第59話絶望的な手違い
「はぁ。ありえないわよねぇ」
私はギルドの受付をしている。
ついさっきまで、ギルドマスターと一緒に、依頼に関して簡単な調査と、認識のすり合わせを行っていた所だった。
「まさか、私が外へ行かされるなんて」
そう。ギルドマスターが、外へ行く。なんて言われて。
私は思わず、貞操の危機を感じたのだけれど。
外に出て、初めて分かった事があった。
まず、今までの常識が通用しなくなっていた。
ウサギですら、攻撃的で。
こちらに突進してくる始末。
「これは、どうみても、大攻勢、、、はじまったな」
ギルドマスターが、小さく呟く。
これが、、、。
「お前は、初めてだろう?だから知っていて欲しかった。大攻勢中は、全ての魔物の討伐ランクが上がる。それを肌で感じて欲しかったんだ」
ギルドマスターの目に、余裕がない。
とんでもない事になったと、私は感じていた。
ギルドマスターと一緒に城壁の中に帰って来て。
ギルドに向かう途中で、シュンくんを見つけた。
一生懸命、ネックレスやら、アンクレットを見つめている。
きっと二人への贈り物だと思う。
最近、ライナさんも、レイアさんも綺麗になって来てる。
ライナさんの腕にはアンクレットが光ってたし。
レイアさんの腕には、鎖みたいな物が巻き付いていた。
宝石も見えたから、男物のネックレスを無理やり腕に巻きつけていたのかもしれない。
「本当に豆よねぇ」
恋人にするなら、シュンくんみたいな人がいいかも。
稼ぎもいいし。
でも、シュンくん、ちょっとめんどうな、ビックバイパーの群れの討伐依頼、終ったのかな?
きっと終わらしたんだよね。
ああ。そうか。私たちがいないから、報告が出来ないんだ。
あの新人の子じゃ、多分何も分からないから。
急いでもどらなくちゃ。
「なんでっ!、ねぇ、なんでっ!これっ!」
戻って、笑顔でこれの依頼を出しましたーって報告される。
私は頭が真っ白になった。
いや、新人の子だし。でも、でも、、、
「なんで、これを出したのよっ!!!!!」
新人の子が、私の怒鳴り声にびっくりして泣き出してしまう。
けど、そんな事、ささいな事。
依頼を受けた人のサインを確認する。
これって、、、、
私の視線に気が付いたのか。
「すっごく優しそうな女の子と、ちょっとかっこいい女の子の二人連れでした。若いのに、しっかりしてて、だから大丈夫だと思って、、、」
依頼を受けた冒険者の特徴を教えてくれる。
間違いない。
「一人は金髪だった?」
小さくうなづき返される。
確定じゃない。
シュンくんは、ライナさんたちと今、一緒にいない。
というか、別行動中だったはず。
二人が、依頼を受けていると知っているなら、あんなにのんびりもしていないと思うし、そもそも、この依頼は、彼が一度断ったものだ。
シュンくんが、あんなに大事にしてる二人を、危険にさらすわけがない。
多分、、、
二人だけで行った。
私はそこまで理解する。
「言いたい事は一杯あるけどっ!なんで、そっちの凍結依頼の中にあった依頼書を引っ張り出してるのか、聞きたいけどっ!あなたはすぐにギルドマスターに報告しに行ってっ!私はダルワンさんとかに連絡つけるからっ!」
私は、怒鳴るように新人の子に言いつける。
「私たちじゃ、手に負えないからっ!すぐ行ってっ!」
今は、大攻勢中。
魔物は討伐ランクが上がっている。
その上で、、、ジャイアントバッファローの目撃情報まで再度出ている。
こんな依頼、、Fランクじゃ絶対ない。
お願い、、、間に合って、、、、、
折角がんばって依頼を処理したのに。
帰ってきた先輩にいきなり怒鳴られて。
涙目になりながら、私は、ギルドマスターに報告する。
「ん?シュンくんのパーティに頼んだんだろ?」
ギルドマスターは、最初そんな感じだったのだけれど。
私の言葉を聞いていくうちに、みるみる顔色が青くなっていく。
「森の依頼?Fランクの?」
凍結したはずだ。
その言葉に、、、何も言い返せない。
「まさ、あ、、、出した、、、のか」
ガタッと、立ち上がるギルドマスター。
「シュンくん抜きで、出したのかっ!」
いきなりの圧。
泣くこともできず、私はその場にしゃがみこんでしまう。
震えながら、小さくうなづく。
「誰か!誰でもいい!すぐに捜索隊を組織するぞっ!」
シュンくんに連絡を。
ダルワンに。ロアは何処にいる と怒鳴るように指示を出しているギルドマスター。
次々とやって来る、高ランクの冒険者さんたちが、話を聞いて青い顔をして出て行く。
私は、息が出来なくなっていた。
あの依頼が、凍結されていた理由。
Fランクパーティがいくつも行方不明になっている事。
Cランクパーティまで、帰って来ていない事。
Cランクに捜索を依頼して、帰って来ていない事。
つまり、、Bランク。いや、Aランク相当の依頼になってしまっている事。
もし、どうしようもなくなったら、シュンさん、ロアさん、ヒウマさんの3人に直接依頼をしようと思っていた事。
つまりは。
高難易度の依頼。
それなのに。
私は、、、、
あんな可愛い子を、地獄へ送り込んだ事に気が付いて。
私は。。。。。
「やってしまった事はどうしようも無い。今回は、私たちギルドの責任だ。彼女たちの救出を優先する。手が空いていると思われる冒険者全てに声をかけてくれ。シュンくん、ロアくん、ヒウマくんにもだ。絶対に、救い出す」
ギルドマスターは、唇を噛みしめていた。
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