第30話恋人?

「くそっ」

悪態をつきながらも、3体同時にイノシシの相手をする。

5体までなら同時に相手できるだけのステータスにはなって来た自信はある。

実際今、僕は突っ込んできたイノシシを受け止めて引き倒していた。

普通の人間には出来ないよね。


今日も一人だ。

規約違反。

見つかったら、捕まってしまう。

そんな危険を負いながらも、それでも。


死んでしまった人達の顔が思い浮かぶ。

ゴブリンに殺されたと言われたシスター、妹たち。

カイル達。

「死なせなくない」

ライナが飛ばされた時。自分の心臓が激しく締まる思いがした。

あんな思いはもうしたくない。


「強くなりたい」

ただひたすらそれだけを思いながら、イノシシを殴り飛ばす。





「シュン、、、くん?」

食堂でご飯を食べていると、声をかけられた。

顔を上げてみると、金髪のふわふわが目に入る。


「あの、、、」

そういえば、あの事件以来、ライナ達とあまり顔を合わせていなかった。

僕は、彼女達を危ない目に合わせた罪悪感で。

彼女達は、、

「私たちが、邪魔になっていると思って、、シュンくんは強いから、、けど、、、」

ライナが、すごく緊張している。

その肩をもう一人の女の子が叩く。

「俺達は弱い。だから、いろいろ教えて欲しい!」

レイアが、頭を下げる。

あれ?レイアの髪が、、、短髪になっている。

よく見たら、ライナの髪も、腰まであったのに、肩まで短く切られていた。

しかも、今、、レイア、、泣いて?


「避けられているのは分かってる。けど、俺達は二人で話し合った。何があっても。シュンの隣にいれるくらいには強くなりたい」

「ですから、、」

「「また、外に連れて行ってください!」」

え。

突然食堂がざわざわしだす。


「おい、、今、、、外って?」

「外、、だと?」

「外って、、城壁の外、、だよな」

周りからそんな声が聞こえる。

城壁の外に、異性と一緒に出る。

それは、恋人以上である事は確定。いわゆる隠語とか言われていたと思う。

まあ、外だと何をされても、何をしてても誰にも分からないしね。

外に出て行ったカップルが、子供が出来ている事なんて、8割越えと言われるくらいだし。

それくらい、生死の境目を潜り抜け続けるという事でもある。

外は、外に出るだけで、吊り橋なんだ。


「いや、、ごめん。僕も、二人に怖い思いをさせて」

「シュンくんは悪くないです!」

顔を上げたライナの目は、うるんでいた。

「きっと、私たちが、弱すぎるから、シュンくんにとっては足手まといで、、きっと、嫌われたと思います。けど、私たちは」

「強くなりたい」

ねえ。これ、、、ある意味、、


周りの音が止んで、僕の返事にほぼ食堂全員が聞き耳を立てている。

うん。どう見ても、、、

『告白、、もしくは逆プロポー・・』

データベースっ!


「うん、、、いや、、悪いのは僕だから、ライナも、レイアも悪くないから。だから、また一緒に来てもらえると、僕もうれしいかな」

「怒ってない?」

「怒ってはないよ」

自分が情けなくはあったけど。

10億から、皆を守れって言われているのに。

目の前の一人すら守れなかった。


「良かった~!」

二人が、お互いに抱き合って泣いてる。

思わず僕はそんな二人の頭を撫でていた。

昔、泣いていた僕をなだめてくれた優しい女の人のように。


食堂のざわざわが別のものに変わる。

女の子たちが顔を真っ赤にしているし。

男達は若干の殺気を放っている。

あ、、、これ、、、


『公衆の面前での公開プロポー、、、』

だからっ!

データベースうるさい!


僕は、思わず二人の手を取って、食堂から逃げ出したのだった。

ああ。お昼ご飯、、食べそこなった。



「はい。あーん」

何故か、ライナが買って来た肉サンドを食べさせてくれる。

「おう。これ、俺の一押しなんだ」

レイアが好きと言う飲み物を渡してくれる。

けど、それ、今レイアが飲んでいたよね。


しかも、二人とも吹っ切れたのか、ボディタッチがひどい。

今にいたっては、ライナの胸がときどき体に触れてドキドキするんだけど。

「食べたら、行きましょうね」

ライナが積極的すぎる。

「昼からは、、自主練習か」

レイアも時々僕の手を掴んでくる。

なんだ、、これ?




