第102話 みんなで恋だ愛だと騒いだ日⑪
「はー、パネっすねわ。なんつうかロマンスじゃね?」
「確かに。っていうか
「またあいつは、いったい何度おなじようなことをするつもりだ?」
「あ、やっぱり、昔からなんだわ。イケメンくんはよく知ってる?」
「知ってるもなにも、あいつは旅に出ると必ずこうだ。いい加減に、自分がなにをしてきたか自覚した方がいい……あと、イケメンはやめてくれ。どうせ佐藤が
忘れていたが往来に人の姿がないといっても無人ではなかった、オーディエンスがいる。現にこうして、俺と山本さんのやりとりはしっかりと野郎どものトピックとなっている。今更になって恥ずかしくなったが、ここで赤面していたらこの先を乗り越えられない。
「やーやー、負けてしまった。
「おっ、
「佐藤さん、デレデレでしたよ。あ、飲み物ありますけどいかがです?」
「いやー佐藤くんのフェチズムを攻めてみたのだけどね、我慢しやがりましたよ。あっ缶チューハイとかあったりしない?」
そこへ山本さんが加入したものだから周囲はさらに
様子を見るとレジャーシートなんてものまで
「うおっ」
気を取り直して、まずは田中ちゃんを起こすかと思い振り返ると、なんと目先まで来ていた。彼女は先ほどまでの眠たそうな
「……佐藤さんの浮気者」
「起きちゃった?」
「告白までした男の人が他の女とイチャイチャしてたら、そりゃ眠たいなんて言ってられないよ」
「面目ない」
割合に本気で、不服そうな雰囲気を感じとったので素直に頭を下げる。すると大きく息をついて田中ちゃんが言う。
「それでは私が
「そのくだりはいる?」
「いらないね」
すんなりと同意を得る。
どころか「私は倒されたということで、佐藤さんは高橋さんを助けにいっていいよ。そろそろ
「けど俺は田中ちゃんに伝えなければいけないことがある」
「それは……はい」
高橋のもとへと歩み寄りたいところだったが、今はしなければならないことをする。それは田中ちゃんへと俺の気持ちを伝えることだった。こちらに片をつけてからでなければ先に進むことはできないと思った。
彼女もまた背筋を伸ばしてこちらへと向き直る。
「君が好意をむけてくれたこと、驚いたけれど嬉しかったよ」
「はい」
「その場で返答できなかったのは情けないと思ったが、その分キッチリと考えてきた。その答えをここで言ってもいいかい?」
「お願いします」
意識して息を吸い込むと、腹に力を入れて発する。
「俺は君の想いに応えることができない」
「やっぱりですか」
即座に返す言葉がある。
思いのほか冷静な声音だった。それゆえに彼女が
「本当にごめん」
「何を謝ることがありますか、佐藤さんにはやましいことなんて何もないんですから堂々としててください」
「けれど俺は君を悲しませただろう?」
「いいえ、特にそこまでは」
「……うん?」
あまりにも平常な声に眉をひそめる。思わず彼女の顔を見る、「ふふん」とどこかしら不敵な態度にように感じられた。
ここにきて様子が思ったものと違うことに気づく。そのことに戸惑っていると、田中ちゃんは何かの悪事を告白する黒幕かのように口を開いた。
「佐藤さん、白状しよう」
「あっ、はい」
もしかしなくても彼女にとって青春のほろ苦い1ページになるはずのシチュエーションであった。だからもっとこう、湿っぽい雰囲気になると予想していたのだが、実際にはあっけらかんとした彼女の声だけが俺の耳へと届く。
「フラれることは想定済み、だから平気」
「どゆこと?」
なんだか、ことの展開がわからなくなってきた。
「だって、旅行先でちょっと遊んだだけの
「あいや、どう……なんでしょうかね?」
「そうなの」
断言された勢いに圧されて「はい」と頷いてしまう。
完全に田中ちゃんのペースだ。
「けど初恋なんだから、この機会を逃すわけにはいかない。そしてこの恋を
「もっと学業に専念してください」
「シャラップッ!」
少し調子にのってしまい、言葉を挟むと即座に否定されてしまう。なので大人しく口をつぐむしかない。
「だから今は、本当に悔しいけど身を引くよ。だけど決して諦めたわけじゃないから勘違いはしないようにっ。勝負の場は三年後だよ。私は必ず佐藤さんのもとへと帰ってくるから」
「えーと……つまりこういうこと?」
田中ちゃんは俺への
そのように確認を取るとコクリと肯定があった。
「この先三年間、ずっと私のことを想って
「なんだかそんな先のことを言われてもって感じだが……そのときになって君のことを選ぶ保証もないんだよ?」
「もちろん女を
思わず舌を巻いてしまった。
彼女は「最後に選ばれるのが私であれば、それでいい。そのために打てる
「そんなことはやめてくれと、とてもじゃないが言いにくい」
「そうでしょう。言われたとしても構わずアプローチかけるけど」
「うわお」
「三年後なんて時効だよ時効」
発言が過激だ。
なんというか、凄い。
「大丈夫、私は決して浮気なんてしないからさ」
「いやそう申されましても」
「いい、佐藤さん。私は本気だよ」
「それは疑いはしないが──」
だが、
そんな彼女の勢いに流されてしまい
「ここでは
「君はそれでいいの?」
だから尋ねる。
すると彼女はぐっと言葉を詰まらせるようにする。
しかし、すぐに顔を上げて答えた。
「そりゃあさ、正直の正直に言うとさ、選んでくれなかったーって泣きたくなる気持ちはあるよ。いいから私のことだけ見てよって、暴れちゃいたいくらい。でもさ私は本当に佐藤さんのことが好きだから、いつかきっと一緒に並んで過ごす日が欲しいから。だから──」
そう言って彼女は笑う。
いつもユラユラと揺れる動物の尾っぽのような髪が、元気に跳ねた。
「泣いたりせんよ、いい女ってのは笑って男を
これはまいったと、そう思った。
不覚にもその笑顔に
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