第75話幕間 傷ついた聖女
私は鏡を見ながら、小さくため息を吐く。
右目はぽっかりと開いたまま。
そこに黄色の生地で作った眼帯をつける。
これは罰。
シュンくんは、いつも無理をするなと言ってくれていたのに。
考えて行動しろって言ってくれていたのに。
Fランクとして。冒険者として認められて気になって、私たちだけでもなんとかなると思って。
結局、何も出来なかった。
シュンくんの隣にいられると思ったのに。
「こんな娘じゃ、嫌だよね」
鏡の中の子が、ひどい顔をしている。
「ライナ?いるのか?」
扉が開けられ。
先輩が入ってくる。
「え?」
後ろを振り返った時。
ロア先輩はひどくびっくりした顔をしていた。
そのまま。
気が付くと、私は先輩に抱き絞められていた。
「大丈夫。大丈夫だよ」
そんな声をかけてくれる先輩と一緒に映る私は。
酷い顔をして泣いていた。
「ろ、、、あ。。。」
私は先輩の胸にうずくまり。必死に泣いた。
「落ち着いた?」
先輩がゆっくりと私を離してくれる。
「はい。ありがとうございます。。。。」
「だったら、、、、着替えようか、、、」
照れたような、戸惑った声の先輩に、私は自分の姿を見て、
声にならない悲鳴を上げる。
私っ!まだ寝間着だったっ!
うっすらと肌が見えるくらいの薄手のっ!
「ま、、よかった」
それだけ言うと、先輩は急いで部屋を出る。
照れている先輩を。ちょっと可愛いと思ってしまった。
くすっ と笑った私は着替えを始める。
そういえば。お父様は私がこんな姿になったとき、酷く怒ってシュンくんをどうするかなんて言っていた気がする。
ロアさんが何かお父様に話をして、落ち着いていたみたいだけど。
お兄様は、また巡回と言う名の遠征に出ている。
コボルトは絶対許さんと言っていたから、今回の遠征は長くなるのかも知れない。
コボルト。
特にコボルトシャーマンと言われるAランクの魔人は、獲物の身体の一部をコレクションするらしい。
不思議な液体にいろいろな物が浮かんでいると聞いた事がある。
心を砕かれた女性は、そのままコボルトに与えられ、死ぬまで子供を産まされるそうだ。
お兄様が怒っていたのが今はよくわかる。
ロアさんがいなかったら、私は生きていないかもしれない。
着替えて、部屋を出た時。
真っ白な髪のレイアが、窓から外を見ていた。
ふと、その目線の先を見ると。
お姉さまとロアさんが撃ち合っていた。
「ロアってば、踏み込みすぎ」
なんか、優しい目でロアを見ているレイア。
ちょっとだけ、イラっとしてしまう。
レイアは、あの時何があったのか教えてくれない。
けど、私が起きた時、赤かった髪は真っ白になっていたし、時々、ロアと一緒の部屋で過ごしているのを知っている。
お姉さまの踏み込みに、反応して剣を振るうロア。
お姉さまは、
宝玉騎士団と呼ばれる、4つの騎士団は、どの隊員も私から見たらすごい人ばかりなのに。
そのお姉さまの一撃を受け止めて、お姉さまについていけるロアは凄いと思う。
というか、さっきまで私の部屋にいたのに、なんでお姉さまと打ち合っているんだろう。あの人は。
ロアの剣が弾き飛ばされる。
「まいりました。流石、騎士様です」
ロアが頭を下げる。
そんなお姉さまは、飛んだ剣を拾い、ロアに返す。
「動きは十分いい。もっとお前は強くなる」
お姉さまの言葉に、頭を下げるロア。
何か、お姉さまがロアに話をしてる。
レイアが、びっくりした顔をしている。
私には聞こえないけど。レイアは唇を読めるって言っていたっけ?
「いえっ!それは、、そのっ!」
「お父様からの決定だ」
剣を差し出すお姉さま。
しばらくその剣を見ていたロアは。
「わかりました。お受けいたします」
それだけ言うと、その剣を恭しく受け取る。
お姉さまはにやっと笑うと、何かを言い。
ロアがまた慌てていた。
可愛い。
「ライナ。お前はロアと結婚する事になった」
数日後。
突然戻ってきたお父様に、そんな話をされて、私は固まってしまった。
かなり、間抜けな顔をしていたと思う。
「これは家長である、儂の命令だ。同時に、ロアには騎士団へと入ってもらう。いずれは
その言葉に、ロアは頭を下げる。
「ライナ。レイア。二人もロアを支えてやってくれ。これは、騎士団長。いや、将軍としての命である」
ロアの事は、、好きだと思う。
レイアと二人でいるところを見てしまうと、なんかざわざわするし。
けど、ロアは恰好良い。こんな私でつり合うのかな。
「以上だ。本妻としてがんばれよ。ライナ」
え?
本妻?
じゃあ、二人目がいるって事?
私が視線を回すと。
レイアが視線をそらすのが見えた。
そういう事ね。
そういう事になってたのね。
「レイア?いつからなの?」
お父様も無視して。
お姉さまも無視して。
じりじりとレイアに近づく。
「こわ、、怖い、怖い。ライナ、顔が怖いからっ!」
逃がさないわよ。
「ロアとの事は秘密だったのっ!」
「あら。本妻の私をさしおいて、旦那を呼び捨てなのかしら」
少し悪乗りしながら、レイアを追い詰める。
「だから、何も言わなかったのは、悪かったからぁ!ロア助けて!」
「えっと、、、、え、、」
とまどっているロアを見て、お父様も、お姉さまも、少し笑っている。
レイアが、酷い事をされたのは何となく気が付いていた。
けど、私も自分の事でいっぱい いっぱいで。
何も出来なかったけれど。
彼女もロアに助けてもらったのだと分かった今、少しだけ嬉しかった。
もう、シュンくんの傍にはいられない。
お父様の命令は絶対。
それに、私じゃ、シュンくんの足手まといでしかない。
ロアの事は、好きだけど、愛せるかはまだ分からない
けど。
だから。
今は自分の事は全て後回しにする。
さぁ。レイア。 ロアさんとの恋愛話をあらいざらい、私に白状しなさい。
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