そんなこんなで、午後からの授業。

練習場に僕たち3人はいた。


二人で魔法を撃ち合う練習なんだけど。

はっきりいうと、僕の教えた螺旋火矢のおかげて、レイアの破壊力が高すぎる。


キシュアさん直伝の魔法結界は張っているけど、心もとない。

回復魔法、、覚えないと。


「行きます!」

ライナの水魔法が、レイアに発射される。

入学から、1年経っていないのに、ライナの魔法は完全に安定している。

「無駄っ!」

レイアの火矢が、その水を消滅させる。

水蒸気が、あたりを包む。

二発目の火矢がライナに当たり。

光りの壁にはじかれた。


あっぶなぁ。

イノシシを一撃で仕留めれる威力の矢なんて、ライナに直撃したら死ぬ。

今、ライナがこっちを見て微笑んだような気がしたけど。

目が、なんか、危なかった気も。


「遠慮なく出来るって、気持ちいい」

レイアは笑っているけど。

後で、お仕置きかも。


魔力軽減、常時回復の魔法がこの練習場にはかかっているけど、即死には効かないから。


まあ、本来即死するような大魔法を使う生徒なんていないけど。


「シュンくんが守ってくれるから、負けません!」

突然、連続で水魔法を撃ち始めるライナ。

両手から次々と飛んで行く水の塊。


数で勝負か!?

でも、あんな連続で魔法を使えるようになったんだ。

どれだけ練習したんだろう。

レイアは、その水の塊のいくつかを火矢で打ち消しながら、その間をすり抜けるように走る。


うん。魔法は絶対命中。

じゃないからね。

魔法は避けられるんだ。


ライナの目の前に出たレイアは、拳を振り上げる。

近接?ここで?

少しだけ、拳に火属性が見える。

レイアって、本当に天才だと思う。

ライナは冷静に。

地面から、水の柱を撃ち上げる。


設置型の罠か。

けど、、、発動場所が近すぎる。


レイアが水に飲まれる前に、その拳がライナの頬を打ち抜く寸前。

光りの壁に拳が止められる。

呆気にとられるレイア。

水に飲み込まれ。

空中に浮いていた。

風の魔法に包まれて。


風魔法結界、【風のゆりかごエアクレイドル

浮遊魔法にも応用できるちょっと便利な結界魔法だ。

水の中にも入れて呼吸も出来るしね。


「ライナは、罠の場所が近すぎ。レイアは無茶しすぎ」

二人とも減点。


そんな気持ちで声をかける。

「シュンくんも、付き合ってください」

ライナに突然言われる。

「そうだ」

ちょっとレイアの口調に不機嫌さが混じっている。


「うん。いいよ」

さっきのレイアの拳を見て、やってみたいと思った事もあったし。

僕は武器を背中から取り出す。


「ちょっと!」

「きょ、、、凶悪です、、」

普通のメイスだと思うけど。

まあ、ツノが一部突き出ているから、かなり見た目はアレかな。

「本気で行くから、覚悟しなさいっ!」

レイアが叫び火矢を放つ。

おお。4発同時。


ちょっとふらふらしているけど。

レイアもライナも、本当に天才だと思う。


さて。

拳に火属性をかけていたけど。

こんな感じかな?

『属性付与。魔法剣を習得』

EPがそれなりに削られたみたい。


水魔法をメイスに纏わせる。

飛んで来た火矢を、メイスで叩き落とす!


魔法が、空中で霧散する。

出来るもんだなぁ。

そんな事を思いながら、風魔法を発動。

風の流れを変えて、火矢の軌道を変更。

全てを自分からそらす。

全部の魔法が、当たらなかった事に、レイアはぽかんとしていた。

僕は一歩も動いていない。

魔法を、魔法で打ち消せる。

データベースにあった方法だけど。

上手くいくものだ。きっと使えるのは、僕と、レイア、ライナの3人だけかも知れないけど。

僕は、ゆっくりと、二人を見る。

「いい物を見せてあげる」


データベースに、上級魔法ってあったんだよね。

楽しみだ。


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