第54話幕間 監視者たち

「で、一人でオオカミ討伐か」


「そりゃ、もう。あっさりと」

ギルドの一部屋。

ギルドマスターの前で、ダルワンが、足を組んでくつろいでいた。

革袋の水筒をあおっているのは、ご愛敬か。


「あまり飲むな。酒臭くなる」

「いいだろ?お前と俺との中じゃねぇか」

「はあ。まったく。それにしても、二人よりも頭一つ飛びぬけて化け物か。彼は」


「氷魔法で足元を凍らせ、集団の動きを止める判断。メイスの一撃の重さ。暴緑なんて言われてるみたいだが、そんなんじゃねぇな。あいつは。あれは、普通にC級、いやB級冒険者だ」

「あっさりと冒険者に格上げするか」

「そんなにあっさり上げたら、他の奴が発狂するぞ。今のままでいいんじゃねぇか?ヤバイやつが出たら、シュンにまかせりゃいい」

「ロア君や、ヒウマ君と組ませても、楽しそうではあるな」

「えらく楽しそうだな」

「そりゃ、次代がとんでもない事になりそうなんだ。嬉しいさ」

「それよりも、あいつにゃ、とんでもない試練が待ってそうだがな」

「何かあったのか?」

「シュリフ家が、出張って来る」

「見定め、、、か」

「娘にとことん甘いからな。あの将軍は。いや、兄もか」

「それと、、その革袋。酒が尽きる事は無いのか?」

「はっ。俺の酒は無限だぜ?尽きたら、俺の命が無くなるわ」

ギルドマスターは首を小さくすくめる。


「町へゴブリンの襲撃があってから2年か。また襲撃がいつあってもおかしくない。このタイミングで、化け物の出現は嬉しい報告だ」

「ああ。ゴブリンアサシンを見かけたって話か」

「本当に、お前の情報網はどうなってんだ?相変らずの地獄耳だな」

首をすくめながら、革袋をあおるダルワン。

「とにかく、シュンの事、お願いする。冒険者を引退したはずのお前に、こんな事を頼むなんて、心苦しいところではあるが」

「はっ。情報屋、なんて仕事も少し飽きてきたところだったから、丁度良かったさ。それに、お前が無茶振りをするのは、パーティを組んでいた時からだ。今更だろ」

革袋を掲げ。お前もやるか?と目配せする。

「仕事中だ。やめとくよ」

「ははは。まぁ、楽しくやらせてもらっているからな。気にしないでくれ。それに、お前と組んでた時より、今の方が稼げてるぜ」

「そりゃないだろうがよ」

部屋を出て行こうとするダルワン。

「『帰還者』として、導いてやってくれ。頼む」

そんなダルワンの後ろ姿にそっと声をかけるギルドマスターだった。



「はあ」

ダルワンは、面倒そうに頭を掻く。

『帰還者』それは、ゴブリンの巣へと進撃し、壊滅させて戻ってきた冒険者につけられる名前だ。


あの砦には、何故か、竜までいたな。

死んでしまった、二人を思い出して唇を噛みしめる。

あのレイアとか言う女の子は、多分あの二人の子供だろう。


ゴブリンの巣にいた竜を取り逃がし。

里へと下りてしまった竜を倒すために参加した二人。


村人を守るために、燃え尽きたアルムと、小さな女の子を守るために、回復できないほど切り裂かれたレイ


「なんの因果か。お前らの子供の面倒まで見てるんだから、世間は狭いな」

酒をあおりながら、ダルワンの目は遠くを見る。


あの戦いは地獄だった。

人がちぎれ。

ゴブリンに囲まれ。

自分達だけでは手に追えなくて、大量の冒険者が投入され。

血と、怒号と、悲鳴しか聞こえない世界を生き残った時。

自分は、戦えなくなっていた。


酒に逃げた。

逃げ続けた。

「今、またこうして化け物と一緒に冒険者をやれている事が、不思議だよなぁ。ほんとうに、変わったガキだ」


全てを放り投げた自分が、今再び冒険をやっている。


水筒を、革袋をあおりながら、ダルワンはうすく笑う。

「俺がお前らの所へ行くまで。もう少し待ってくれよ」


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