第113話 漁村

「マスター!すごいです!水がキラキラしてっ!」

海を見ながら歩いているとミュアの目もキラキラしていた。

久しぶりの波しぶき。太陽の光りを反射して動く光り。

あー。波に向かって突撃したい。


砂浜を見つけるたびにそんな事を思いながら、ゴブリンの依頼の件があるため、自分の気持ちを抑えて小さな漁村へと足を運んでいた。


村に着くと、小さな漁村の真ん中にある少し大きな家に向かう。

だいたい、大きい家は村長の家だと思うから、間違いは無いと思う。間違っていても、そこで聞けばいいと思うし。

「すみません。街で依頼を引き受けたのですが?」

「ほう。こんなさびれた村に。ようこそ来てくださいました。」

座っていた高齢と思われる男性がゆっくりと顔を上げる。

「この村でゴブリン退治の依頼を出していると聞いたのですが?」

「ああ。その話か。その話ならあっちの家のダイクという男に聞いてくれんか?確かに儂が村長だが、その依頼はあいつが勝手に出した物だからな。依頼料も、あいつからもらってくれ」

興味なさげに返事を返して来る。

「マスター、では、そちらへ行きましょうか」

ミュアが、声をかけてくると。

村長と言った男は少しだけ目を細める。

「ところで、君たちは寝る場所はあるのかね?もし無いなら、あちらに空いている家があるから自由に使うといい」

からみつくような視線を感じる。

ミュアがいつもよりも僕にくっついてくる。


「ありがとうございます」

それだけ言うと、僕たちは村長の家を出ていた。

ミュアが家を出たとたんに大きく息を吐く。


「マスター。私、あの方あまり好きではありません。ミュアをじっと見つめていて。その、、、昔ミュアを買っていった人達と同じ視線でした。あの目は、、、あまり好きじゃないです。昔を思い出すので」

よほど嫌だったのか。

「大丈夫。何もさせないから」

ぴったりとくっついたまま離れないミュアを安心させるため、頭を小さく撫でて上げる。



村長に言われたダイクという家に入ろうとした時だった。


「ふざけんなっ!バーカッ!いてっ!」

かわいらしい叫び声と一緒に男の子が飛び出してくる。

「あんたの方がバカなのよっ!バーカっ!」

その声を追うように出て来たのは女の子。

「知るかよっ!バーカ、バーカ!」

飛び出して来た男の子は、僕にぶつかり、そのまま転んでしまう。

その光景を見ていた女の子は、きょとんとした目をしていた。

「ここは、ダイクさんの家でいいかい?」

女の子は、ぶんぶんと首を縦に振ると。

「とうちゃーー。お客さんだよーーー」

かわいらしい声が響いた。

家から出て来たのは、体つきのいい中年の男だった。

「を。冒険者か?こんな所に来るとは珍しいな」

「依頼の件で来たんだけど?あなたが依頼主のダイクさん?」

ぶっきらぼうになるのは仕方ないと思う。


「はっはは。そういえば。街に依頼書を出しておいたな。まあ狭いけどとりあえず入ってくれや。おい!お客さんだ!何か出してくれっ!」


ダイクさんが叫ぶと、奥から穏やかな雰囲気の女性が奥から出て来る。

「あら。いらっしゃい。ゆっくりされて行ってくださいね」

「妻のアヤだ。まあ入ってくれや」

家の中は、土間のあるどこか懐かしい作りの平屋建てだった。

部屋は4部屋はあるだろうか?

