第107話 エピローグ②

 世界で一番の恋だとうそぶいたのはいいものの、それはいったいどれほどの時間、続くものだというのだろう。


 人というのは変わっていく。

 その内実ないじつが成長なのか堕落なのかはわからないが、不変なやからなぞこの世には存在しない。

 とりわけ恋愛という感情はとかく変わりやすい。


 男心と……べつに女心でもいいが、それら二つと秋の空。

 そんなことわざがあるように、人を好きだという感情はまるで砂漠の蜃気楼しんきろうのように心許こころもとない。

 信じていたのに裏切られるなんて悲運に見舞われる者は後を絶たない。


 けれどそれは本当だろうか?

 いつまでも不変の恋心というものは実在しないのだろうか?


 時間というものが無惨むざんに経てば、人は誰でも恋という気持ちをなくしてしまう。

 そのことについて、俺は一つの考えを打ち立てたいと思う。


 好きという気持ちは無くならない。


 否定的な意見が多数あるとは思う。

 確かに、かつて好きだった人を嫌いになってしまった者なんて星の数ほどに存在し、その不条理に目をむけていないわけではない。

 しかし好きになったという事実が消えて無くなったりはしないと、俺は信じている。


 人の感情というのは足し算だ。引き算ではない。

 例え誰かを好きになったとしても、その上から嫌いという感情を繰り返し繰り返し加算していけば、総合してそれは敵意てきいだ。そのようにして人は恋からめる。

 しかし、好きという感情は心の底に確かに残っているのだ。

 別の感情を継ぎ足して、元の気持ちが希薄なものになってしまったとしても──嫌いだけど好き。

 人なんてチグハグな生き物だ、そんな矛盾したような感情があってもいい。むしろそのように混沌とした感情の方が、人の気持ちとして深みがある。


 だから、何事もこれからだった。


 今現在、俺は確かに世界で一番の恋をしている。

 しかしここがゴールではない。むしろスタートである。

 これからの俺たちには余りある時間がある。

 それらをただ漫然と過ごすだけでは、未来において残念な結果が待ち構えていたとしても不思議ではないのだ。

 世界で一番の恋が二番目か三番目になってしまう。

 だから奮起して行動を起こす必要がある。

 単に都合の悪い印象を加算していくだけではなく、二人で様々な色の感情を味あっていかなければならない。

 そうした結果、最終的にどのような気持ちが残るものか。

 それを知るのがこれからの楽しみであったりする。

 

 つまりは恋だ愛だと騒ぐ日々はこれからもまだ続いていくのだ。

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