第10話出会い
いつもの朝。
僕は起きると、麻の服を着ていつも通り孤児院を飛び出していく。
「行ってきまーすっ!」
シスターの二人がこちらを見てるのを確認して、二人に手を振って僕は女将さんの所へと走る。
今日も頑張って稼がないとねっ。
孤児院から、配達元の女将さんのお店までは子供の足でも10分くらい。
僕からしたら、ちょっとすぐの感覚だ。
昨日の夜、速さのステータスも少し上げたから、大人と追いかけっこをしても負ける気はしない。
「おかみさ~ん!おはよう!」
「シンは元気だねぇ。私にも分けて欲しいくらいだよ」
女将さんは、にこやかな笑みを浮かべて、僕を待っていてくれていた。
ひとしきり、女将さんと話をした後、またワイン(ぶどうジュース)を大量にカートに積んで行く。
「ああ。そういえば、最近、冒険者の人やら、警備の人が怖い顔をしていてね。この辺りに、ゴブリンが出てるって話なのさ。巣まであるんじゃないかって言われてて、危ないからね。避難指示とか、出たら全部放り出していいからね。すぐ帰ってくるんだよ」
心配な顔で、僕を見てくれる女将さん。
「うん。分かった」
元気に返事を返して、僕は町へと配達に出て行く。
けど、冒険者かぁ。ウサギ狩りの時に、時々もめるからあんまり会いたくない人達なんだよなぁ。
でも、ゴブリンのが、もっと怖いかも。
何回か、遠くから見た事があるけれど、こん棒とか、剣とか持ってて3,4体と一緒にいるから、なんだか、見つかったらいけない気がしていた。
数日前に、この近くで見かけた事もあるからウサギ狩りの場所にいたら嫌だなと思う。
いつも通りに大人の人が配る数より多めのワインを配って。
いつものように女将さんのスープをごちそうになって。
女将さんにお礼を言って。
ウサギ狩りをしようとしようと、壊れた壁を抜けて外に出る。
いつも通り。
壁の向こうで伸びが、、、、出来なかった。
目の前に、何かが落ちている。
いや、、服。
女の、、、人?
何かが地面に転がっている。
頭?
じっと見つめてしまって、体が動かなくなる。
頭の中で、何かが鳴り響く。
勝手に、目の前に地図が浮かび。
黒い点が、すぐそばにあるのが見える。
僕の足が、震え出す。
野党。
けど、、こんな近くに?
「騒ぎ立てずに、大人しくしてりゃ、何もしなかったのによ」
「何もしないは無いだろ?」
「まあ、しっかり楽しむつもりではあったけどよ」
声が聞こえる。
話している男の一人が、地面に転がっている丸い物を蹴っている。
「商人とか言ってたわりに、何も持ってなかったな」
蹴っているのは、、、人?
男の人じゃ?
どばっと、汗が噴き出るのが分かる。
足ががくがくして立っているのかどうかも怪しくなる。
なんで、町を出る前に地図チェックをしなかったの。
いや、町を出てからいつも地図を起動させていた。
馬鹿、僕の馬鹿。
野党の一人がこちらを向く。
僕と目が合う。
「た、、、たす、、、け、、、」
呟く僕を見て、野党がニヤリと笑うのが見えた。
「何だボウズ。何処から来た?一人か。お母さんは何処にいるのかなぁ」
ニヤニヤした笑みが、酷く怖い。
「まあ、悪い時に悪い所にいたなぁ。たまたまこんな所にいた、自分の運の悪さを恨みな」
「見られたからには、、、まぁ、大丈夫。痛くはしないさ」
野党が蹴る。
人の頭を。
コロコロと転がる頭だけを。
「うごけねぇか。まぁ。そんなもんよ」
矢が、こちらを狙う。
「いい的になってくれよ」
「何本いけるか?」
笑い声が遠くに聞こえる。
すぐ近くに、男達はいるのに。
動けない。
体が言う事を聞いてくれない。
野党の弓が力いっぱい引かれて。
躊躇なく矢が放たれる。
足すら震えて動けない僕に、矢は突き刺さるはずだった。
貫かれるはずだった。
光りの壁が、矢を弾くまでは。
『絶対結界。発動』
データベースさんが、音声で伝えてくれる。
体から力が抜ける。
『魔力枯渇確認』
そんな声が聞こえて来る。
絶対結界? 魔力枯渇?
