第114話 暗躍

「どうしたの?めずらしく難しい顔をしているけど」

黒髪の女性が、一人の男性の胸を撫でるように指を這わせる。

「ああ。【希薄の】がしとめ損ねたらしい」

「あら。珍しい。時間が無かったのかしら?」

「時間が無かったとしても、あいつなら一瞬で楽しんで来るだろ」

「それもそうよねぇ」

「で、相手は誰だったの?」

「4Sの器」

「あら。あの子?確かに強いけど、それほどなのね」

「ああ。面白そうな奴だな」

「だから、会いに行ったのかしら?」

知っていたのか?と言った目で目の前の女を見る青年。

ほぼ裸の女性は、くすりと笑い青年の胸によりかかる。

「頂点のあなたが気にする子なんて、久しぶりね」

「ああ。会ってみて確信した。あれは相当だな」

「私たちと同じくらいのスキル持ちなのかしら?」

「可能性は高いな。鑑定スキルで調べてみたが、スキルが確認できなかった。そうだな、文字化けしている状態といった感じだったな」

「私たちとは違うのかしらね。それは気になるわ」

「どっちにしても、普通の転生者じゃあ、【希薄の】からは一分も逃げられない」

「ずいぶんと【希薄の】を褒めるじゃない」

「何だ?妬いているのか?」

頬をふくらませた女性の頬をそっと撫でる青年。

「お前は、特別だ。俺の物なんだから、俺の先を照らしてくれればいい、、○○、、」

青年が、名前を呼び切る前にその口をふさぐ女性。

しばらくお互いの唇をむさぼり合った後。

「盗れるならどんなスキルでも盗ってやるさ。だが、まずはあの宝石だ」

「そのために、あの子を追いやったのだものね」

「ダルワンと仲がいいからな。面倒な事になってもらっても困る。それに、あのエルフのスキルも興味深い」

「置いて行かないでね。【皇の】」

「置いて行くわけないだろう。お前は俺の隣で光っていればいい」

「嬉しい」

「スキルも盗れたら盗ってやろう。絶対に帰るぞ」

「そうね」

強く女性を抱きしめながら、青年は呟く。

その力強さにうっとりとした顔をしながら女性は青年の胸にもたれかかるのだった。


【王都にて】


「シュリフ。不穏な声が聞こえておる。ロアはまだ戻らぬのか?」

国王は、少し不機嫌な顔をして目の前の騎士団長を見ていた。

「思ったよりも、オークの数が多く、討伐は難航しているようです」

「オークの強さは分かっておるつもりだ。だが、今の王都で流れておる不穏な声も気になって仕方ない」

「弟君の血縁者が、兵を集めていると言う話ですか」

「儂も聖人ではない。だが、噂だけで全てをねじ伏せるわけにも行かぬからな」

「なるべく、速く平定して王都へ帰還するように、伝えておきます」

「頼むぞ。西の砦では、とんでも無い数の敵を退けたと話もあったな。シュリフ。そちの息子は本当に優秀であるな」

「国王あればの事であります」

「とにかく、不穏な気配が漂っておる。急いで兵を戻せるようにしてくれ」

「善処いたします」

シュリフは深く頭を下げる。

国王は少し疲れた顔をして、自室へと戻って行った。


「まさか、珍しい剣を見つけてしまったために、その剣を調べるのに時間を費やしているなどと、言えるわけもあるまい」

ロアが、とんでもない剣を見つけてしまい、その解析と量産が出来ないか調べていると、この前 娘から手紙が来たばかりであった。

「面倒な事ばかり起こる」

もう一つの手紙を握りしめる。

そこには、金銭の支援。いや、支払のお願いがあった。

「西の砦を守ったのは、あの化け物か」

手紙の内容は信じられない物だった。

たった二人で、砦を襲った大進攻を食い止めたなど。

「いや、コボルトに始まった大進攻を食い止めたのも、あいつだったか。だが、本当なら危険すぎる。あの王は、何もみえていない。自分の保身ばかり考えていたら、国がひっくり返るぞ」

4S以外達成した事もない、千斬りを達成してしまった少年。

管理できない一人の冒険者が、軍隊なみの力を持っている事に危機感を強くもってしまう。


「あの男は、王座にしがみつく気みたいだな」

突然後ろから声をかけられる。

「【皇の】か。背後に立つな。斬るぞ。後、王の悪口を言うとお前であろうと斬らなければならなくなるのだが?」

「僕を斬れるなら、斬ってみるといいさ。それよりも、あの男の事だ。名王だと言われたのは昔の話だと思うが?今はずいぶんと耄碌して自分の事を優先させているように見えるんだけどね」

「【皇の】」

「ああ。悪い。そんなに殺気だたないで欲しいな。けど、あの王様は人のいう事を聞かなくなっているよ」

「何が言いたい?」

「ははは。遠まわしすぎたかな。僕としては、王の代わりに国を動かせる人がいるなら、代わってもいいんじゃないかと思っただけさ。シュリフ将軍みたいな優秀な人がね」

「国家畏敬罪で叩き斬られたいのか?」

「そんなつもりは無いよ。けどね、もしシュリフ将軍が動くなら、僕たちは全面的に君を応援しようと思っている。この国のために、この国を動かすのも必要な時が来たと思うよ」

【皇の】を睨みつけるシュリフ。

「北の坑道で、魔物があふれ出しているらしいよ。多分、【彼】が戻って来たんだろうね」

思わず目を見開くシュリフ。

「望む、望まないに限らず、動き出したと言う事だと思うよ」

それだけ言い残して青年は消えて行く。


「国を動かす、、か。私に出来るのか?」

だが、4Sが手を貸してくれるというのなら、それは現実となる。


唐突に沸き上がった野心を胸にシュリフは北の坑道の調査を命じるのだった。



【王の寝室】

「どう?」

「ダメだ。どうしても兵士が足りん」

王は、女性を抱きしめる事で自分のイライラを解消しようとする。

「久しぶりに、激しかったわね。ほんとうにたくましい人」

目の前で、妖艶に笑うのは、【明星の】と呼ばれる女性。


【皇の】の恋人であるはずの女性だ。

「あの人よりも、王様の方がたくましいもの。だから、あなたには生きていて欲しいの」

「分かっておる。儂もむざむざ殺されはせん」

「でも、北の坑道から魔物が溢れたら、王都は手薄になる。そこを狙って来るわよ」

「ありえん、、とは言い切れんな。お前が情報をくれるから本当に助かる。暗部は何をしているのやら」

「気にしないでね。私が好きでやっているのだから」

そっと王の頬を撫でると。

「じゃあ、気を付けてね」

延びて来た王の腕をするりと抜けて、【明星の】は王の部屋から出て行く。

しばらく名残惜しそうに腕を伸ばしていた王は。

「兵士を集めろ!」

叫んでいたのだった。


「ほんっとうに、気持ち悪い」

【明星の】は、その象徴ともいえるゴスロリ服を着て、空中に漂っていた。

「あの人の為とは言え、あんなゴミに抱かれるなんて。上書きしてもらわないと」

それだけ言うと、彼女は地上へと降りて行く。


4Sと呼ばれる者の手によって、何かが起ころうとしていた。





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