第83話ミュアの独りごと

最初に会った時から。

違和感があった。


私は奴隷。

あの人の言った事を聞くだけでいい。


なのに。

最初からあの人は優しかった。

ずっと優しい目をしていた。


その目に私は救われた気がしていた。


最初に魔物と戦った時。

あの人は、、、酷い顔をして、泣いていた。


何かに追われるように。

何かを振り払うように。


惨殺といってもいいくらい魔物をすりつぶしているのに、私はあの人を怖いとは思わなかった。


ただ、ただ、、、救ってあげたい。

そう思った時。

私はあの人を抱きしめていた。


「もう、泣かないでください」

そんな言葉が出て来るほどに。


あっけに取られている彼も。

その後で、焚火の前で、火が使えないと笑った彼も。


なんでだろう。

私は、あの人を主人と最初から思えなかった。

それ以上の。


私の一部。

いや、私がかけていたその破片をやっと見つけたような。


二人でご飯を食べて。

二人で一緒に寝て。


私の全てを彼に捧げて。


それでも足りない。

それでも、まだまだ何かしてあげたい。


どうしてそう思うのか、私にも分からない。

けど、そんな気持ちになるのは初めてで。

私も分からないけど。


彼の微笑みを見るのが好きで。

だから、今日も私は彼の為にご飯を作って、彼が寒くないように温めてあげる。


凄く優しくしてくれる。

気を遣ってくれる。

いつも見てくれる。


私は奴隷、、、でも、今は、、、奴隷、、、なのかな?

「可愛い。大好きです。シュン様」


可愛く寝息を立てるシュン様の頬を撫でながら私は笑う。


優しくない世界で出会った、小さな小さな微笑みをくれる人を抱きしめながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る