知らない。
魔法は使えるけど、こんなに魔力を使う魔法なんて知らない。
体が重く感じる。
「何だぁ!」
光りの壁に防がれ。矢がはじかれた事に驚いた顔をする野党。
防がれると思わなかった野党は、二本目をすぐにつがえる。
速い。
二本目が放たれ。
再び光の壁にはじかれる。
矢を打っていた隣の男が剣を抜く。
「ふざけるなよ。ガキ」
一歩目。
男が走り出そうとしたとき。
突然目の前で、炎に包まれる。
「ぐあぁぁぁ」
叫び声が聞こえる。
「何もんだぁ!」
3本目をつがえながら、後ろを振り向いた男の首が宙に飛ぶ。
その胸に、氷の矢が刺さり。
地面に倒れたその胸に、頭が落ちて来る。
「くそぉ!」
まだ声が聞こえる。
「カイルっ!右側の岩にもう一人います!後二人!」
「わあってるよっ!索敵しっかり頼む!あと、支援もなっ!」
「カイルっ、魔法の射線の上っ!塞がないでよねっ!」
「そんなに器用に動けねぇよっ!俺を避けて撃てばいいだろっ!」
叫ぶように声をかけながら、突然現れた3人。
目の前に勝手に開いていた地図の中で、緑の点が浮かぶ。
冒険者だ。助かった。
僕は、助かった安心からか、その場にへたりこむ。
お股が濡れている気もするけど、気にしていられない。
剣士が、岩の後ろにいた野党を切り裂いた時。
少し遠くにいた男が、走って行くのが何故か見えた。
「あ~!逃げますよ!カイルっ!」
「無理だろ。それとも追っかけるか?」
「無理よ。私、そんなに魔力は残ってないわよ」
「なら、仕方ないですねぇ。後で、ギルドに報告が必要ですしね」
「3人か~。一人逃がしたのは痛いが、、まぁ。今日の宿代くらいにはなるか」
剣士は、剣を納めると、野党の傍に寄って行く。
カイルと呼ばれていた剣士は、野党の懐をあさり始めた。
「ちょっと、カイル?子供がいるんだから、今は自重したら?」
ジト目で、そんな剣士を見る、おねえさん。
そんな声を無視して、剣士は、死体あさりを続ける。
「遠慮してたら、俺達が飢え死にするわ。お。銀貨みっけ。これで宿代にはなるなぁ」
「はぁ。それほど、懐が寂しいわけでもないでしょうに」
もう一人の男の人が大きくため息を吐いているのを見ながら。
僕は、首の無い死体や、足元にいる女の人。
血の匂いに。吐きそうになって、地面にうつ伏せになる。
ふと、僕の背中を撫でてくれるあったかい手を感じた。
「怖かったね。気分が悪いかな。傷とかは大丈夫?あ、お姉さんね、レイアって言うの。よろしくね」
ゆっくりと背中を撫でてくれる手が、お姉さんの笑顔が。
僕は、思わず、お姉さんにしがみついて泣いていた。
「怖かったね。無事でよかったね」
レイアと名乗ったお姉さんは、泣く僕の頭をずっと撫でて慰めてくれる。
その手に、僕はとても安心した気持ちになっていたのだった。
「お前は、本当に子供に甘いよな」
カイルと言った剣士が、呟くのが聞こえる。
「あら。子供が好きなだけよ」
返事を返すお姉さんを見る目が、少し羨ましそうなのは気のせいだろうか。
「大丈夫ですか。怪我とかは、、してなさそうですね。良かったです」
もう一人のお兄さんも声をかけてくれる。
お兄さんは、僕の顔を見て、一瞬びっくりした表情をしていたけど、すぐにお姉さんと同じように、背中をさすってくれる。
お姉さんは、ずっと頭を撫でてくれていた。
「帰るか」
カイルと言った剣士が呟くと、残りの二人もうなずく。
僕は、、涙が止まらなくなっていたので、お姉さんに手を引かれて帰る事になったのだった。
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