第7話 漫遊の旅【改稿済み】

 そうして、やってきたのは羽田の空港。その出発ロビー。

 ピンポンパンポンと独特に間のびしたチャイムが、空港にやってきたという実感を抱かせてくれる。よくよく考えてみると空港以外で聞いたことのないメロディだが、何か規定でもあるのだろうか。そんなどうでもいい事を考える。


「本当に行くのか?」

「ああ。俺の決意は固い」


 鈴木がいかにもといった問いをかけてきた。よって俺も雰囲気のある返答をした。いったい何の決意があるかと尋ねられると困るところだ。

 あれから俺は勢いとノリで旅立ちを強行し、その足でここまでやってきた。残る二人は突然の展開に目を白黒させていたが、なんだかんだと見送りについてきてくれている。二人ともいまだに暗い顔は払拭できていないものの、当初よりは落ち着いた様子である。


「私、待ってるから。帰ってきたらお返事聞かせて」

「大丈夫だ、俺はお前の望む返答をする気は一切ない」

「それでも待ってる」


 高橋のちょっとキマってしまっている眼光から、ちょい右へとずらして視線を交わす。彼女にも考える時間は必要だ。旅に出ている間に色々と考え直しておいて欲しい。

 実は一番心配しているのは、俺がいない間に鈴木とちんちんかもかもされることであるのだが、すでに俺の思いのたけは伝えている。あれでも精一杯の言葉であったのだから、これでダメなら取りつくろったとしてもいつか決裂けつれつする日がくるに違いない。いつも何時なんどきも傍に居続けないと維持いじできない間柄を、俺は恋愛とは呼びたくない。

 まあそのときは、そのときだ。ケセラセラ、なるようになる。


「それじゃあ、行ってくるよ。お土産は期待していてくれ」

「ちなみにどこに行くんだ?」

「ああ、それはな──」


 行き先にこだわりはない。

 設定した目的地も、ただ最初に目についた航空会社に「行き先はどこでもいいから、一番早く離陸できる空席はありますか?」と尋ねた結果だ。気さくな受付の人で「行き先はどこでもいいと言われたのは初めてだ」と、笑って教えてくれた。俺も話のタネを提供できたようで満足だ。


「長崎だな」

「ちゃんぽんか」


 鈴木よ。確かにそれは長崎の名産品ではあるがいきなり食物が出てくるとなると腹でも空いているのか? もっと他にもあるだろう。

 ほらこう……カステラだとか。


「さすがに汁物は買って帰れないぞ、適当なものを見繕みつくろってくる。まあそのなんだ。帰ったらさ、食べようぜ、三人でさ」

「いや、もう俺はお前たちには──いいや、わかった。よろしく頼む」


 何かを言いたげにした鈴木が深々とお辞儀をしてくる。お土産ぐらいでなにを大袈裟なと思い、からかってやろうとしたがやめておいた。こいつが何を言おうとしたのか、まあ察しがつく。そして俺が去った後にとるであろう行動も。

 おそらく土下座でもするんだろう。

 俺としては、そこまでの関係修復まで面倒はみない。

 それは大きなお世話というものだ。


 それから彼らと一言二言ひとことふたことを交わして、その場を後にする。

 すると後方から追いかけるように高橋の声がした。


「佐藤くん、行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」


 このようにして俺の日本全国漫遊の旅が始まったのである。

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