第111話 寄り添い

「帰りましょう。マスター」

ミュアが、そっと手を繋いでくれる。

自分が埋めた二人の墓を見ながら、僕はなんとも言えない顔をしていたらしい。

ミュアは、僕を見る事もなく、それでも僕を支えてくれる。


「私たちの家に。帰りましょう」

「ああ。そうだね、、」

すっと返事を返していた。

疲れた。その言葉が一番しっくりくるかもしれない。

西の砦を出て。

この酪農地まで。

あまりにもいろいろな事が起こりすぎて、正直言うと疲れていた。

そっと、自分の腕を抱きかかえるように寄り添ってくれるミュア。

隣にいる少女が、本当に大切に思える。

ミュアも、自分が大切だと教えてくれる。


ミュアは本当に強い子だと思う。

【魂の回廊】でつながってから、ミュアの心の動きも分かるようになったけど。

ミュアは、今まで人の死を見過ぎてきたからか、死というものをかなりドライに捉えていた。

生まれたからはいつか死ぬ。

それだけだと。彼女の心は言い続けるのだ。

その思いすら感じ取れてしまう【魂の回廊】はとんでもスキルだと思う。


でも、僕はそこまで強くないから。

「帰ろうか」

目をつぶると、飛び回るようにはしゃいでいたカイナと。それを嬉しそうに見ていたおじさんが目に浮かぶ。


そっとその場を離れて、僕たちは王都へと帰る事にしたのだった。



「野党、、ですか」

ギルドで報告を行うと受付のお姉さんは寂しそうな、悲しそうな顔をする。

「野党が多くなっているかも知れないですね。分かりました。報告と、警戒をお願いするようにしておきましょう」

受付のお姉さんはそう言ってくれるけど、僕のマップ上では、野党も、盗賊もそう数は増えていない。

黒点は、ほとんど変わりない数だった。


「そのナイフといい、この街の人間ではないかも知れませんが、もし何か分かったら連絡します」

受付のお姉さんの顔は真剣だった。

お姉さんも怒っているらしい。

「ああ。ちょっと、家に帰ってゆっくりしたいから、何か分かったらまたお願い」

「分かりました」


それだけの会話を最後に、僕は王都を出る。

森の中へ帰りたかった。

早くお風呂に入りたい。


速足で歩いていると、ミュアがじっとこちらを見つめている。

「マスター、もしかして、カイナさんの所であった事を後悔されていますか?マスターが気にする事は一つもありませんし、私としては、どんなきっかけであっても、マスターと一つになれて嬉しいのですが」

しっかりと体を寄せてくるミュアが可愛くて思わず頭を撫でる。


家に帰ってからも、ミュアは側にいた。

以前よりも密着度は高い気がする。

けど、それ以上に、ミュアの気持ちが、どんな小さな気持ちの揺れすら分かってしまう。

そのためか、二人でゆっくりしていながらも、心の距離は全く無いのと同じだった。



ガタン!!!

突然大きな音がして、僕は目が覚める。

外を見ると大分日が高くなっている。

昼過ぎまで寝ていたらしい。

とりあえず、手直なローブをまとい、扉を開けると。

「よぉ。突然すまねぇな」

見知った顔があった。

珍しく酒の匂いがしない。

「なんだよ、ダルワン。何か用か?珍しく酒を飲んでないみたいだけど?」

「ああ。ちょっと面倒な頼まれごとをされちまってな。ほら、俺が面倒事を頼めるのはお前くらいだろ?」

「僕は便利屋じゃないだけど?」

突然の訪問に呆れていると、ミュアが後ろで体を起こすのが分かった。

「マスター?」

小さく声が聞こえる。

ん? ミュア?


慌ててベッドと玄関の間に、土魔法で新しい壁を作り、玄関から少しでも寝室が見えないようにする。

「ん?嬢ちゃん、今裸だったか?そうか。ついに手を出したのか。そうか、そうか。ついに幼児趣味の帝王ロリコンマスターになったか!」

嬉しそうにしているダルワンを睨む。

「悪い、悪かったから、そんなに殺気をぶつけないでくれ。おまえさんの殺気はシャレにならねぇんだから」

ダルワンの手が震えているのは、酒が切れたからだと思う。


だって、仕方ないじゃない。

人が来るなんて予想してないから、玄関、リビング、寝室の壁なんて、ほとんど柱に近いくらいの物しか作ってないのだから。

トイレだけは壁を作っているけど、鍵はなかったりする。

そんな事はさておき、僕の殺気を感じても、苦笑いを浮かべながら、自分の頭をかいていた。

「だから、それでよ、、」

ダルワンの話だと困った話と言うのは、東の港街に今まで見た事の無い魔物が出たとの事だった。

おそらく魔物だと思われるが、海は広く調べようが無い。

しかし、魔物を何とかしないかぎり、安全に漁も出来ず影響は広がる一歩との事だった。

「それでよ。俺に調べて欲しいって言われたんだが、いかんせん東の港町まで遠すぎてよ」

馬車に乗る金が無いと笑うダルワン。

「ウミ?海って何ですか?」

気になったのか、こちらを見ているミュア。

もちろんきちんと服は着ている。


そうか。森しか知らないものな。ミュアは。

「行ってみようか」

僕の声に、ミュアは嬉しそうに返事をするのだった。

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