第20話赤く染まる

兵士達の討伐募集から一週間が経っていた。

「はぁ。まあ、こんなもんだろ」

ホワイトピックを5匹台車に乗せて笑うカイル。

あれから、僕たちはホワイトピックやら、ウサギの討伐をしている。

というか依頼されている。

「ホワイトピック30匹は、これで終わりですね。後は、ウサギ50匹の残りが15匹ですか」

「本当に面倒な依頼を出してくれたわよね」

「食料が不足しているのは確かですからね。皆遠征を覚悟して、買い込んでいますから」


ホワイトピックと、ウサギは、簡単に倒せてしっかり稼げる。危険もないから、安心安全とキシュアさんは言うけど。

今は、ゴブリンがどれくらい外に出ているか分からないから狩りをしているパーティ自体が少なくて、いろいろと不足気味なのだそうだ。


「ポーションが、定価の2倍とかありえないだろ!」

カイルがそんな事を叫んでいた気がする。


「前に買い込んで、ギルドに預けてあるのが結構あるから、大丈夫ですよ」

キシュアさんが笑うけど、ギルドに100本近く預けていて、30本は、緊急で他のパーティに使ってもいいと言っているというのだがら、この人は凄い人だと思う。


「それにしても、シン君がいなかったら、一か月はかかってましたよ。1週間で行える討伐量じゃないです」

「俺達が、良い狩場を知ってるとでも思われたんだろうよ」

「まぁ、毎日納品していましたからねぇ」

「ほら、話し込んでいないで、すぐ帰るわよ。森に近づきすぎてる」

レイアさんも笑っている。

「ほんとだな。この森に、ゴブリンがいるのか?」

「僕の地図にはあんまり反応はないけど」

実際、地図には、10匹程度のゴブリンしか表示されていない。

「まあ。とりあえず。これで帰るか」

カイルが剣を鞘に納めた時。


「ぐっ!!」

突然、カイルの腕に矢が刺さった。

咄嗟に自分の腕に刺さった矢を引き抜く。

キシュアさんが素早く回復魔法をかける。


「大丈夫?」

「こっちに来なさい」

レイアさんが、僕の腕を引っ張る。

次の瞬間。無数にも見える矢が一斉に飛んで来た。

次々と剣で矢を叩き落とすカイル。

地図を見ると。

さっきまで10匹程度だったのに。

真っ赤に染まっている。

「来たわよっ!て何?!あの数!」

見えるだけで50体はいる。

けど、まだまだ赤い点は増えている。

「逃げるぞっ!」

カイルが叫ぶ。

後ろを振り返ろうとしたカイルの足が動かない。


足に黒いツタのような物がからまっているのが見える。

「ちっ。勘も鈍ったもんだ。ゴブリンレンジャーまでいやがる」

ゴブリンレンジャー。獲物を狩る事に特化したゴブリンで。

その特徴は。

足止め。

トラップを、物理的に設置したり、魔法で作ったりする。

カイルは魔法の足止めをくらったみたいだった。


みると、キシュアさんの足元が泥のようにぬかるんでいる。

「やられました。ここの土は、水を含むとぬかるむ泥土だったのですね」

こっちは、物理的な罠。そんな二人に対して再び飛んでくる矢。

それを剣で叩き落とすカイル。

「風よ。その流れをもって、我らを守る壁となれ、敵を退ける刃となれ。ウインドカッター!」

レイアさんの魔法が、空中の矢を斬り落として、キシュアさんを守る。

足止めして、一斉に矢を射かけて倒す。

ゴブリンレンジャーと、ゴブリンアーチャーの連携だ。

突然、鋭い矢が飛んでくる。

僕の目の前で、光の壁が矢を弾き飛ばす。

何か、塗ってあったような気がしたけど。


それを確認する間もなく、さっきの倍以上の矢が飛んで来た。

「絶対結界!」

思わず叫ぶ。

カイルに向かってきた矢が全て弾き飛ばされる。

前衛は、カイルは絶対守らないと。

僕が決意を固めていると。

「シン!お前は町に走って、この事を町の門兵に伝えて来い!」

「ダメだよっ!カイルを置いては」

「ガキを守りながら、この数と戦うのはしんどいんだよっ!お前が助けを呼んで、冒険者の2パーティでも連れてくりゃ、終る話だっ!とっとと行ってこいっ!」

「行って来て。私たち、強いのよ?死にはしないわ。それよりも、これ以上増えるようなら、私たちだけだと流石に面倒なの。お願い」

レイアさんにも真剣にお願いをされてしまう。

「このお使い。こなしたら、キスのご褒美を上げるわよ」

レイアさんのささやきに、思わず赤くなる。

「カイルに殺されたくないから、それはやめとくっ!怪我しないでよっ!急いで帰ってくるからっ!」

僕はそれだけ言うと、町に向かって走り出した。





「やっと行ったか」

俺は、、カイルは、シンの走っていく後姿を見て呟く。

レイアが、恋人が俺の傍に来ると、じっと俺を見つめて来る。

汗が止まらない。震えも来ている。

視線を外さない恋人に、俺は観念して白状する。

「悪い。多分、致死毒だ。アーチェリーがいやがる」

ゴブリンアーチェリー。

致死毒や、麻痺毒を塗った矢を遠くから撃ってくる厄介極まりない弓兵だ。

アーチャーよりも圧倒的に命中率がいい。

「バカ」

泣きながら、俺の腕に触れる。

「多分、大攻勢ですね」

解毒魔法をかけながら、キシュアが呟く。

どんどん増えて行く。

視界には、ゴブリンしか見えなくなっていく。

「致死毒は、、今は解毒は不可能です。回るのを遅らせる事しかできません」

キシュアが悔しそうにしているのが分かる。

1週間は、ゆっくりと解毒魔法をかけてもらいながら、安静にしないと抜けないのが致死毒だ。

バジリスクという、化け物からしかとれないとまで言われる、最悪の毒。

「本当にわりぃ。レイア。お前も逃げろ」

レイアは、笑う。

「あら。逃げて何?あなたの墓でも守りながら、泣いて暮らせと?まっぴらごめんよ」

準備されていた炎の魔法が、ゴブリンを打ち抜く。

「私も、冒険者よ。散り際と、一緒に逝く人くらい選ぶわ」

キシュアの解毒魔法が効いてきたのか、少し汗が引く。

動ける。気休めだが。


再び飛んで来た大量の矢が、光の壁にはじかれる。

しかし、光が薄くなり。消えて行く。

キシュアが、強化魔法をかけてくれる。

足止めの魔法の効果が切れた。

動ける。

「みんな本当にわりぃ」

「あら、妙に素直じゃない?」

「アリンに叱られてくるわ」

ふっと笑う。

「あら、大丈夫よ。私がアリンを言い負かせて上げるから」

「アリンは優しいですから。大丈夫ですよ」

「あいつが優しいのは、お前にだけだったろうが!」


3人で軽口を言い合う。

まったく。

最高の仲間だ。

そして。最高のパーティだ。


笑っている自分がいる。

笑っている恋人がそばにいる。

笑っている仲間がいる。


やれるだけの事をやるだけだ。

「炎の楔。この名前を、きざみ込みやがれっ!ゴブリン野郎っ!」


俺は視界一杯の敵の群れへと突っ込む。

最高の時間を。最高の人生を。

ありがとうな。

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