第99話 砦(村)へ
「結局、落ち着いて寝れなかったではないか」
地面で寝ていたため、少し不機嫌な顔をしているリンダ。
けど、しっかりと大きいいびきをかいて寝てたよね。
まあ、家を作らなかったから、寝心地は悪かったと思うけど。
「いつも家を作れるとは限りませんからね」
反対に、にこにこしていて、超ご機嫌のミュア。
その手には、朝とは思えないほど豪華な具沢山の鍋が握られている。
僕は恥ずかしくて、そんなミュアから顔をそらしてしまう。
だって。ミュアの身長は伸びたとは言っても、僕の肩くらいしかないのに。
そんな子の胸に抱き着いて泣いて。慰めてもらっていたのだから。
凄く気恥しい。
「それに、マスターが優しいのも分かりましたし」
「ふん。あそこまでする必要はあったのか?」
にこにこ顔のミュアと、少しだけむすっとしているリンダ。
村の入り口に、大量の魔物を置いていった事を言っているのだと思う。
多分、塩づけとか出来れば、村単位で、1か月は持つと思うくらいの量。
それだけの大量の魔物を置いて行っても、まだまだ空間収納の中には、大量の魔物が入っていた。
本当に魔力ビットが優秀すぎる。
「こうなれば、砦に行ってゆっくりと休むのだ!」
変な気合を入れるリンダ。
砦に着いたらいろいろと忙しくなると思うんだけど。
そんな事を考えていると、「ミュー」
足元からか細い声がする。
僕が足元を見ると、もふもふした魔物が僕の足にすり寄っていた。
子猫のようにも見えるけど、首から4本ほど、長い触手が延びている。
「可愛いです。連れていきませんか?」
ミュアが一目ぼれしたらしい。
『クアールキャット』
データベースさんから調べてみるとそんな検索結果が出て来る。
「そうだな」
懐かれているし。
そう思いながら、僕の足にすり寄って、登って来ようとする子猫みたいな子に笑顔になる。
「可愛いな。私も」
そんな姿を見て、思わず手を伸ばすリンダ。
「ふしゅー!」
突然、毛を逆立てるクアールキャット。
「まあ、そう怒るなよ」
そっと手を伸ばすのに。
「痛ってぇ!」
引っかかれる。
「こいつっ!」
怒ったのか、リンダが捕まえようと走ると。
慌ててクアールキャットも走り出してそのまま、どこかへと走り去ってしまった。
「ああ。逃げてしまいました」
残念そうな顔をするミュア。
「私が、悪いのか?」
リンダは少し落ち込んでいる。
僕はそんなリンダに、屋台で買った最後の串焼きを出してあげるのだった。
「マスターは優しすぎます」
もふもふが逃げて、少しだけ不機嫌なミュアをなだめながらも歩いて行く。
ここまで、戦闘は一切無かった。
平原は、ほぼ魔物が生まれないし、たまにいる魔物も魔力ビットが処理してしまうから、魔物が、僕たちまで近づく事も無い。
そんな感じで、僕たちは気ままに歩き続けたのだった。
「やっとか」
砦と言っていいのか。
村のような集落が見えた。村は、森の入り口に建てられていた。
本当に長かった。
けど、この達成感みたいなのは、何なんだろうか。
まあ、現代社会では、一か月も歩き旅をする人なんてよっぽどの変わり者だったから、こんな達成感を感じる事も無かったと思うけど。
「なあ、煙が出て無いか?」
リンダが異常を感じたのか、慌てている。
のろしではない。村から煙が出ている。
「マスター!精霊が、騒いでます!」
ミュアが叫ぶ。
マップと咄嗟に確認する。
マップ上、村に隣接している森から赤い点が次々と生まれ始める。
赤いマーカーの出現が止まらない。
「大攻勢だっ!」
魔物の出現する速さがとんでもない。
周りからも、魔物が集まって来ている。
普通じゃない。数も。多分、質も。
「沸きが中心の大攻勢は、ヤバイかもしれない」
すぐ大進攻になりそうだ。
魔力ビットを展開しながら、ミュアを抱えて走り出す。
全力で。
「私を置いていくなぁ~!」
少し遠くから、リンダの声が聞こえてくるが、あえて無視して村へと急ぐのだった。
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