第48話 大阪にて(博多、広島、大阪を経由して、エピローグ)

 その後、昼夜ぶっ通しで旅を続けて大阪へと到着する。

 この場所をもって二人とは別離する予定ではあったが、せっかくのごえんなのだと、休憩も取らずに散々に遊び倒した。三人とも夜通しのハイテンションになっていた。そして時間が差し迫ったころ、最後に一つの名物をいただくことにする。

 言わずと知れた「たこ焼き」だった。

 パックを三つ購入して車内の中、三人でハフハフと言いながら会話する。


「これでサトさんとお別れかと思うと、めっちゃ寂しいっすねー」

「それに佐藤さんには本当にお世話になりました。この恩は必ずお返しします」

「俺に返さなくてもいいよ。誰か他の人に回してあげれば、世の中それだけでハッピーラッキーってね」

「それでも、当たりくじはいつか絶対に」


 一等が当たったスクラッチくじであったが、結局、渡辺くんに譲り渡すことにした。

 惜しい気持ちが全然ないと言えば嘘になる。

 だが、宝くじを当てたタイミングで、それを必要とした者が隣にいたというのは、それはもう天命だったのだ。ましてやそれが人助けにつながる可能性があるのなら、手放しても後悔はないと胸を張って言える。

 そのようになか寄進きしんしたような気持ちであったのだが、それでも渡辺くんは相応の金額を返すと言ってくれる。気持ちは嬉しいが、無理はしないように釘をさす。


「いつでもいいよ、お金があるときで。十数年後とかでも全然いいから。というか、それぐらい経ってからじゃないと、無理したんじゃないかと不安になる。あとそれと──」


 俺は準備していた紙片を渡辺くんへと手渡す。


「これはいったい?」

「知り合いの弁護士先生の連絡先、それとこっちも」

「こっちはなんすか?」

「その弁護士先生とズブズブな関係の探偵事務所」


 二人がこれから直面する問題は、話を聞く限りに専門家の手がいる可能性が高いように思われる。よって信頼できる伝手つてを用意した次第しだいだ。


「もし、自分達だけではどうにもならない事態になって、てがなければそこを頼るといいよ。少なくとも人格の面では保証する。探偵さんの方は人探しが得意みたいだから、そこを頼ってもいい」


 ちなみに弁護士先生の方は、俺が広島にてモノマネをした当人だった。そこがバレたら面倒なように思えたので、二人には会ったとしても口外しないようにお願いしておく。

 

「それじゃあ、そろそろ時間かな」


 新大阪駅が見えて、ついにそうつぶやいた。

 二人はこのまま新幹線で東京まで向かう。東京での目的、行動が明確となった今、時間をかけてヒッチハイクをする暇はない。


「いつか三人でヒッチハイクの旅をしてみるか?」

「いいすね、サトさんがいれば百人力っす」

「いや、俺も三人でやったことはないからなぁ。どうなんだろう、結構難しそうに思えるけど」

「それでも、やってみたいですね。絶対に楽しいです」


 そんなふうに他愛無い話をする。

 そうして駅に到着し、降車場にて彼らを降ろす。

 大都市の駅ともなると大勢の車がひしめきあっており、後続車がある都合上、自然と別れの挨拶あいさつは簡素なものとなった。


「佐藤さん。僕、やってみます。結果がどうなるかはわかりませんが、それでも」

「うん、月並みだけど頑張ってくれ。万事うまくいくことを祈っておくよ。伊藤くんも、渡辺くんを支えてやってくれよ」

「モチのロンっす。サトさんも良い旅路をっす」


 そうして、俺たち三人の旅路は終わる。

 彼らは東京へ、俺は京都へ、それぞれの旅路へと向かう。

 このようなそでが触れ合った程度の関係というのは、その場限りなことも多い。しかし、中にはそうではないモノもある。彼らとのえんはきっと後者だった。いつかまた三人で馬鹿をしあえる時がやってくる。それが遠い先のことなのか、それとも意外とすぐ近くのことなのかはわからないが、確信じみた予感がある。

 だからこそ、大仰なサヨナラは必要ない。

 また明日、そんな気軽な別離の挨拶ぐらいがちょうど良いのだ。

 そしてここは大阪、関西圏である。

 関西にはそんな気持ちを表現できる、素晴らしいひと言が存在した。

 愛着のある言葉遣いを敬意もなく乱用されるのを、嫌がる人も少なくないことだろうが、これほどしっくりくる言葉もないために、一つここは拝借させてもらう。


「ほなまた」

『ほな』


 俺がそう言うと、二人も声をそろえて返してくる。

 そのままなんの余韻よいんもなく、それぞれの旅へと戻っていった。

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