第6話 なんでそうなるの
決まったな。
泣き崩れている高橋を眺めつつ、そんなことを考える。
これまでの俺の言葉に嘘や打算はない。本心である。
本心ではあるが、勢いに任せて色々とキザったらしい台詞を吐いてしまったのは事実。高橋に「自分の世界、きしょ」などと言われたらどうしようとビクビクしていたのは、ここだけの話だ。
高橋はそれはもう盛大に泣いている。
その姿はまるで幼子のようであるが、その分、落ち着くのも時間がかかるだろう。まあいつまでも待つつもりであるので、問題はな──
ガツン
──いと思っていると、傍の方から豪快な衝突音がした。
驚いて見ると、そこには机の角に頭をぶつけて血を流している鈴木の姿があった。
何をしているんだ、こいつは?
呆然と疑問に思っていると、鈴木がたて続けに頭をぶつけ続けた。見ているだけで痛い。
「ちょおい、待て待て待て。何をし始めてるんだお前はっ!?」
「止めてくれるな。俺は自分が嫌になった。これは当然の罰なんだ」
訳のわからないことを
「佐藤、俺を殺してくれ」
「え、やだよ」
マジで応える。
親友を手にかけるなんて俺にはできないっ、なんて
そのままギャイギャイと二人して騒いでいると、ようやっと高橋が泣き止んだようだ。こちらへと声をかけてくる。
「ごめん、鈴木くん。佐藤くんと話をしたいから、今はいいかな」
高橋にそう言われて鈴木がようやっと大人しくなる。
安堵して、よくやってくれたと高橋を見ると、こちらも様子がオカシイ。あれ、もっとこう「佐藤くんに惚れ直したわ、もう離れない」なんて雰囲気とか妄想していたのだが、微笑む表情が、憂いをおびて悟っている。
まるで、思い出を
綺麗ではあるが、
「佐藤くん、ありがとう。こんな私を好きでいてくれて」
「お、おう」
「でも、ごめんなさい。もう終わりにしましょう」
「ええぇ──」
ちょっと引いてしまった。
どうしてあの話の流れで、こんな展開になる。
「ちょっと待ってくれ」
「うん」
許可をもらって考える時間を得る。
もしかしたら、俺は重大な勘違いをしていたのかもしれない。
言うて、高橋はいっときの気の迷いで鈴木を受け入れた。そう想定してこれまで会話していたのだが、気の迷いではなく、本気も本気だった? 佐藤くんは好きだけど、それ以上に鈴木くんを好きになっちゃったの、的な?
嫉妬でハゲそう。
受け入れることができるかは別として、とにかく確認をとる。
「えっと、鈴木を選ぶのか?」
「ううん、今までも、そしてこれからも。私の一番はあなたです」
「ではいったい、なぜ?」
「私みたいな
「ええぇ──」
ちょっとドン引いてしまった。
予想外も予想外である。
「なんでそうなるの」
「私よりもきっと良い人が佐藤くんを支えてくれるから、私はその邪魔をしちゃいけないって、そう思って──」
「いや、ないないない」
俺が高橋を射止めたのが、どれほど奇跡的な出来事だと思っているのか。正直こんな幸運、俺の人生に二度とないと思っている。女性に振られたから見切りをつけて、はい次の女、となるのはフィクションの中だけだ。
「そしたら高橋はどうなるのさ?」
「佐藤くん、いいの私は」
「鈴木、なんとかしてくれ」
「彼女がそう決めたのなら、俺から言うことはない。そして俺もお前に誓う。今後一切、彼女に言いよるような真似はしない。この気持ちは胸の奥底にしまい込む。それが俺の男としてのケジメだ」
「お前もお前でそれでいいんかいっ」
鈴木もこんな調子であるとすると、この先の未来はどうなる。
高橋はいい女だ。これから素敵な出会いに恵まれないことはないだろう、いや絶対にない。男なら放っておかない。将来、見知らぬ彼氏ができて結婚して子宝に恵まれて、慎ましくも幸せな家庭を築くのだろう。その一方で俺はというと、いつまでも独身で、飲み屋でオッサンになった鈴木とくだらない冗談を言い合いながらクダを巻き続けるのだ。
嫌だ。嫌すぎる。
それはそれで、ちょっと楽しそうな未来予想図ではあるが、根本的に目指すべき将来ではない。
「佐藤くん、お願い──別れましょう」
「佐藤、お願いだ──俺を殴ってくれ」
それぞれ無茶苦茶なことを要求してくる、彼女と親友。
その様子に、ついにプツリと俺の中で何かが切れた。
ははは、こやつらめ。
随分と好き勝手に言ってくれる。
そうかそうか、つまり君たちはそういう奴らだったんだな。
それならば俺の方にも考えがあるぞ。
「二人の話はわかった。しかし回答は保留だ」
俺の唐突かつ強硬な姿勢に面食らったのか、目を丸くする二人。その隙を逃さずに、宣言する。
「俺は旅に出る。戻るまで絶対に別れないからな。鈴木、お前は適当に自己解決しておけ」
そうだ旅だ、俺は旅に出るのだ。俺こそが
俺がとった行動とはつまり
こういうときは旅に出るのがいいと、きっとスナフキンも言っている。
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