第55話ヒウマと

「あの。本当に、心苦しいのですが、、お願いがあるのですが、、」

いつもは、ライナとレイアの二人と一緒に依頼を受けていたのだけれども、今日はたまたま、僕一人で来ていた。


そしたら、ギルドのお姉さんに、真剣な顔で両手を握られてしまった。

「はい?」

何が起きているのか、思わず気の抜けた返事をしてしまう。

「個人的なお願いなのですが、、、」

デジャブを感じる。


「えーと。。それは、、、」

「個人依頼です。ギルドからの」

笑顔でにっこりと言われてしまうと、断り切れなかった。





「はぁ」

大きなため息が出る。


「こっちを見るなにゃっ!汚れるにゃっ!」

「にゃん、いいから、頼むから、もめごとになりそうな発言は止めてくれ」

「気にしないのにゃっ!ヒウマ以外には一切見られるのも嫌なだけにゃっ!」

舌を出して、嫌がるそぶりをしているにゃん。

「ねえちゃんは、本当に、その兄ちゃんが好きなんだな」

笑いながら水筒をあおるダルワン。


「うー。しかも、酒臭いおっさんまでついてくるとか、本当に最悪にゃ」

その言葉で、初めてダルワンが飲んでいる水筒の中身が酒だって事に気が付いたりして、いろいろと衝撃だったりする。

少し呆れた顔をして、ヒウマがにゃんの頭を撫でると、にゃんの耳がふにゃっと垂れる。

「そういえば、、よく頭を撫でるな。ヒウマ」

「そりゃ、可愛い子を撫でたくなるのは、しょうがない事だろ?」

良く言うよ。

そんな事を思いながら、にゃんを見ると。

毛を逆立てられた。


「にゃんはヒウマの物にゃっ!他の奴が見るんじゃないにゃっ!」


毛を逆立てているにゃんから引いていると。


「それはそうと、、ロアから聞いたんだけどよ、、、」

「お前も、、、、だろ?」

目線をそらすヒウマ。


「お前はどうだったのかは知らないけどよ。俺は、目が覚めたら獣人の里にいたパターンでさ。右も左も分からない俺に、にゃんがすごく親身になってくれたんだ。本当に世話になったんだ。

獣人の里が、第二の故郷っていえるくらいにな」


嬉しそうに耳を垂れているにゃんを優しい目で見つめるヒウマ。


「それはそうと!」

突然真剣な目でこちらを見るヒウマ。


「コーヒー牛乳を見た事ないか!?」

いきなりの発言に思考が止まる。

 そして噴き出してしまった。

「そんなに笑う事ないだろっ!本気で探してるんだよっ!」

「いや、悪い、悪い。まさか、重いもよらなかったというか、聞く事もなかった飲み物で、笑いが」

むくれた顔をするヒウマ。

「一日中、飲めるくらい好きだったんだよ」


そんなヒウマの横顔はやけに可愛いいと感じてしまった。

「見るにゃっ!これは、にゃんのものにゃっ!」


にゃんは、うなっていたけど。



数日後。

「しっかし、ずいぶんと奥まで来ちまったが、本当にいるのか?」

ダルワンさんが水筒をあおるが。

「このままじゃ、俺の酒がきれちまう」

「ダルワン、酒ならありますよ。フフフ」

変な仮面をつけた、細身の男が、ダルワンに水筒を差し出す。

「やめろ。ネクロの酒だけは飲まねぇよ。それは絶対毒入りだろうが」

カカカと笑う仮面の男。


ヒウマのお目付け役として一緒にヒウマと冒険者をしているという。ネクロと名乗ってくれた。

服装も、言動もどうみても暗殺者なんだけど。

僕が見えない速さで動く、ネクロさんとは絶対戦いたくないと思う。

目ですら追えないのに。


ダルワンさんとは、昔の知り合いとの事なんだけど。

二人で騒いでいる姿を見ていると、相当仲が良いいんだろうと思う。

「まあ、確かにそろそろ、ベッドで寝たいよなぁ」

「にゃんは、ヒウマさえいればどこにいても、どこで寝ても大丈夫にゃ」


二人はいつも通りだった。

ずっとくっついて過ごしている。

なんとなく、隣が寂しくなる。

ライナと、レイアがいない事が寂しく感じる。


そういえば、最近はじゃんけんして勝った方が僕の傍で寝るとかいう変な状況になっていたような。


野営の準備をしようと、動き始めた時。

凄まじい音が。

森の奥から。木がへし折れる音が。

落雷が落ちたような激しい音が響く。


「来たぞっ!」

「本当にいたみたいだねぇ」

「ジャイアントバッファローだっ!」

ヒウマの叫び声が響く。


そう。依頼は、ジャイアントバッファローの討伐。


「あいからわらず、でかいな」

「それが、ジャイアントバッファローだ」

ダルワンさんと、ネクロさんが、空を見上げる。


僕の3倍以上ありそうな木より、さらに高い位置に頭がある。

木をへし折りながら、歩いて来る。

「暴れたら、手がつけられなくなるぞっ!脚にひっかけられるなよっ!」

ダルワンさんが叫ぶ。


「風の心よ。吹き荒れ、吹き飛ばし、その前にありし、、」

「風の刃」

ダルワンさんが、風の刃エアカッターの魔法を使おうをしているのを感じていたけど。

僕はあっさりと無詠唱にて魔法を発動する。


脚に命中した魔法はあっさりと弾かれる。

って、、、、本気でっ!?


僕は慌ててその場から逃げる。

すさまじい大きな一歩が、僕の前に落ちて来る。


あぶなぁ。 踏みつぶされる所だった。


「ちっ。シュンの魔法すらはじき返すのかよっ。固すぎだろっ!」

ダルワンが叫ぶ。

「ジャイアントバッファローが硬いのは知ってたが」

「シュンの魔力は、俺の倍はあるんだよ。それをあっさりはじき返すとか、バケモンだろうが」

「なるほどねぇ」

ネクロさんが小さくうなづいた時。


「シュン!よこせぇ!」

空中から、ヒウマが叫んでいる声が聞こえて来た。



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