居間に通されると、そこは堀炬燵がほってあった。


「で、依頼の件なんだが?」

「ああ。ゴブリンをかなり頻回に見るようになったんだ。今までは数匹程度だから、俺だけで対処できていたんだが、女の子が帰って来ない事もあってな。この村は、海の供え物とか、共生するために必要な犠牲と言って、気にしちゃいない。まあ、戦う力が無いってのもあるんだろうがな」

「ほんとうに、、、」

「だが、俺も漁に出る身だ。いつもアヤや娘の傍にいてやる事は出来なくてな。できれば退治して欲しいと思って依頼を出したんだ」

「何処にいるかとか、分からないって事か」

話をしながら、地図を開いてみるも、ゴブリンの集団は見つからない。

洞窟か、地下に拠点を建てているのかも知れない。

「これは、、長丁場になるかも、、家を借りれてラッキーだったかも」

僕の呟きに、ダイクが目を見張る。

「家を貸した?あの村長が!?」

「ああ。心良く貸してくれたけど」

ダイクを少し考えるそぶりをした後。ミュアを見て納得した顔をする。

「気を悪くしないで聞いてくれ。あの村長は、よそ者にはとことん冷たい。俺もここに来てすぐの時は相当苦労したからな。今もまあ、苦労はしているんだが。それよりも、そんな村長が気前よく家を貸したと。君の隣にいるのは、ハーフエルフの、奴隷で間違いないよな」

僕がうなづいたのを確認して、ダイクさんは話を続ける。

「普通なら、ハーフエルフは、奴隷の中でも最下位の扱いだ。つまりあの村長、家の家賃代わりにその子を寄越せと言ってくる可能性もあるぞ。かなり可愛い娘だしな。その子は、君にとっては大事な人なんだろう?」

「もちろんだ。ミュアを襲うやつがいたら、皆殺しにしてやる」

ぎゅっと裾を掴んだまま放さないミュアを抱き寄せながら言い切る。

「でも、今までミュアにちょっかいを出してくる奴なんていなかったが、もう少し絡まれてても、おかしくなかったって事なのかな?」

「あんたが、よっぽど有名人が、それともまさか二つ名持ちとかな無いよな。王都の教訓。二つ名持ちはヤバイ。その連れにも手を出すなっていうのがあった気がしたんだが?」

そんな話は聞いた事も無いと思ったけど、結構早めに二つ名が自分に付いていた事に気が付いてしまう。

【暴緑】【幼女趣味】【槍弓】さらには、最近追加されたのは、【千匹殺しサウザントキラー】まであった気がする。

「まあ、それは冗談だけどよ。二つ名持ちは滅多に王都から出て来ないからな。よっぽど変わった奴でないとな。まあ、話は少しそれてしまったが、その娘が大事なら、村長に勧められた家に止まらない事だな」

「忠告はありがいんだが、村長とは仲が悪いのか?」

ダイクはまったく村長を信用していないし、村長もダイクを嫌っているように感じる。

「俺がここに来たときにな。アヤが襲われかけてな。それ以来、村長を信用してないんだ」

「私たちがこの村に来た時。夜中に入ってきた数人に押さえつけられて、抵抗できなかったのですが、夫がすぐに起きて、全員を蹴散らしてくれまして」

アヤさんが、料理を出してくれながら、顔を赤らめている。

おや?カルパッチョにも見えるけど。

「だからな。俺はこの村の人間を信用してない。けど、この村から出てどっかに行くのも、もう無理だったしな。あの時には、あの娘がお腹にいたからな」

自分の頭を掻くダイク。

だから、娘にはちょっと自衛の方法を教え込んでやってるんだ。

苦笑いを浮かべている。


そんなダイクの話を聞きながら、ずっとアヤさんのお腹を見ていたミュアがそっと立ち上がる。

お腹に手を当てると。

『新たな息吹。新たなる芽。強く、つよくありて、大樹となれ』

聖霊語で呟く。

困惑していたが、アヤさんが、ミュアの顔を見る。

「やっぱり、いるの?」

ゆっくりとうなづくミュア。

「あなた!3人目っ!」

嬉しそうにダイクに抱き着くアヤさん。

「まじかっ!なら、なおさら気張らないとなぁ!」

突然叫び出した二人の声に。

二人の姉弟がひょっこりと顔をのぞかせて二人の様子を見ていたのだった。


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優しくない世界に転生した。精一杯生きてやる。~創世記の英雄は転生者~【完全書き換え版】 こげら @korea

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