第45話想い

「よし」

回復魔法を自分にかけて、こそっと部屋から抜け出した僕は、イノシシをぼこぼこに殴り殺していた。


戦いには慣れているつもりだった。40年もサバイバルをしてきたから、やれるつもりだった。


「全部、つもりだったと言う事だよね」

スキルが凄くても、ステータスがすごくても。

数の暴力には勝てない。

分かっていたはずなのに。

ロアの魔法球。予知のスキルの補佐があったとはいえ、たった4個の魔法球に、何も出来なかった。


「よっと」

襲って来た2匹目を空中へと撃ち上げる。

土弾で、打ち抜き仕留める。


空中に撃ち上げられて、何も出来なかった。

飛ばされなくても何も出来なかったと思うけど。

空からの攻撃。空での戦闘。

「結界が張れないのは、死ぬよね」

空を飛ぶ魔物ももちろんいる。

空中戦になる事もある。


「何も考えて無かった。これじゃ死ぬよね」

これで気が遠くなるほどの敵と戦おうと言うんだから。

笑えてしまう。


まだ、体に違和感がある。

時々、節々が痛い気がする。

回復魔法で治っているはずなのに。


「けど、、一つ希望もあった」

ロア先輩の魔法球。


もし、もしも。

あれを千単位で扱えたら?

本当のファン〇ルに出来たら?


「囲まれる事がなければ、戦える」

僕は自然と笑っていた。



「シュン様っ!」

「シュン君っ!」

突然かけられた声に、僕は背筋を伸ばしていた。

「な、ん、で、そ、と、に、」

「いるんですかっ!!」


そっと見ると、ライナの金色の目が本気で怒っている。

レイアの赤い目が、睨んでいる。


「「安静にっていったでしょ!!!!」」

ごめんなさい。


僕は、二人の前で、土下座するはめになっていた。




「絶対ダメですからね」

そのまま、ベッドへ連行されてしまう。

いや、もう、、だいじょうぶ、、、

「もう少し寝とけ」

少し押さえつけるような目が痛い。

「きちんと、介抱しますから」

笑っているのに、目が怖いよ。ライナさん。


ほんとうに、二人は僕の世話をこれでもかと言うくらい焼いてくれる。

二人とも可愛いから嬉しいんだけど。


「きちんと治るまでは、心配をかけさせないでくださいっ」


結局、ライナの泣きそうな顔で言われたお願いに、僕はじっとするしかなくなっていた。




「暇だなぁ」

ライナも、レイアも自分の部屋に帰って、僕は暇を持て余していた。

「ああ。そういえば、魔法球。調べてみようかな」

データベースで検索するとあっさりと見つかる。

魔法球というスキル。


「ああ。これ、本当は動かないんだ」

空中地雷のように扱うのが本来の使い方らしい。

だけど、あの先輩。

「魔法球から、魔法を撃てるように改造、、か。あと、風魔法を使って、自分を移動」

とんでも無い改造だ。


ピキーンな能力も、種割するわけでもない身としては、先に設置する先輩のような使い方は出来ない。

けど。

「使えたら、気持ちいいだろうなぁ」

ロマンの塊だ。

そんな事を考えながら、僕はベッドの中眠りにつくのだった。







「よし!本調子っ!」

僕は、城壁の外にいた。

ライナたちは、学校だ。

「データベース。敵、全検索」

マップに全ての魔物が映し出される。

個人行動だから、見つかったら、怒られる。


フードを深くかぶり、鉄仮面をつける。

防具としてはちょっと高かったけどね。この鉄仮面。


「さあ。始めようか」

僕はうきうきしていた。

欲しいスキルが多すぎる。

空間収納も。魔法球も。

予知も欲しかったけど、取れそうにない数字だった。


数日は帰る気は無い。

「全部、狩り尽くす」

僕は笑いがこらえられなかった。





「シュン君が、シュン君が消えちゃったっ!」

学校から帰って来て。彼の部屋で、私の幼馴染のライナが叫ぶ。

ライナと一緒に、シュン君の様子を見に来たら、彼はいなかった。


町中探したけどいない。

「ああ。シュンリンデンバーグ?外へ出てたぞ」

とある冒険者が教えてくれなかったら、ライナは、取り乱したままだったと思う。


今は落ち着いているけれど。

「シュン君を襲って、子供を作ったら大人しくしてくれるかな」

じっとベッドを見ながら、そんな事を呟くのは止めて欲しいと思う。

怖いから。


「やりたい事、、、か」

シュンの部屋に置いてあったメモをもう一度見ながら私はただ呟く。

「俺も寂しいっつーの」

置いていかれた事に。


そんな事を思う自分にびっくりする。

好き。なんだろう。

彼の事が。

けど、両親を知っている私には分かる。

彼は、私たちの手の届かない高みまで上り詰める。


そこに、私たちは多分、いられない。

置いて行かれる。

ぶるっと震える体をそっと抱きかかえる。


親が死んで。

最後は一人になるのだから強く生きなくてはと思って、口調も強い物に変えて。自分の事を俺と言って。

でも、やっぱり。

「一人は。置いていかれるのは、寂しいんだよ。シュン様」

小さい呟きが自然に出てしまう。


「だから、帰ったらしっかり怒るからね」

私は、『やりたい事が出来たから、心配しないで』とだけ書かれたメモを握りしめる。

彼が高く飛び上がるまで。

彼との思いでをいっぱい作りたい。

そして、出来れば。

彼の帰る場所になりたい。


「夜にしましょうか、、けど、シュン君、すぐ気が付くから、襲えないかも」

ライナは、、紐か何かで縛らないと、犯罪を犯しそう。

ぶつぶつと、妄想か、犯罪の計画を練っている幼馴染を見て、私は深くため息を吐くのだった。



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