第56話ヒウマというチート

「シュン!よこせぇ!」

空中から、叫び声が聞こえる。

ヒウマが、絶対にありえない高さに飛び上がっていた。


「身体強化!」

思わず、キシュアさん直伝の、ステータスアップの魔法をかける。


「いけぇ!」

ヒウマの拳が。

岩に見える。

一撃。

空中からジャイアントバッファローの頭を殴り飛ばす。

凄まじく高い場所にある、僕の身体の2倍近くありそうな頭が目の前の木にめり込む。


「にゃっ!」

落下していくヒウマを拾う黒い動物。


翼の生えた猫という、不思議な生物がヒウマを乗せて空中に浮かんでいる。

というか、猫にしてはでかすぎる。

馬?牛?いや、普通に、像くらいはありそうな大きさだ。

「にゃっ!」

聞き覚えのある声とともに、ジャイアントバッファローを踏みつぶして、さらに空中へと駆け上がる。

「にゃん!もう一発だ!」

「にゃっ!」

空中で叫ぶヒウマと猫。


ていうか、あのバカでかい猫は、にゃんなのっ?!


驚きすぎて、僕の動きが止まる。

土の戒めアースバインド!」

詠唱を終えたのか。

ダルワンさんの魔法が発動する。

僕の目の前で、木が倒れ込んで来た。

「ぼさっとしてるといろいろな物に踏みつぶされるぞ!でかい敵は、歩くだけで脅威だからなっ!」

ダルワンさんの魔法も、一瞬で弾き飛ばされたのか。

ジャイアントバッファローの足はまったく止まらない。


さらに一発。

ジャイアントバッファローを殴り飛ばすヒウマ。

再び踏みつけられて、頭が上がらなくなるジャイアントバッファロー。


何度も殴られて、気が立ったのか。

後ろ足を蹴り始めた。

「突進がくるぞっ!」

「任せろ」

ネクロさんが、ジャイアントバッファローの目を切り裂く。

痛みのあまり、突進のモーションが崩れる。


風の監獄エアーズプリズン!」

僕の魔法も打ち込むが。

「全く効いてないとか、あり得ないでしょ」

茫然としてしまう。

相手が大きすぎるからか。

普通の魔物なら一撃で倒せるのに、あいつには、bb弾を撃ち込んだ程度にしか効いていない気がする。


「これで、、、終わりだっ!」

ヒウマ先輩が、空中で舞う。

突然、ヒウマ先輩の周りに、無数の槍が生まれる。


「槍流雷舞!」

周りにある槍を蹴り飛ばす。

ジャイアントバッファローを打ちのめすほどの異常な力で蹴りだされた槍が、ジャイアントバッファローに突き刺さる。


てか、、

「ヒウマとかいうの。やりやがるなぁ。あれを抜くか」

「あいつの馬鹿力は、笑いしか出ないからな」

ダルワンさんと、ネクロさんが、苦笑いを浮かべている。

「まだまだぁ!」

連続で。無数と言ってもいいほどの槍が、蹴りだされ続けられる。

最後は、その一本を持ち。

落下しながら、頭に突き刺す。

「ヒット!」

笑うヒウマ先輩。

痛みのあまり暴れ出したジャイアントバッファローから離れた先輩をすぐに空中で拾うにゃんさん。


「これで、、本当に終わりだ」

槍のような、斧のような武器を取りだす。

「行くぞ!」

「にゃっ!」

にゃんさんが、空中から一気に急速落下していき。

その背中の上で、ヒウマ先輩が槍斧を振り下ろす。


斧が少しキラキラと輝いている。

そして。

槍斧が砕ける音とともに。

ジャイアントバッファローの首から大量の血が噴き出した。

2か所。

斧と同時に、にゃんさんの爪でも切り裂いていたらしい。

空中に戻ったヒウマ先輩たちの真下で。


ジャイアントバッファローは、その巨体を倒した。

「よしっ!終わったっ!」

ダルワンさんが、笑顔で水筒をあおる。

「ジャイアントバッファローは、その巨体ゆえに、倒れたら、自分でなかなか起き上がれない」

死んでいないのに、勝利宣言をしている事に疑問を持った僕に。

ネクロさんが教えてくれる。


そうなんだ。

4つ目の赤トラなんて、寝転がった状態から、いっきに飛び掛かってきたりしたから、本当に生きた心地がしなかったけど。

「さあ。ちまちまと止めといくか」

ヒウマ先輩が降りて来る。

にゃんさんは巨大猫から、普通の獣人の子の姿に戻って、ヒウマの顔を背伸びしてぺろぺろとなめていた。


ほんとうに可愛いんだけど。さっき大暴れしていた巨大猫とは思えないくらいに。


「肉は、みんなで分けるか」

「ああ。シュンが持って帰れるんじゃねぇか?」

「マジかよ。俺よりも容量あるのかよ。お前」

ダルワンさんの一言に、あきれた顔をする先輩。

「どんなチートだよ」

いやいや、ヒウマ先輩も、充分すぎるくらいチートだと思います。






冒険者ギルド内。

ギルドマスターと、メイド服を着た一人の女性が話をしていた。

「やはり、連絡は取れないのか?」

「はい。森にむかったCランクパーティ。2つ。Fランクパーティ 3つ。 生存不明になりました」


ギルドマスターは、その報告に頭を抱える。

「ありえない。オオカミの群れが街道に出たり。ジャイアントバッファローやら。あんな危険な魔物が出るような場所ではなかったはずだ。この辺りは」


「森の奥で、何かが起きていると思って良いのでしょうか?」

「かなりの確率で、何かの異変が起きている。だが、、探索が、、な。ジャイアントバッファローは、みなし冒険者の2名によって倒せると、ダルワンは言ってくれたが」

「低ランク冒険者の未帰還率も上がってきていますが、、一番深刻なのは、Cランクパーティの損失です。2パーティもいなくなると、捜索に行ってくれるパーティがいません」

「お前に、、、は無理だな」

「私は、、あなたの直属ではありませんから。お手伝いをさせていただいているだけですので」

再び頭を抱えるギルドマスター。


「仕方ない。この依頼は、、森の捜索依頼は、Fランクだったか。だが、しばらく凍結だ。

できれば、みなし冒険者の3人の誰かに直接依頼するようにしよう」

「それが、一番かと思います」

「報告、すまなかった」

「いえ。仕事ですので」


メイド服を着た女性は、一礼するとその姿を消す。


「頭が痛い事ばかり起きるが、、、皆にも頑張ってもらうしかないな」


魔物の異常な発生。

その報告が増えて来ている。


「誰か知らんが、、、平地を狩り尽くしてくれた揺り戻しが来ている可能性が高い。大攻勢、、、始まるか、、、。耐えるしかないか、、」

ギルドマスターの悲痛な独り言は誰にも聞こえる事は無かった。

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