第76話少女

「お疲れさまでした。こちらが今回の報酬になります」

ナンの村から帰ってきた僕は、受付で報酬を受け取る。

なんだか、周りがざわついているように思える。

皆、ちらちらと僕を見ている気がする。


「オーク討伐も聞いています。共同での討伐との事ですが、仲間の方は討伐料を受け取れないようですので、シュン様の分だけ、上乗せしておきますね」

目の前に置かれた大銀貨(10万)をそっと懐に入れる。

「オークは、部隊で倒す敵でもあります。でも、、この値段、、、報告だと1体だったんですけど、絶対、倒したの1体じゃないですよね?」

報酬というか、報告清算書を見ながら首をかしげるお姉さん。


それは僕が聞きたい。

まさか、、別で4体倒したの、、、バレてないよね?


それにしても。

ひそひそと、こちらを見ながら話しをしているから、落ち着かない。

「さっきから、そわそわしてますけど、何かあります?」

「いや、、こっちが聞きたいくらい。何かあったの?皆僕の方を見てる気がするんだけど」

気のせいならいいんだけど。


「ああ。それは、きっと、最近の発表の事かと」

発表?


「シュリフ将軍の娘、ライナさんと、ロアさんの婚約発表があったんですよ。あれだけシュンさん大好きだったのに、ちょっとあんな事があったからって、すぐに乗り換えるなんて、私は女性として、大嫌いですけどっ」

ぷりぷりと怒っているお姉さん。


僕がナンの村に行ってすぐの発表だったらしい。

ちょっとショックだ。


ライナと、レイア。

好きと言われれば好きだった。

けど、結婚とか言われたら考えてしまうくらいの関係だったと思う。

けど、彼女を取られたみたいで、なんか嫌だな。


「ロアさんももちろん恰好いいですし。惹かれるのも分かりますけどね。あと、今回の婚約は、シュリフ将軍が仕切ったみたいで、ロアさんの取り込みに走ったんだろうって話が有力ですね」


それでか。皆がちらちら見ていたのは。

恋人を先輩に取られた間抜け男、、、かあ。


「よぉ。フラれ男。めでたく一人になった記念に飲むかぁ?」

おっさんが肩に手を回して来る。

「相変わらず酒臭いな。ダルワン」

「はは。これが俺の命だからなぁ」

「悪いが昼間っから飲みまくるほど、酒は好きじゃないんだ。酔って絡んでくるんなら、ギルド規約違反で追い出してもらおうかな」

「はっはあ。なかなか手厳しいなぁ。先輩をもう少しうやまってくれてもいいんだぞ」

そう言いながらも、水筒をあおるダルワン。

絶対酒だよね。それ。


「オークを倒したって聞いたから、オークのステーキでも食えるかと思ったんだがよ。なんだぁ。持って帰らなかったのか?」

「うん。向うで一緒に戦った冒険者にあげてきた」

「ちっ。もったいねぇ。あれは癖になるほど旨いのによぉ」

ぐいっと肩を掴まれ、次に頭を押さえられる。


「お前、危険人物扱いになったぞ。Aランク連続討伐。オークの単独討伐。しかも群れだ。一部の奴にはバレている。お前に監視が付く可能性がある。これからの行動に気を付けろ」

耳元で、囁かれる。

「強すぎだ。国家をひっくり返せる力を持ってると思われた」


「あ~!そうかっ!ライナちゃんが駄目でも、お前には、レイアちゃんがいたんだったなあ!うらやましい限りだぜっ!寂しいおっちゃんに、酒でもついでくれる若い子を紹介してくれよなっ!」

僕の背中を力いっぱい叩いて、ダルワンはギルドから出て行く。


その姿を見ながら、僕は、忠告をくれた事に心からお礼を言うのだった。

しかし、ダルワンさん。。情報ってどこから仕入れてるんだろう。



「おらっ!さっさとあるけよっ!」

ギルドから出た時。

突然ムチの音が鳴り響く。


男が、すごく長い鎖を持って、地面をムチで叩いていた。

その鎖の先にいるのは、青い髪の少女。

10歳前後か。

小さい体は、服らしい服すら着せてもらえてなかった。


「早くこいっ!」

長い鎖を強く引っ張るせいか。

鎖がつながられている首輪か擦れて、首から血が滲んでいる。


奴隷であるのは分かる。

分かるけど、、この扱いはひどい。

「ちょっと!」

見ていられなくて、つい声をかけてしまった。


「なんだよ!ああ。暴緑かぁ。今忙しいんだよ。早くこの悪魔を街の外に捨てたいんだよっ!邪魔するなっ!」


男が焦ったような口調で叫ぶ。

その言葉に僕は思考が止まってしまった。

外に捨てる?

外は、魔物の領域だ。

夜はオオカミも出る。

頭の中に浮かぶのは、廃棄の言葉。

死。


「その子を買う。いくらだ?」

思わず、僕は口を開いていた。


「いいのか?こいつはいわく憑きだぜ」

「かまわない」

「こいつを買った奴は全員、不幸になって死んでいった。悪魔だぞ」

「いくらだ?」

「悪い事はいわねぇよ。兄ちゃん。やめときな、、」

「値段は?」

「この前、こいつを買った貴族の家なんか、爆発して、こいつ以外全員吹っ飛んだんだぜ。本当に、、」

じっと男を見る。


「分ったよ。本当に知らねぇからな。年増じゃない、年齢通りのエルフだ。本来なら、白金貨モノなんだが、さっきも言った通り、超いわくつきだ。さらに、秘め事もまっさらな子じゃない。言葉もあまり上手に話せない。金貨3枚(300万)でいい」

「買った」

即決した事にびっくりした顔をする男。


「はぁ。本当に物好きだな。知らないぜ。後、本来なら、主が死んだら奴隷商人に返されるのが普通の奴隷の扱いなんだが、この子については、もう受け取りを拒否したい。だから、大銀貨5枚(50万)でいい」

捨てる気だった子だ。

そりゃそうだろう。


「かまわない」

男はため息をひとつつくと、懐から小さな石をつまみ出す。

爪くらいの大きさだろうか。


「本来なら、奴隷商人の館で奴隷契約を結ぶんだが。こいつとは長く居たくないからな。ここでやってやる。手を出せ」


僕が右手を出すと。

手首にグリッと石を押し付ける。

一気に魔力が引きずり出されるのを感じる。

僕の心臓の位置にも、その石を押し付ける。


何か、魂というか、魔力以外の何かを吸い出されたような気がする。

緑色に染まった石を、男は少女の口に押し込む。

しばらく抵抗していたけど。

女の子が、その石を呑み込むのが分かった。


次の瞬間。

女の子が、自分の身体を抱えながら叫び出す。

女の子の体中に、黒い不思議な紋様が浮かぶ。

ズキッと痛みを感じたため、自分の右手を見ると、同じ紋様が浮かんでいた。


彼女の紋様と、僕の紋様が、一瞬緑色に光り。

紋様が消える。


「これで契約終了だ。これは、強制紋様と言って、普通の契約じゃない。凶悪犯罪奴隷に使われるやつで、あんたが死んだら、その子も体中から血を噴き出して、もだえ苦しんで死ぬ。あんたに逆らっても、激しい痛みと、呼吸困難に襲われる」

それって、、、

「つまり、この子は今から、あんたの持ち物だ。くれぐれも死ぬんじゃねえぞ。寝覚めが悪い」

そういうと、鎖を手放して、逃げるように走り去っていった。

「あ、、お金、、、、」


代金すら受け取らずに走り去った奴隷商を見送りながら、僕は茫然と立ち尽くすのだった。


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