第11話炎の楔

「はぁ?この町の子供?」

「だと、思いました」

剣士に連れられて正門から帰った僕を待っていたのは、門番さんの怒鳴り声だった。


司祭として、回復魔法をかけてるから、僕の顔はこの町では少しは有名で。

その司祭が、勝手に町の外に出ていたわけで。


「なんてことをしているんだ!君がいなくなったら、どれだけの人が悲しむか、考えた事があるのかい!君はっ!」

門番をしている兵士さんも、いつか僕が治した事のある人だ。

そして、今、真剣に怒っている。

「まあ、本当に、無事でよかったよ。それはそうと、、勝手に町の外に出たら、罰金があるんだが」

散々説教をされた後。

容赦なく、罰金を払えと言われてしまう。


「はぁ。仕方ない。俺が立て替えておくよ」

カイルは苦笑いを浮かべながら、大銀貨(10万)を支払ってくれた。


「で、、なんで君は外へ出ていたのかな?」

「おう。子供一人で外へ出るなんて、自殺でもしたいのか?」

「あ、、あの、、」

「ちょっと、そんなに問い詰めたらかわいそうじゃない。外に出たい日もあるわよねぇ」

「レイアっ。甘すぎだっつーの」

「いやいや、、君、ローダローダの神殿の司祭様だよね。癒しの聖人様のはずだけど」

「マジか。骨くらいなら一瞬で治せる、奇跡の天使か」


僕は、、やっぱり有名だった。

「そんな子供が、外に出るとか、、何してた?」

カイルの圧力に。

耐えきれなくなった僕は、素直にウサギ狩りに出ていた事を吐いたのだった。



「毎日、ウサギ狩りに出ていたんなら、少しや役立ってもらうからなっ!明日から、毎朝冒険者ギルドに来る事っ!いいなっ!」

散々怒られた後。

剣士のカイルに強く言われてしまい。

一人でのんびり外を満喫していた時間は終わりを告げて。

次の日から。

配達は継続で行っていたけど、その後、冒険者のギルドに行き。

カイル達、炎の楔というパーティと一緒に外へ出る事になったのだった。




孤児院に帰ってから、シスターさん達にも散々怒られた・・・





日も暮れた夕方。

「で、十分稼いだよね。あの子、ほぼ毎日納品していたよね」

シンの前で、やさしく声をかけていたお兄さんが、にこやかな顔のまま肉屋のおじさんを問い詰めていた。

「闇肉って、いうんだよね。そういうのは。まぁ、子供だし。冒険者ギルドも正規の組合が間に入っているわけじゃないから、特に僕が何か言えることじゃないんだけどね」

お兄さんの目がゆっくりと真剣な物になる。

「子供だからって、相場を無視するのはどうかと思うんだよね。あの値段はないでしょ」

肉屋が、びくっと体を震わせる。

「ああ。あの子は何も言わなかったよ。でも、あの子の話だと、一日5匹。普通なら、一流冒険者と言ってもいい数だ。その数を、納品していたはずなのに、あの所持金。おかしいと思わないかい?」

ウサギの買取は、一匹大銅貨5枚(5千円)5匹ともなれば、一日で稼げるお金としては、なかなかの額になる。

下手をすれば、肉屋の収入にせまるはずなのだが。


「闇肉を扱っているのは、ここだけだし。それに、、最近ウサギの肉がすごく出てるらしいね」

うつむき何も言えなくなる店主。

炎の楔と言うパーティの中で、情報収集と、交渉を担当しているお兄さん。

キシュアは、笑顔のまま肉屋を問い詰め続ける。

「まあ。差額を返せとは、今更言わないよ。ただ、僕が来たのは、君がもうけた分、きちんとして欲しいのと」

一つ、指を立てる。

「今日で、終りと言う事をね。伝えに来たんだよ。あの子は、今日から、僕たちが面倒を見るからね。僕たち。元Bランク炎の楔が、、ね」

呆気にとられる肉屋の顔を見ながら。


「文句があるなら、ギルドに直接言ってくれればいいから」

それだけ言うと、キシュアは肉屋を出る。

「はぁ。全くカイルは面倒を持ってくるのが、本当に得意だよね」

肉屋を散々脅していたキシュアは、優しいお兄さんの顔にもどり大きくため息を吐く。

「まさか、孤児院の奇跡の天使を拾う事になるとは、思わなかったけどね。しかも、毎日、ウサギ狩りをして、獲物を採ってたとか、どんな子供なんだか」

キシュアはもう一度ため息を吐く。


「純粋そうな子だったね。けど、いろいろと大人に使われるよね。こんな時代だとね」

回復魔法が使えて。力が強くて。純粋で。

どれだけ、悪意を持つ持たないに関わらず彼の力を大人は利用して来たのだろうか。

「正当な力は、正当に評価されるべきだよね」


自分がおせっかいなのは十分分かっていた。

けど目の前で、大人に使いつぶされそうな子供を見捨てる事なんて出来るはずもない。

「君も、そうだったからね」

自分の首にかかっているお守りをそっと握り締める。

「大丈夫。あの子は守るよ」

穏やかに笑うキシュアは、自分の恋人を思い出す。

豪快で、繊細で。

でも、子供の頃から力が強かった彼女は、とにかく働かされていた。

文字も。計算も。一切教えてもらえず、ただただ、働いていた。

「私はバカだからさ。丁度よかったのさ。おかげで、腕っぷしも強くなったし。あんたに会えた」

そういって笑ってくれた彼女の顔を思い出す。

「引退前の、一仕事になるかな」

問題があって、Bランクから、Cランクに落としてもらい。

こんな田舎まで引っ込んできたのだけれど。

「次は、女将さんかな」

面倒事の、面倒なしがらみをほぐしてあげるために、歩き始めるのだった。

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