転章
第70話 お願いします──
少しだけ懐かしい雰囲気と雑踏の中で、俺は東京の地へと足をつける。大都会東京は相変わらず優しくもなく感慨もなく、しかし誰をも拒まない度量にて俺を受け入れてくる。そんな風に旅にあてられた頭でシミジミしていると、一人の女性が俺を出迎えてくれた。
高橋だった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
大学近くの
そんな高橋の様子に俺も嬉しくなって、調子良く話しかける。彼女もまた楽しそうに聞いてくれていた。しかし、あまり立ち話を長くする気もない。移動しつつ、旅の土産話などを語ろうかと足を動かしかけると、高橋からまったがかかった。
「佐藤くん。今のこの場で言わないと、きっといつまで経っても言い出せないだろうから言うね」
「ん、どうしたの。改まって」
「返事を聞かせて欲しいの──」
一瞬、なんの話だろうかと疑問に思うも、なんの話をしているのかはすぐに知れた。そもそも今回の旅の発端はそこにあったのだから。
高橋の雰囲気に嫌な予感を覚えつつも、続く言葉を待つ。
すると彼女は言葉を断ち、何かを思い切るようにして口を開いた。
「お願いします。どうか私と別れてください」
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