーグ。また会える日を楽しみにしています」
それだけ言うと、学生服の青年は空高く上がって行く。
目に見える高さ以上へ上がっていった青年を見ていると。
ガサッと木々が揺れる。
その木を見ると、耳のとがった青白い肌の青年が空を見つめていた。
その青年がこちらを見る。
「チッ。人に見つかったか。しかも、模造品を連れている奴だろう。お前は」
青白い青年は、小さく悪態をつく。
普通なら分からないと思うけど、僕にはデータベースと、自動翻訳がある。
あきらかに、聖霊語。
「エルフ?」
僕が呟くと、足元に矢が突き刺さる。
「さえずるな、汚れた猿が。我々を見る事すら許される物ではない」
それだけ言うと、森の中へと消えて行く青年。
いや。
いつの間にか周りにいた、かなりの数の気配が一気に消えた。
「エルフの集団?」
いつからいたのか。
全く分からなかった。
エルフの気配が消えた時。
森から放たれていた、押しつぶされそうなほど大量の悪意も消えていた。
「大進攻が、止まった?」
マップを確認すると、魔物が森の奥へと帰って行くのが分かる。
僕が茫然としていると、村の方で大声で勝鬨を上げる声が聞こえてきていた。
「勝った?いや、、生き残った」
そう。生き残った。
僕たちは。
「マスター!」
後ろから突然抱きしめられる。
小さな体が、僕を包み込む。
「怪我はありませんか?」
「大丈夫」
あらためて、まだ震えている僕の相方を見る。
そっと抱きしめると。
「もっと抱いてください」
小さく呟くミュアに、理性が崩壊しそうだった。
震えて。大量の汗をかいて。
それでも支援してくれる彼女がとてもいとおしく感じるのだった。
「本当にありがとう」
バルクルスが、頭を下げていた。
「まさか、これほどの数が出て来るとは思わなかった。僕のミスだよ。これを想定できなった事がね」
じっと僕を見ると
「報酬は、王都に行ってもらって欲しい。これは、その書状だ。
ギルドに行くともらえるはずだ。ケチは言わないつもりだからね」
僕は、ミュアと顔を合わせると。
二人でうなづく。
王都へ帰ろう。というか、王都の先にある、僕たちの家に帰ろう。
【バルクルス】
巨大な塀を超えて出て行く二人を見ながら、私はため息を吐いていた。
安堵からか。残念という気持ちか。
それは自分でも分からない。
彼を自分の部隊にスカウトしたいと思った時もあったが。
「それは無理だよね。彼は、一人、一つの下に収まる器じゃないからね」
「いっちゃったっすか」
横でチャイが寂しそうにしていた。
「仕方ない。彼はとどめてはおけない。それよりも、報告は本当なのか?」
「ええ。本当っす。数名が目視しました。【皇の】と【明星の】だったそうです」
「4Sか、、、」
「完全に状況を見ていたとしか思えないっす。かなり、、いえ、ここが壊れるか確認していたと思えるっす」
4S。
4Sに手を出すな。
これは、国の中で、公然とされている事だ。
昔、4Sの一人、【希薄の】に軍が動いた事がある。
彼が、王族を殺した疑惑がかかったからだ。
当時、殺された王女は、5歳だったか。
腹を裂かれ。いたぶられた跡まであり、とても人がする事ではなかった。
その報復として。
軍が出たのだが。
4千人。
4千人が惨殺された。
【希薄の】には、一切の魔法。剣、槍、矢が効かなかった。
何も無い空間に、短剣が。剣が。
自分達の持っていた武器が、味方を切り裂いた。
笑いながら兵士をもてあそんで。
国は軍を引いた。
その後に出されたのは、「4Sには手を出すな」というものだった。
「わずかに僕も覚えているよ。あの悲劇は」
バルクルスは苦い顔をする。
死んだ顔をしていた自分の父親を。
「あれは、あの領域までいくぞ」
「リンダ!?謹慎と言っていたはずだがっ!?」
「何でって言われてもね。チャイから、バルの護衛をしろと言われたからだが?」
その言葉に。
頭を抱える。
「バルと、私の仲だろう?」
にこやかにわらうリンダ。
その顔は、まるで少女のようだった。
その可愛さに思わず、思考が停止してしまう。
筋肉だるまの剣士。幼馴染の少女の以外と整った顔を見ながらどうやってチャイに反撃してやろうかと思っていると。
そのチャイは、すでに兵士たちを鼓舞しながら再編成をし始めていた。
「ほら!そこ、槍弓にあてられてないで、仕事して欲しいっす!そこは、、、男同士もOKっすけど、部隊は分けるっすよ!」
大量に発生しはじめたカップルを手際よく分けたり、一緒にしたりしていくチェイ。
「ここが子供の楽園になったらどうしてくれるんだ、あの二人は」
意外な所で、ミュアとシュンリンデンバーグの爪痕が残っている事に頭をかかえるバルクルスだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます