第49話仕事

「あら、さっそく依頼ですか?」

「うん。ちょっと森に入ってみたくて」

「そうですね。疑似カードでは、森への依頼は禁止になっていましたからね」

ライナが、真剣な顔で依頼書を見ている。

みなし冒険者カードをもらって、すぐに僕は依頼を受けに来ていた。


「森の中心部へ入るのは禁止になっていますので、それだけは気をつけてくださいね」

受付にて、注意をされて、僕は小さく頷いて、依頼を受けたのだった。


そういえば、こういう新人が依頼を受ける時には、なんか、ベテラン冒険者からからまれるイベントとかよく起きるんだけど。

何もなかったなぁ。






「なんだよっ!せっかく新人に挨拶してやろうと思ったのに!なんで止めるんだよっ!」

いかついおっさんが、シュンが出ていった扉を見たま怒鳴り出す。

「バカ野郎!あれは、爆炎の女神やら、舞氷の聖女と一緒にいる、暴緑のシュンだっ!新人と思ったら吹き飛ばされるぞ!」

「暴緑のシュンだぁ?」

「知らねえのかよ!狩りをするときに、風の監獄を良く使うからだれともなく言い出した名前だぞっ!あんな強力な魔法、ポンポンつかう奴とまともに関わるなっ!」

「この前、ビックバイパーを振り回して、暴れ馬にぶつけてたなぁ。結局、2体まとめてメイスで叩きつぶしていたけど」

おっさんの顔が青白くなる。


「今まではそうでもなかったんだけどよ。最近、あいつが通った後には、ウサギ一匹残ってねぇ。まさに、暴風、暴緑(暴力)だよ」

冒険者たちは囁き合いながら、震えながら。

誰ともなく頷き出す。

彼には関わらないようにしようと。




「ちょっと待ちな。ひよっこ」

依頼を受けて、早々に森へと行こうとしたら、声をかけられる。

後ろを振り向くと、そこには、50歳くらいか。中年を超えたくらいのおじさんが立っていた。

やる気がなさそうに、ダルそうに立っている。

黒いローブと、腕くらいの長さの杖を持っているから、魔法使いだとは思うけど。

「やる気があるのはいいんだがな。みなし、、だからな。おまえさんは。一応、本物の冒険者じゃない事を覚えておいてくれよ。

ああ。俺か?とりあえず、あんたの見張りをやれと言われた男だ。

これからも、ちょくちょく、一緒に回る事になるから、まあ、覚えて置いてくれや。ダルワンだ。いちおう、魔法使いとして冒険者をやっている」


「えーと」

「ああ。みなし冒険者には、見張りをつけるっていう規定も含まれているんだよ。何かやらかしたりしたら、面倒な事になるからよ」

困ったな。気兼ねなく狩りをしたかったのに。

ライナ達以外の誰かと一緒だと、全力が出せない。


「ああ。気にしなくていい。お前さんが、Bランク並みの力があるのは知っている。あえて、弱いフリとか無しな。そんな事をされて死なれても、困る」

ダルワンは、ぐびっと水筒をあおる。

「この前な、資格も無いやつが、平地の魔物を全部狩り尽くすとか、訳の分からん事をやらかした奴がいてな。ギルドもちょっと神経を張ってんだよ。まあ、タイミングが悪かったと思って、あきらめてくれや」


笑うダルワン。けど、僕は額に、汗がにじんでくるのが分かった。

それ、、僕です。


「まあ、みなし冒険者自体が、新しい事だからな。いろいろと面倒な事も多いだろう。だから、いっその事、冒険者が付いていった方が、トラブルも少ないだろ?って話になったのさ。

資格持ちと、狩場のトラブルが起きても面倒だしな」


笑うダルワンの手を、僕は握り返していたのだった。


のちの世に、リンデンバーグ規定とまで呼ばれる事になった、

「みなし冒険者と呼ばれるチートな人の暴走を予防するための規定」が生まれた瞬間でもあった。



「この辺りかな」

薬草を見つけては、刈り取って行く。


「やっぱり森の中だと、それなりに素材があるよな」

ほくほく顔で、依頼分の薬草とは違う草を取る。


これは、簡単な解毒剤になるやつだ。

あ、あっちに、やけどなんかに効く薬が作れる木がある。


次々と薬草を取っては、収納魔法の中に放り込んで行く。

魔力次第で、空間収納の広さは決まると言われているけど。

僕の魔力がおかしいのか。

多分、村一つが入るくらいの収納量がある。

むちゃくちゃ狩った魔物もすでに、かなりの数が入っているけど、まだまだ余裕がある。


ライナ達も、ダルワンさんに教わって、薬草を探している。

ときどきこちらをちらちらと見てはいるけど。


ごめんね。40年森にいたから、薬草だけを見極める目はまだ健在なんだ。

小さく開いていた、マップに、突然、赤いマーカーが生まれる。

森の中で、魔物が生まれたらしい。


森の中では、魔物が突然生まれる。

どういう理屈なのか、それは調査が出来ていないから、まったく分からないとの事なのだが。


ダルワンさんが、杖を地面に刺す。

「地に生まれし小さな光。 空に生まれし小さな光。その光を乱す障害を我に指し示せ」

なんの魔法だろう?

『周辺察知魔法です』

疑問に思っていると、データベースさんが返事をしてくれる。

「敵が来るぞっ!」

赤いマーカーの方を指し示して、叫ぶ。


やる気はない風だけど、かなりのベテランなんだなぁ。

そんな事を思いながら、ダルワンさんの評価が僕の中で上がっていた。


こちらに走って来るのは、角突き牛ホーンカウ暴れ牛とも言われるあいつは、なかなか厄介なんだけど。

「森にそう入っては無いんだが、厄介な奴が出て来たなぁ」

突進してくる牛。

「土よ、汝は水。筒。柵。その身の上を通す事なかれ!アースバインド!」

詠唱は、やっぱり時間かかるなぁ。


ギリギリの所で、土で出来た柵にぶつかる牛。

さて。

魔法球の練習でも。

そう思って、僕は、魔法球を発動させてみるけれど。


おそっ!


亀が乗れそうなくらい遅いっ!

ロア先輩は、もっとなんか、さくさく動かしていたような。

『予知スキルで、先読みしていただけです』

とどめと言わんばかりに、データベースさんが冷静に返答してくれる。


つまり。

このスキル使えねぇぇぇぇぇ!」

僕が身もだえている間に、ライナの氷魔法で固まった牛は、レイアの拳で、粉々になっていた。


だから、レイア、、魔法使いが接近戦は危ないって、、、


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