第100話英雄
「逃げるなぁ!投げろ投げろっ!」
「右部隊!広がりすぎるな!それ以上奥に行くとすりつぶされるぞ!」
「ダメです!やつら早すぎる!」
「ジャイアントバッファロー確認!」
「んなもん見たら分かる!あれがどれだけデカイと思っているんだ!」
「無理です!」
「た、、たすけてぇ!」
僕たちが村に入った時。
そこはまさに、地獄だった。
ジャイアントバッファロー。森オオカミともいえるハーフバウンド。
木々を蹴って進んでくるオオカミは、今は家を蹴って襲い掛かってきている。
超巨大な足は、家を人を踏みつぶそうと歩く。
「ひるむなぁ!」
隊長らしき人の叫び声が聞こえてくるけど、まったく無意味にすら聞こえる。
「右から、縄を投げるっす!そのままでいいっすよ。引きずられてなんぼですから!ミンチになる前に手を離したらいいっす!」
ジャイアントバッファローに縄がかかる。
的確に指示を出している人もいるんだな。
「縄がかかったぁ!」
「良し!次の縄をかけろぉ」
「嘘だろぁ!2体目がいるぞ!」
「オオカミだけじゃない!トラがいる!」
ふと見ると、人の2倍の大きさがあるトラ型の魔物がよだれをたらして佇んでいるのが見えた。
「あいつらも、数体で来るぞ!」
「相手なんかできるかよ!でか物の相手で手一杯だぞ!」
まさに修羅場。
諦めの表情すら見える。
「ここで諦めるな!ここは前線だぞ!抜かれたら王国に大進攻が生まれると思え!」
指揮官と思われる人の一言で、兵士全員の顔つきが変わる。
「すごいですね」
「ああ。一言で、この混乱を静めた」
僕たちが感心していると。
トラが目の前に飛び掛かって来ていた。
魔力ビットが、一瞬で撃ち落とす。
もう一度村を見ると。
「ミュア」
抱きかかえたままになっていたミュアを降ろして、彼女に声をかける。
「はい」
ゆっくりと弓を引き絞る。
魔力が収束していき。
「それほど強くなくていい」
「分かりました」
矢を放つ。
魔力砲。
一撃で、ジャイアントバッファローの頭が無くなる。
「倒れる!」
「退避!!!」
倒れていくジャイアントバッファローを空間収納に入れてしまう。
あんなのが倒れたら大事だからね。
「収納量は大丈夫なのですか?」
「気にしないで大丈夫だよ。今、ちょうど村3個分くらい収納量が上がったから」
魔力ビットが、無茶苦茶倒してくれているからEPが爆速で増えているからね。
別のトラが兵士を食いちぎろうと飛び掛かっているのを見て、僕も飛ぶ。
トラが一瞬。怯えた顔をするのが見えた。
その顔を確認しながら、僕はトラの顔を上下に切断していた。
「あ、、、、あり、、、が、、、」
助けた兵士から、おしっこの匂いがするけど、そんなに怖かったのかな。
ブンと槍を一振りすると、数匹のオオカミが後ずさりする。
そのまま、槍を構えオオカミをすべて切り伏せる。
斧槍にしてから、切り倒せるようになって、ほんとうに扱いやすくなったと思う。
村全体に緑の風が吹き始める。
魔力ビットが、回復魔法をばらまき始めていた。
もう村に入って来ていたほとんどの魔物を処理したらしい。
本当に魔力ビットが優秀すぎる。
「あ、、、悪魔、、、」
「いや、、、救世主、、か、、、?」
なんだか変な二つ名が生まれそうで嫌な気がするんだけど。
マップで確認を行って、僕は少しだけ頭を抱える。
とんでも無い数の魔物がまだこちらに来ようとしている。
ミュアも僕の傍で矢を放つ。そのたびに確実に魔物を仕留めているけど、この数では、焼石に水って感じだった。
「ミュア」
唐突に彼女を引き寄せて。
僕は彼女の唇を奪う。
「んっ!」
抵抗もせず受け入れてくれるミュア。
ミュアに何かが流れ。
一気に僕の中で魔力が溢れる。
キスしたまま、土魔法を発動。
一気に魔力が枯渇する勢いで魔法を発動させる。
魔力がなくなりそうになる前にミュアの身体から、唇から爆発的に力が、魔力が溢れて来る。
共有譲渡。
このスキルの凄いところは。
キスしている間、魔力枯渇が無いところ。
ミュアの魔力を吸い上げ。僕の魔力をミュアに渡し。
ミュアの魂が僕の中へと入って来る感覚。
嫌じゃない。
むしろ、落ち着くような穏やかな気持ちになりながら、無限に回復する魔力を一気に解放する。
「ははは。これは、夢か?夢でも見てるのか?」
「これは、、夢でなかったら、勝ちっスよ」
司令官のような人が渇いた笑いを浮かべていた。
そう。
村を囲むように。
とてつもないほど分厚い壁が生えていた。
「ぷはっ!マスターぁ」
長いキスをしていたからか。
ミュアの目が怪しくなっている。
うん。今のは、僕が悪い。魔力が足りなかったから、ミュアブーストしたかっただけなんだけど。使い過ぎた。
「今晩は、私を使って下さい」
ミュアが、抱き着いて来る。
うん。本当にごめん。
「とりあえず、蹴散らすよ」
「んーー。はぃ」
すこしだけ不満げな顔をするミュア。
ミュアに罪悪感を感じながら、二人して壁の上へと飛び上がる。
ミュアが矢をつがえ。
放つと同時に、僕は地面に立っていた。
数匹の魔物が血をまき散らす。
僕が回転しながら動くすぐ横を矢が走り、背中をとろうとしていた魔物の目に突き刺さる。
魔力ビットがその魔物を処理するのを感じながら、目の前の魔物をまとめて切り裂く。
ミュアが何処を狙っているのか。
どこに矢が飛んでくるのか、分かる。
自分がどう動くのか、分かっているのか。
死角になる場所にいる魔物や、襲い掛かって来る魔物を確実に仕留めてくれる。
槍を振るった僕の背中を矢が走り、地面すれすれまで背を低くして走ってきていたオオカミを打ち抜く。
二人で一人。
矢が飛ぶ位置から、敵がどう動いているのかが分かる。
処理できない魔物は、ミュアが魔力ビットが仕留めて行く。
ミュアという相棒の力を心強く感じながら僕は淡々と魔物を片付けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます