第97話 本当の相棒
「やっちまえ!」
一斉に僕に向かって襲い掛かって来る野党。
赤い血も。今はまったく気にならない。
一閃。
一振りで、数人の胴体が吹き飛ぶ。
「こ、、こ、、いつ、、化け物かっ!」
怯える野党たち。そりゃ、ステータス1500の力だからね。
「ミュアを襲うとか言ったな」
許さない。
野党全員の足が止まる。
魔力ビットが激しく動き始める。
じゃりっと間合いを詰めると、残っていた野党は武器を捨てて逃げ出す。
その後ろ姿を、魔力ビットの氷の矢が容赦なく貫いていた。
「まあ、、、その、、、、たす、、、かった、、、」
リンダが引きつった笑いを浮かべている。
周りには野党の死体が転がっていた。
ミュア?
思わずミュアを見るとまだミュアは激しく震えている。
ミュアをしっかりと抱きしめる。
「ま、、す、、た、、」
少しだけ顔を上げるミュアに、そっとキスを返す。
じっくりと時間をかけた後。
ミュアはやっと笑っていた。
『ミュアが【共有譲渡】を獲得』
データベースが頭で囁く。
思わず調べてみると。
【共有譲渡】
魂の共有スキル。シュンの魔力を自身に取り込み、自分の生命力とともにシュンに送り返す。相手の状態異常の全てを自身が請け負う。お互いの魔力、体力最大回復。濃厚接触時、魔力共有も可能。 ミュア専用。 神の祝福スキル
そんな検索結果が出て来た。
つまり。
「僕の、恐怖を?」
震えているミュアを抱きしめる。
僕が時々起きる、赤い火を、赤い血だまりを。死体を見た時に襲ってくる頭痛と、震えを全部ミュアが請け負ってくれている。
そう思うと、耐えきれなかった。
「大丈夫です。ミュアは、マスターの物ですから。好きに使ってください」
笑いながらも、力いっぱいしがみついてくるミュア。
「これだけ、辛い思いをされていたのですね」
無理に笑おうをするミュアを抱きしめながら、僕はもういちどミュアの口を塞ぐ。
「二人の仲がいいのは改めて分かったのだが、、私の事も気遣って欲しいのだが、、?そろそろ、、、くち、、、も、うごかない、、の、、だ、、が?」
リンダは、全身麻痺して、倒れたまま二人に手を伸ばしたまま動かなくなっていた。
しばらくすると、ミュアの震えが落ち着いて来た。
「もう大丈夫です」
腕の中でミュアが身じろぎする。
そっと力を抜くと、ミュアが力なく笑っていた。
「何であんな事をしたんだ?」
キスをした事を。
「分かりません。けど、マスターから、強く助けてと聞こえた気がして。何かしてあげたいと思いました。マスターの辛さを私が全部奪い取ってしまいたいと思ったら、マスターに、、その、、、」
真っ赤に染まるミュア。
「あの、、、」
何故か怖がっているミュア。
「大丈夫。怒ったりはしないよ。それよりもありがとう。あのままだと、全滅の可能性もあったから」
そっと顔を撫でてあげると、ミュアの顔色が良くなる。
その頬を軽く叩く。
「でも、少し無理しすぎだ。僕の辛さをミュアが感じる必要は無い」
「嫌です。私はマスターがどんなに怒っても、必ずまたマスターの辛さを私が奪います」
強く言ったつもりなのに、さらに頑固に返される。
「何度も言います。私はマスターの物です。私はマスターが役に立つなら、魂も、体も全て無くなっても後悔はありません」
この子は。
僕は優しくミュアを抱きしめるのだった。
「あの、、わたし、、を、、、わすれて、、ないか、、、?」
リンダが、最後の力を振り絞って声を発していた。
僕たちは二人で目を合わせ。
二人で笑い合う。
空間収納に入れていた、自家製の特性解毒剤をリンダに飲ませたのだった。
「助かった、たすかったのはたしかだが、、、あれは、、無い、、、あれだけはもう、、というか、毒の方がいい、、、、」
麻痺が治ったというのに、しゃがみこんで、ぶつぶつと何か呟いているリンダ。
「マスター特製の解毒剤は強力ですけど、毒薬よりその、、、飲みにくいですからね」
ミュアが僕の腕の中でリンダを哀れみの目で見ていた。
40年の研究の成果で作れるようになった、致死毒ですら治療可能な解毒剤だよ。
そりゃ、少しの間水も飲めないくらいまずいけどさ。
「麻痺した舌ですら、、、拒否反応を起こすほどのまずさ、、、思い出したくない、、、」
リンダはしばらく復帰できそうにないかも知れない。
「マスター?火を見るとひどく怯えていたのは知っていましたが、一体どうされたのですか?」
ミュアが、じっとこっちを見る。
「あれだけの恐怖。普通じゃありません」
ミュアの目が真剣だった。
感情を共有したからか。
ごまかせそうも無い。
僕はぽつぽつとミュアに自分の事を話し始める。
小さい時の事を覚えていない事。
パーティを組んでいた冒険者を置いて逃げた事。
赤い炎をみると動けなくなる事。
死体を見ると、血を見るとさっきみたいになる事。
一緒に戦っていた仲間がこのせいで深い傷を負った事。
真剣に聞いていたミュアは、僕を抱きかかえ。
僕はミュアの胸に包まれていた。
「辛かったのですね。ミュアはマスターにいっぱい貰いました。だから、辛かったらミュアにぶつけてください。マスターの痛みの全てをミュアに下さい」
私はいらないコだから。
そんな声が聞こえた気がする。
僕は、何も言えずにミュアの胸に包まれたまま泣いていた。
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