第24話入学試験

「やっと来た」

入学試験の日がやって来た。

「いやぁ、ひきこもりの少年が出てくるなんてねぇ」

宿屋の女将さんが、なんか、すごく優しかった。


「では、筆記試験から始めます」

冒険者学校。

やっと13歳になって、やっと受けれるその試験。

さて、テスト問題は?っと。

「ふーん」

テストの問題を一通り見て、僕は頷いていた。

うん。分からない。

だって、あきらかに、受からせるつもりの無い問題ばかりだ。

計算問題やら、歴史問題やら、ひっかけ問題やら、すべてがごった煮のように詰め込まれている。

宿のオーナーの名前とか、今一番稼げる魔物の名前とか。

知るかっ!なんだこれ?みたいな問題が挟まっていたりする。


けどね。

僕には、データベースなんて物がある。

スマホと言う、検索し放題の状態で受けれるテストほど楽な物はない。

しかも、検索スピードは、現代のWi-Fiを遥かに超えるスピードだし。


ただ、最後にあった、ゴブリンの上位種は、何オークか?という問題は、、答えが無いよね。


「では、午後からは、実技試験となります」

「魔法科を希望の方は、今からあの的に向かって魔法を撃っていただきます」

目の前にあるのは、ちょっと硬そうな素材の的。

「ライナですっ!よろしくお願いしますっ!」

金髪の可愛い子がちょこっと頭を下げて、自己紹介をする。

ふわっと揺れた髪が印象に残る。


1年。必死に検索した。

一応、真剣に検索してたんだよ。

時々、脱線も、、、一杯したけど、、


分かった事は、この世界には、火薬が無い。

つまり、機関銃、バルカン砲、大量殺りく兵器は作れない。

そもそも、鉄の塊で死ぬほど柔らかい魔物ばかりじゃない。

魔力を通した、魔力銃なんて作れるほど器用じゃない。


大規模殲滅魔法すら存在しない。

そもそも、魔力増幅が出来ないのだ。

魔力増幅が出来ない以上、大規模魔法を使うだけの魔力をねん出できない。

皆で一つの魔法を。

なんてのは、一切のズレなく皆が同じ詠唱をしないと不可能で。

僕には、特に無理な話だった。


でも、少しでも、何か手がかりがあれば。

そう思って、魔法科へと入る事にした。

正直、剣を振るっても、一万も倒すことは不可能だから。


「ライナさん。どうぞ」

試験官に促されて、可愛い子が、両手を突き出す。

その両手に、僕の頭くらいの水の球が生まれる。


「へぇ。無詠唱か」

珍しい。

「はっ!」

気合を入れる声も可愛いな。この子。

水の球が、的に見事に当たる。

「おーーーー!」

他の受験生たちも、思わず拍手をしている。

「さすが、、ライナさんですね。すばらしいです」

試験官まで、目を丸くして驚いている。


「ちょっと、あんた」

突然、横から声をかけられた。

僕が横を振り向くと、赤い髪のセミロングの女の子が僕を睨んでいた。

「あんたっ!ライナがすっごい魔法を使ったんだから、少しは驚きなさいよ!何、すました顔して突っ立ってるのよっ!ライナは天才なんだからねっ!」

これは、、からまれてるのかぁ

僕は、気の強そうな女の子から視線を逸らす。

「次っ!レイアさん!」

「はいっ!」

元気に、赤髪の女の子が返事をする。

思わず、僕は彼女を二度見してしまう。

レイア。

やさしかった、あの人と同じ名前。同じ髪。

「炎よ。その息吹を我が宿敵に吹きかけよ。その熱にて、断罪せよっ!ファイアーアロー!」

炎の矢が、見事に的に当たる。

少し的が焦げていた。


この子もなかなか凄いな。

13歳にしては。

天才っていわれる人なんだろうな。


そんな事を思っていると、こちらを睨みつけて来るレイア。

ちょっと、ドヤ顔をしている気もするけど。

「次っ!シュンリンデンバーグ!」

あ。呼ばれた。


周りから、クスクスと笑い声が聞こえて来る。

まぁ。。センス無いよねぇ。キラキラネームじゃなくて、時代錯誤の名前だもの。

[佐藤左枝座江門]なんて名簿で見つけたら、吹くか、二度見する自信はある。


「私たちの魔法を見ても、何も感じないなら、どれほど凄い魔法を見せてくれるのかしら?」

レイアが煽ってくる。

というか、少し離れているのに、彼女のあおりの言葉が聞こえてしまった。

ライナも、興味津々な様子でこちらを見ている。


どうしようかなぁ。

そんな事を思っていると。

「次の人がいるから、さっさと打ちなさい!」

試験官の人まで怒りだした。


ちょっと、本気を出してみようか。

「魔法は、必ず、2段、3段構えで打ちなさい」

はい。レイアさん。

昔の記憶がその言葉に乗る。

40年、無駄に狩りをしていたわけじゃない。

両手にそれぞれ別の魔法を乗せる。

一歩。足を踏み出しながら、風魔法を投げつける。

的に命中。揺れるのを確認。もう一方の手に発生させていた岩を投げつけるように発射。

力が無いせいか、弾速が遅いっ!

揺れていた的の動きが止まる。


「まあ、いいでしょう」

試験官が、小さくうなづいている。

「今、、2発撃たなかった?」

ライナが、小さく呟いている。

魔物の眉間に見立てた的の中心。

そこに、岩がしっかりと食い込んでいる。

2歩ほど、前に出てしまったのは、追撃の態勢に入ってしまったから。

あの岩を槍の石附で突いて、さらに頭に埋め込み、槍を返して目を潰して仕留める。

昔よくやった連続技だ。


レイアさんの、多段魔法の教えは、僕の中ですっきりと入ってきていた。

ただ、、子供に教える事じゃなかったと思うけど。


「えーと、次を」

試験官の先生が、口を開くと同時に、的が砕け散る。

「え?」

茫然としているけど。

そりゃ、砕け散ると思うよ。あの強度だと。

イノシシくらい大きい獲物だったら、大丈夫だと思うけど。


「ま、、的が、、、ちょっと待ちなさい!」

新しい的が出てくるまで、僕たちは休憩となったのだった。

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