第82話幕間 ミュア

私はミュア。それ以外の名前はついてない。

エルフは成人したら、二つ名。冠名と呼ばれる称号をもらえるのだけれど。私は成人する前に捕まってしまった。

いいえ。

成人しても、きっと冠名なんてもらえなかったと思う。

私は、エルフ同士の子供という事になっているけど、

お父さんは、私の本当のお父さんじゃない。

森の根のタイアと呼ばれていたお父さんは、本当のお父さんじゃない。

高い白花のミン。

私のお母さんは、昔、人間に襲われた。

その時、助けてもらった人と子供を作った。

それが私だ。

人間と、エルフのハーフ。

ハーフエルフは、エルフと認めてもらえない。

それがエルフの里の掟だ。


そんなことは分かり切っている。

だから、お父さんは私の事を本当の子供だと言い張ってくれた。

そんなお父さんも、魔物の襲撃があったときに、食い殺されてしまったけど。

お母さんは、それからずっと笑っているだけだった。

私が何を言っても返事は無かった。

私が人さらいにさらわれた時も、、、、

お母さんは、笑っているだけだった。。。。



突然頭から水をかけられる。

雑に、体を洗われる。


また、私は買われるらしい。


ふと最初の時を思い出す。

いくつの時だったのか、もう思い出せないけど。

縛られて、襲われたのは覚えている。


怖かった。痛かった。


何日も、叩かれたり、痛い事をされた。

私は、泣く事も、叫ぶこともしなかった。


そんな日が続いた時。

私に、ムチを振り上げた男が、突然泡を吹いて倒れた。

水が、空気が、淀んでいた。

精霊が、騒いでいた。


毒。

そんな精霊の声が聞こえていた。

私は、逃げる事もできずに、人が次々と倒れて行く姿を見ているしかなかった。


周りが静かになって、しばらくたった時。

最初の男の人が私の前に立っていた。

「驚いた。生きていたのか」

何を言われたのかは分からない。私は聖霊語以外は知らないから。

けど、驚いた顔をしていた男の人は、再び私を連れていった。


しばらくして、次の人に引き渡された。

その人はすごく優しくしてくれた。

でも。

ある日、その人は、突然咳をして。血を吐いて倒れた。


「君は、誰よりも優しい子だ。だから、誰よりもしあわせに、、」


それだけ言って。その人は動かなくなってしまった。

「ま、、、スタ?」

私はその時、初めて泣いていたと思う。


再び私は回収された。

王都に行く。

その時になって、初めて知った。

男の人は、私をいろんな人に渡して。私に酷い事をしていたあの男は、奴隷商人だった。


馬車に乗せられて。数人の女の子と一緒に旅に出た。

夜中に、とても怖い声が聞こえて。


私たちは襲われた。

魔物に。

精霊が、オオカミと騒いでいた。

私以外、みんな。みんな食べられた。

叫ぶ声。

泣く声。

涙。血しぶき。


私に関わると、みんな不幸になる。

だから、お父さんも、お母さんも、、、私の前からいなくなってしまった。

けど、、やっと。

やっと、、、私もこれで終われる。


私はギュッと目を瞑って。その時を待つ。

けど、いくら待ってもその時は訪れなかった。

飛び散った荷物を置いて。

魔物は居なくなっていた。


また、私は生き残ってしまった。


「大丈夫かい?」

ふと私が目を開けると、優しそうな人が私を見つめていた。


私はその人に拾われた。

移動の途中。

また魔物に襲われた。

私たちを前に襲ってきたオオカミだ。

また、また、、、人が死ぬ。


私は、やっぱりみんなに迷惑をかける。

諦めていた時。


突然現れた一人の男の子が、襲ってきて全てのオオカミを倒してしまった。

氷の魔法に包まれて。

キラキラと反射する光りを浴びて。その子は綺麗に見えた。

カッコいい。

初めて私は、人を見つめていた。


王都に来て、また私は売られた。

私は奴隷。


ご飯もそこそこに、また痛い事をされる。

もう慣れてしまったけど、私の中の何かが削れていく気がして、すごく痛い。


そこで、いつも通り。

夜に呼ばれて。痛い事をされて。

昼は、掃除なんかをさせられる。

そんな生活をしばらくしていたけど。


突然、私が買われた家が燃え始めた。

破裂するように火が暴れる。


火炎石。火の魔法を込めた石が、大量に燃えているらしい。

精霊たちが騒いでいる。


「まったく、なんなんだよ。。お前はっ!お前の事を照合したら、めちゃくちゃじゃねえかっ!買うんじゃなかったぜっ!」

奴隷商の男の人が、慌てた様子で手紙を書いていた。


少しだけ私も人の文字が分かるようになってきた。

そんな私に見えたのは、ハキ の文字。

何度も私にかけられた言葉。


乱暴に引っ張られていた時。

男の子が私たちに声をかけてきた。


私はミュア。

私の周りには、死しかない。

私の周りには、不幸しかない、、


何かを口に入れられ。

全身を覆う激痛に叫びながら私は思う。


優しくない世界で。


幸せって、、、、、なに、、、、、?





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