第50話落胆

「はぁ」

宿屋の中で。ベッドの上で。

僕は深いため息を吐く。


「おうち帰ろうかな」

帰る場所も無いのに。

思わず口に出てしまう。


だって。フ〇〇ネルと思ってたスキルが。

まったく役に立たないんだよ?

地雷より役に立たないんだよ?

姿も消せないし、ふわふわ浮いているのは丸見えだし。

「何を残念がっているのかは分かりませんが、とりあえず、元気を出してください」

ライナに、頭を撫でられてしまう。

「そうそう。元気だそうぜ!」

レイアにまで、ムニムニとぽっぺたを触られる。


いや、ここ、僕の部屋なんだけど。

何で二人ともいるの?


そんな事を考えながらも、泣きそうになる。

だって、あの魔法球があったら、無限に武器を空間収納から取り出して、魔法球から無数に投げたり。

魔法球から、無数に縦横無尽に魔法を撃ったりできると思ったのに。


置物だよ!


予知があればっ!と思ったのに、予知は絶対取れないスキルですって、冷静にデータベースさんに返事をされてしまうし。


この世界はとことん僕に優しくないらしい。


「まあ、魔法球なんて魔法は、使えない事で有名な魔法だからよ。外れ魔法とか、命をかけたネタ魔法なんて言われる事もあるものだからよ。まあ、気にするな」

水筒をあおる、おじさん。

「てか、なんで、ダルワンまで部屋にいるんだよ」

僕が睨みつけるも、ダルワンは肩をすくめる。

「おまえさんが、凹んでるから、飯でもおごってやろうかと思ったんだがよ。綺麗な二人に慰められてるのを見てたら、その気も失せてきた所だったんだよ」

再び水筒をあおる。


あの水筒、、、どれだけ水が入っているんだろう?


「そうですわね。気分転換にもなりますし。ご飯にしましょう!」

「おう!腹が膨れりゃ、嫌な事も忘れられるってもんだ!」


ライナが、笑う。レイアも笑う。


「とりあえず、腹が立つから、割り勘な」

ダルワンは、にやりと笑う。



ほんと、、、優しさが欲しい。





「ぷはぁー!やっぱ冷えたエールはうまいわあ」

ご飯より酒を飲むダルワン。

「シュン君。これ、本当においしいです」

イノシシの肉の香草煮をとりわけてくれるライナ。


「まじでうめぇ!」

ウサギの肉を丸かじりしているレイア。


「まあ、あの魔法球ってやつだがよ。魔法も一つしか打ち出せない。動かすのも遅いし、数も出せない。その上で、完全設置型っていう、ほんと使えねぇモンなんだよ。本当はよ」

もう、ジョッキで3杯は飲んでいるのに、まったく顔色が変わらないダルワン。

「だから、よ。あのロアってやつが規格外なんだよ」

本当に、そうだと思う。

飛ばされた先に。

動いた先に。

確実に魔法球はあった。


「いてぇ。手加減してくれよぉ。嬢ちゃん」

「俺の肉を取るんじゃねぇ」

2個目のウサギの丸焼きを取ろうと手を伸ばしたダルワンを叩いたらしい。


僕はため息を吐きながら、追加注文をするのだった。

懐は温かい。

まだまだ、売ってない素材、魔物の肉が大量に空間収納に入っている。


ああ。後で、解毒薬を作らないとなぁ。

強力なやつも数個作っとくかなぁ。

ああ。森の奥に入らないと、材料が足りないか。


まぁ、麻痺系の運動阻害毒の解毒薬だけでいいか。

思考が脱線してしまう。


「で。だ。おまえさん、これからどうするんだぁ?」

そう言いながら、ダルワンさんはそのまま机に突っ伏して寝てしまう。

「寝てしまいましたね」

「シュンとの時間を邪魔するやつだ。やるか?」

「いいかも知れないですね」

「ちょ、、ちょっとまった!」


過激発言をし始めた二人を慌てて止める。

二人の頬に軽いキスをする事で、二人の機嫌を直してもらったのだった。



けど、僕はこれから本当にどうしたらいいんだろう?




「で、、魔法の祖と言われているのは、、、」

なんとなく、学校で、先生の話を聞いていた。

座学ではあるのだけれど。

英雄とよばれた人達の話ばっかりが続く。


みんな目を輝かせて聞いているけど、そのほとんどがどう聞いても転生者だったりする。

こんなつまんない授業でも、最後まで聞いてしまうあたり、僕って日本人なんだなぁと感じてしまう。


「えっとな。昔、天才を極めた最強の魔法使いと呼ばれた人がいてな」

「名前はサタエルと言った。彼は、町を大攻勢から守るために、土魔法で壁を作り、火魔法でその土を乾かし、強度の高い壁を一瞬で、凄まじい高さまで作り上げたと言われている。つまりは、魔法は、無限の可能性を秘めている」


へぇ。でも、どうみても、転生者だよね?

レンガもどきか、土壁の乾燥を魔法でやった感じだけど。


そんな事を考えながら、ぼーっつと先生の話を聞く。


何も、思いつかない。

大進撃を耐えれるだけの。

切り札が欲しい。


ある日。依頼を受けていると、ウサギの群れに出会った。

「おい!そっちに行ったぞっ!」

ウサギが3匹。

ライナは魔法を放つも、当たらない。

「必中の魔法をはずしてんじゃねぇ!嬢ちゃん!」

ダルワンが叫ぶけど。

今のは、魔法の構想が違っている。

無詠唱で魔法が撃てるライナだけど、時々構成を間違えて不発に終わったり、ああやって当たらなかったりする。

練習あるのみだと思うんだけど。


「ちっ。逃げられる!今は酒のつまみが欲しいんだよ!風よ!全てを運び、全てを弾け!弾けろ!」

ダルワンさんが、唐突に魔法を唱える。

すると、目の前の拳よりも大きい石が、ミサイルのように飛んで行き、ウサギの頭にぶつかる。

当たり所が良かったのか。

3匹とも目を回してその場に倒れる。

さくっつと止めを刺すダルワンさん。


「ウサギは追っていっても逃げるし、速いからなあ。こうやったら、傷も少なくてすむから、良い値段で買い取ってくれるんだよ」

笑いながら、やはり水筒を呑むダルワンさん。


「ダルワンさん、今のは?」

「あん?学校で教わらねぇのか?風魔法の基礎中の基礎で、物体を弾き飛ばすだけの魔法だ」


ダルワンさんは笑っている。

笑っているけど。

これだ。


僕にはロケットエンジンに見えた。

先生も言ってたじゃないか。

別系統の二つの魔法を同時に使っていた人がいたと。

土と火で、壁を作った人がいたと。


僕も、、使える。

風と、氷。


なら、魔法で魔法球を弾き飛ばせたら。弾き飛ばしながら、魔法球から魔法が撃てたら。

「ああ。シュンくんの目が、、」

「絶対、何か、変な事を思いついた目だ。あれ、、」

そんな僕を見て。

ライナと、レイアは顔を見合わせる。

『絶対変な事を思いついた目だ。逃げ出したりしないように、縛っとく?』


二人が小さくうなづくのを。

僕はまったく気が付いていなかった。




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