第101話 みんなで恋だ愛だと騒いだ日⑩
ここで
といっても、もちろん服は着ている。だが、その上から荒縄のようなロープにより
というかなんで荒縄なんてものを持っているんだ?
「ああこれ、鈴木くんにあてがわれた部屋にあったの」
「鈴木ぃっ!」
「いやっ、俺は何も知らんぞっ!」
俺の視線に気づいた山本さんの返答に、思わず
ちなみにその知人のサークルは何かと問うと、水泳部だという。
アーメン。
「さーさー、姫を私から奪いたければーどっからでもかかって来ーい」
「あー……山本さん。ひとつ聞きますが、その勝負する相手ってのは俺のことですよね、もちろん」
「他に誰がいるのよ?」
「いや、そうなんでしょうけど。そもそも勝負なんてする意味は?」
「そりゃ、佐藤くん。こんなに魅力的な女の子を二人も
そう言って山本さんは「そうよねー、田中ちゃん」と隣に同意を求めている。これまでひっそりと待機していたものだから目立たなかったが田中ちゃんだ。彼女は高橋の
何やら様子がおかしい。
眠たそうだった、というかなんだかポヤポヤしている。
「まさか飲ませてませんよね?」
「大丈夫ー。佐藤くんの到着があんまりにも遅いものだからオネムになっちゃっただけよ」
「高校生が?」
大丈夫とは言うが、いったい何に対して危なげがないと主張しているのか。もう何も信用できん。何もかもが無茶苦茶だった。
「といっても、か弱い婦女子が男の子の腕力に
「それじゃあジャンケンで」
「オッケー、それじゃあ正々堂々に──」
腕まくりをする山本さんに、できるだけ厄介にならない提案をしたところ、あっさりと同意をえる。どうやらなんだっていいらしい。こうなったら山本さんの悪ふざけにのってしまうのが早い。
俺は「苦しいだろうが少し待っててくれ」と高橋へと声をかける、すると返事は「ムー」だった。ムームー星人。
「ジャンケンほい」
特に奇をてらわないかけ声をあげる。
結果は俺の勝利だった。
「負けたー。けれど安心するなかれ、すぐに第二第三の
「さしあたり二番手の刺客だと思われる娘が寝てますけど?」
「あ、本当だ。おーい田中ちゃん……ダメだ。佐藤くん起こしてあげて」
「はいはい」
グダグダとしてきた場の雰囲気にのる。こうして遊んであげれば、酔っ払いも満足して大人しくなってくれるだろうとの狙いだった。そんな風に気を抜いていたものだから、彼女から目を離して背中を見せたとき、
「
「あの、動けないんですけど」
唐突に背後から抱きすくめられて困惑する。女性からの熱烈なアプローチは嬉しいが、時と場合というものがある。
「油断したね、
「こんな姿を見られたら誤解されちゃいます」
「うへへ。高橋ちゃんは見えてないし、田中ちゃんはあんなだし。チャンスは今しかないと思ったのさ──まあ、ちょっとお姉さんからも
背後からひそひそと
「まあ私もね。こういう話の流れになって君とのことをアレコレ考えもしてみたさ。そんで白状すると悪くないかなぁなんて思ったりもしたよ、そりゃ」
初耳であったが、それは俺としても同じことだ。
いくら何でも、ここまで関係のあった異性に対して何も思うところがないという方が失礼だ。けれど俺の気持ちはすでに定まっている。それをどのように伝えたものかと思案していると、山本さんの言葉は続く。
「でもねぇ、君はやっぱり私にとっては
「無用なのは勘弁してください」
俺がおどけてみせるとニシシと山本さんが笑う。
「だからお姉さんが君に言いたいことは一つだけだ──」
山本さんは言う。
「シャンとしおし。お姉さんはキチンと君のことを見てるさかい」
「うす」
彼女は素敵な女性だと、本当にそう思った。
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