第117話 海竜 討伐
津波から数日。
「そうか。港町に帰るのか。ずいぶん助けてもらったのに、すまないな」
「そうね。もう少しいてくれてもいいのだけれど」
「まあ、ずっとは、、居れないわな」
ゆっくりとダイクが手を差し出してくれる。
僕はその手を握り返すのだった。
少しだけあの後の事を思い出す。
家を全て失った人たちのために、巨大な集会所とも呼べるような建物を作った。
ミュアは連日大量の炊き出しを行って、ご飯を皆に配って。
僕の在庫ともいえる大量の魔物の肉も大放出した。
魔力ビットを使って水を汲み。
大量の水を使ってお風呂を沸かしたり、瓦礫を空間収納にいれる事で撤去して、一か所に集めたり。
そんな中、アヤさんが常に手伝おうとするために、その度に止めに入っていた。
気持ちは分かるけど。妊娠中なんだし。じっとしていて欲しかった。
「引き留めちまったな。ありがとうよ」
ダイクが笑う。
「何かしてないと、狂っちまいそうだからよ」
そう言ってずっと動いている彼は、流れてしまった村長の代わりに今では完全に村の中心人物になっていた。
「娘に笑われない生き方をしてやるさ。また、立派な村にしてやる」
手を離すと、拳を突き出して来る。
それに拳を合わせる僕。
「この出会いと。友に。そして娘に」
拳を合わせながら。
僕たちは頷くのだった。
「友に。そして、未来に」
「強い人ですね」
ミュアは、僕の腕を離してくれない。
「ああ。本当に強い人だよ」
ミュアはずっと二人の時はくっついたまま離れなくなっていた。
二人でゆっくりと港町へ歩いていた時。
港町から大量の荷物を持った商人らしき人が走って来るのが見えた。
「何かあったのでしょうか?」
酷く焦っていうように見える商人。
「あんたら、街に帰るのか?やめとけ、今とんでもない奴がいるからなっ!」
僕たちが顔を見合わせると。
「サーペントだよっ!巨大な奴だっ!あいつ、気まぐれで津波を起こしやがる!2回の津波で壊滅的な被害を受けて、今港町は大事になってるんだ!」
僕は拳を握りしめる。
「マスター、行きましょう」
ミュアが僕の手を握り締める。
「あんたらも、すぐに逃げるのが一番だぜっ!」
それだけ言うと商人は走って行ってしまう。
「行くぞっ!」
ミュアを抱えると、僕は本気で走り始める。
しっかりとミュアは僕の首に手を回して必死にしがみついていた。
街に着くと、人であふれていた。
逃げようとする人と、荷物をまとめようと必死になっている人。
そんな人たちをかき分けて海側へと出ると、巨大な結界が張られていた。
「防げたかっ!結界解除っ!魔法撃てっ!」
冒険者たちの魔法が飛んで行く。
全て命中するも、蛇はまったく気にしていない様子だった。
ゆっくりとその口を開く。
「絶対結界!」
魔力ビットを大量展開。
絶対結界を張る。
巨大な水流が絶対結界にあたる。
「なんて力だよ」
魔力で、空中に固定していると言うのに、じりじりと魔力ビットが押し返されているのを感じる。
そのしっぽが水面を叩きつけ、周りの船が残骸へと変わって行く。
「助かったっ!さすがに、あれは防げなかったも知れない。俺はBランク冒険者だ。魔法隊を今指揮しているんだが、あいつ、硬すぎて全然ダメージが通らねぇ」
「少しでも近づけ!近距離からなら、何とかなるだろっ!」
「海の中へ飛び込めっていうんですかっ!」
「バカ野郎!そんな事しても魔法が撃てないだろうがっ!とにかくぎりぎりまで引き寄せて撃つしかないだろうっ!」
怒声が飛び交う中で、僕はうっすらと笑う。
近くには行けない。
そう。普通なら。
「行ってください」
僕の腕の中から降りて、笑うミュア。
全力で、力いっぱい踏み込んで。
僕は飛んでいた。
波止場の一部が壊れたのを感じたけど、まあ気にしていたら仕方ない。
「お前は許さんっ!」
どうせ届かないと思っているんだろう。
ゆっくりと首を振るサーペント。
「甘いんだよ」
空中で、自分の絶対結界を足場にして、もう一度飛ぶ。
「死ねヤァ!」
サーペントの真上まで跳んだ僕は、愛用の槍斧を握りしめて。
空中でもう一度空を蹴る。
弾丸のように落下して。
サーペントの頭を貫通する。
激しい衝撃と、音があとから追いかけて来る。
暴れ出したサーペントが、周りの海がうねりだし。
壁のように盛り上がり始める。
海すれすれに結界を張り。
再び空へと飛び上がる。
暴れるサーペントの下へともぐりこみ。
今開けた穴から大量のビットを送り込み。
風魔法を連続で叩きこむ。
噴水のように血を吐き出しながら、ゆっくりと動きが鈍っていくサーペント。
「お前は、、、」
槍斧を振りかざし。
「ゆるさないっ!」
その首を斬り落とす。
一瞬。サーペントの動きが止まり。
ゆっくりと海へと崩れ落ちて行く。
「ダイク。あの子の仇はとったよ」
海を赤く染めながら海の底へと沈んでいく巨体を見ながら、僕は小さく呟いていた。
「ありがとう。お礼を言わせてくれ」
陸に戻ると、冒険者たちに囲まれる。
「大した事はしてないから」
そっけない返事に、周りがぶんぶんと手を振る。
「いやいやいやいや。あれはどう見てもAランクだろっ!」
半分呆れたような顔をしている冒険者たち。
それよりも、僕は違和感を感じていた。
普段なら、見える場所にミュアがいるはず。
いるはずの人がいない。
周りを見るが、絶対に手の届く範囲にいたはずの彼女がいない。
「誰か探しているのか?」
冒険者が声をかけてくるけど、耳には入っても頭には入って来ない。
「ミュアっ!何処だっ!」
心が半分になったような。
絶望に近い寂しさを感じて僕は叫んでいた。
しかし、、返事が返ってくる事は無かった。。。。
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