第29話小さな事件

「くそっ!」

僕は、イノシシの骨から作ったメイスで、イノシシの頭を叩き潰す。


ライナとレイアの二人と一緒に外に出るようになってから、数か月経っていた。


僕の使っていた槍は折れてしまった。

だから、イノシシの骨を使って、メイスを作った。

イノシシの牙を埋め込んだこの武器は見た目だけでも凶悪だけど。

威力もまあまあ凶悪だ。

「それは、、なんか、、シュン、、」

「そんな野蛮な武器、、なんか、違う気もしますう」

なんて、二人からドン引きされたけど。


「武器作成のスキルを作れたのはいいけど、素材がなぁ」

昔使っていたような、槍を作りたいけど、目が4つあるデビルタイガーとか、山よりも大きいのに、車より早いカオスドックとか、いればいいんだけど。

あれくらいの魔物の骨なら十分な武器になるんだけど。

「まあ、今のステータスじゃ倒せないか」

2匹目のイノシシを横殴りにして吹き飛ばす。

二人はいない。


そう。今はこっそり一人で外に出ていた。

見つかったら捕まるのは確定だけど、地図をずっと開いて、冒険者やら、騎士やら、商人にも見つからないように気を使っている。


門兵にはたっぷりのお気持ちを渡したし。


「くそっ!」

頭を振りながら、再びこちらに突進して来たイノシシの頭を地面に叩きつけて、僕はメイスで打ち上げる。

「僕がしっかりしてないと」


空中に上がった巨大な塊を魔法で打ち抜く。

イライラを解消しながら、少し前の事を思い出していた。




「あの、、シュン君、、私もやってみていいですか?」

ライナが突然そんな事を言いだした。

はっきり言うと、規約違反だ。

僕が、答えを言う前に、レイアまでが、「私もやる!」

と言い出してしまった。


仕方なく、僕がサポートするという条件付きで、許可してしまった。

それがまずかった。


ライナが水魔法で牽制。

レイアが火魔法で迎え撃ち、倒しきれなかったら、僕が足止めして、ライナか、レイアの魔法で止めを刺す。


そんな感じで狩りをし始めて。

いざやってみると、入学した時より圧倒的に威力が上がったレイアの魔法が、オーバーキル気味にイノシシを狩れる事が判明してしまったんだ。


あの森の中の魔物が使っていた、螺旋型火の矢。

貫通特化型のあの魔法を使えないか必死に練習していたのが、レイアに教えてあげる事が出来て。今、とんでもなく役に立つなんて。

僕には使えないけど。


イノシシの頭に突き刺さった火の矢が、体の中で爆散して大ダメージを与えるのを僕は茫然とみていたりしていた。


油断。そうだと言うしかない。

僕は完全に気が緩んでいたんだと思う。


僕が、ライナ達が狙っていた2体のイノシシの片方を受け持った時。

それは起きた。


別のイノシシがどこからともなく出てきたのだ。

地図を開いて確認した時、僕は自分の間違いに気が付いた。

ライナから見て、一匹に見えていたイノシシ。

けど、実際は2匹いた。

 本来なら、いないはずの敵。

地図にすら、一匹と見えてしまうくらいにくっついていた一匹。

「きやぁぁぁっぁあ!」

ライナが叫ぶ。

彼女達に、2匹同時の戦闘は無理だ。


いや。

それよりも。

強化魔法を、ライナたちにかけていた?

覚えて無い。把握してない。


あまりにも圧勝すぎて忘れていた。

キシュアさんの言葉が、頭をよぎる。

「支援魔法は、切らさない事。死ぬよ」


頭が痛い。

俺のクソ馬鹿っ!

自分が引き受けたイノシシに向かい、連続で魔法を使う。

足止めをして。

風の監獄エアーズプリズン!」

最強魔法を叩きこむ。


回収不能まで千切れるイノシシを見る事もなく、体を無理やり動かし、方向転換を行う。

筋肉が、足が。きしむ音がする。

関係ない。


カイルが。壊れた孤児院が。

絶対に、、、死なせない!


ライナが、突っ込んで来た2匹目の牙にひっかけられて空中へと飛ばされる。

血が空中に飛んでいる。


「間に合え!」

回復魔法を

ライナを包み込む緑色。

すぐ下に、水色の湖。

何個も空中に水たまりを固定する。


水たまりに落ちるたびに、少しずつ失速していくライナ。

真横から、イノシシが口を開ける。

威嚇のつもりか。

その口の中に直接手を突っ込む。

風魔法を炸裂させる。

血だらけになりながら、暴れる奴の身体に数本の火の矢が突き刺さる。


血をまき散らしながら倒れ込むイノシシを見ながら、最後の水たまりの下へと滑り込む。

丁度、ライナが僕の上に落ちて来る。


衝撃は凄いけど、耐えきれる。

最後のイノシシがこちらへと走って来るのが見える。

すぐ目の前で。

光りの壁に頭から突っ込み、のけぞる。

「終わり」

僕は、ありったけの風の刃をそのイノシシに叩き込む。



「シュン、、、君?」

僕が目を覚ましたのは、宿のベッドの上だった。

「僕?」

起きようとすると、頭が酷くイタイ。

「寝ていてください。魔力切れだそうです」

ライナが心配そうな顔をしている。


「凄い量の風魔法を撃ち続けて、気を失ったんです。それに気が付いた近くの冒険者さんが、シュン君を運んでくれました」

最初は、すごく怒られただろうけど。

「大丈夫ですよ。冒険者資格、持っていたんですね。シュン君」

その方がびっくりしましたと言う顔をしているライナ。

「見習いというか、、仮冒険者だけどね」

体を起こしながら、ライナを見る。


うん。傷も無いみたいだ。

「ごめん。確認不足だった。怖かった?」

「大丈夫です。なぜだか、シュン君がなんとかしてくれると思えました」

首を振るライナ。


ん?

服、、、透けてない?

僕がライナの服をもう一度確認しようとしたとき。

「ライナっ!だから着替えろって!」

レイアが、服を持って入って来る。

ちょっと可愛い系のうすピンクの服。

「そ、、それ、寝間着ですっ!」

ライナが叫ぶ。

「だからって、塗れた服のままとか、風邪ひくだろうがっ!」

え?

ライナは自分の姿を確認する。


そして。

「キヤァァッァ!」

うずくまるライナ。

何故か、平手打ちされた。


僕がそんなに、長い間寝ていなかった事は分かったけど。

いっぱい人に見られていた事に、今更気が付いたライナは、顔を真っ赤にしたまま動けなくなっていた。

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