第39話 最悪な寝取り野郎ですね
その後、女の子と一緒に会食することを諦めた俺たちは、美味いものを求めて広島の街を
俺たちのガールハントは全敗という結果に終わってしまったが、それでも楽しかった。二人も気持ちは同様であったようで、これはまた機会があればリベンジしたいと思うところである。
「その場合、また彼女さんに許可を取らなきゃっすね」
「まあ、当たり前だわな。次は……難しいだろうなぁ、どうやって説得すればいいのか」
「いや、そこは諦めましょうよ。気をつけてください、いつか刺されたりしませんように」
「縁起でもねぇ」
食べたいものは何かと話し合った結果は『お好み焼き』という結論に達している。広島の街であるから専門店はいくらでもあるのだが、ありすぎてこれといった店に決めきれないでいる。だが、ブラブラと街の散策をすることも楽しいので三人で
すると後方から声をかけられた。
「あっいた! お兄さんたち」
振り向くと、二人の女性が駆け寄ってくる。
「さっきはごめんなさい!」
そして一人から、なんの
はて? 『さっきは』という
説明してもらうと、先程に俺が泣かしたイケメンの後方にいた女性達だという。言われてみればと納得した。彼をへこますことに夢中で、そちらにはあまり注意を払っていなかった。
しかし、女性そっちのけで野郎に構っていた俺は一体なんなんだと思わなくもない。そんなことを考えている間にも、頭を下げたままの女子の話は続く。
「あいつも悪気があったわけじゃないんです。ただ私たちが危険な目にあってるんじゃないかって誤解して、調子に乗っただけで、だから、あの、その──」
そのまま、しどろもどろにイケメンに対する
仰天してしまった俺たちはしばしの間、呆然とそれを聞いていたが、やがて正気に戻った渡辺くんが彼女に頭を上げるように言う。
茶髪の髪をボブヘアにした可愛らしい女の子だ。
しかしその表情には、不安と恐れがはっきりと現れている
「ちょっとたんま」
女の子にそう告げると、俺たち三人は話し合う。
「伊藤くん達が『覚えてろよ』みたいな捨て台詞を吐くから」
「いやー、確かに悪ノリがすぎたかなとは思ったすけど、やっぱりサトさんの演技がデカいっすよ?」
「やけに
「えーそしたら、あの娘って俺たちがヤバい人だと勘違いして謝罪に追ってきたってことかな?」
「もしかしなくても、そうでしょうねぇ」
まさかの展開に戸惑ってしまう。完全に想定外であった。
「それで、どうする」
「どうするとは?」
「いやさ、なんか謝ってくれてるし。『水に流す代わりに、一緒にこれから付き合ってよ』なんて言っても通りそうだと思って」
「うわぁ……」
「サトさん、それはないっす」
「あ、やっぱり?」
「あの
「ちょっと危なっかしくて大丈夫かなとは思いますが、いい娘じゃないですか」
「そんな娘を
「最悪な寝取り野郎ですね」
「いや
思いついたから口をついてしまったが、俺としても賛同されたらどうしようと思っていたところだ。
そして俺たちの腹は決まる。
「あー実は──」
俺たちは全て話すことにした。
先程の俺の対応はハッタリであり、演技であること。
ただあのイケメンの態度が鼻についたから、へこますつもりだった。そんなくだらない動機だったと。
「ごめんなぁ、調子に乗りすぎたわー」
「僕も、カッとなって言い返してしまいました。申し訳ない」
「本当にごめん。だから、なんの心配もすることはないって、君たちからも彼に伝えといてくれるかな?」
俺たちがそのように謝罪をすると、それを聞いた女の子がその場にペタンとしゃがみ込んでしまう。
そして、そのまま泣き始めてしまった。
「うぅー……お兄さんたちがいい人でよかったよぉ」
どうやら安堵したことで緊張の糸が切れてしまったようである。
しかし俺たちのことを『いい人』呼ばわりするのはやめて欲しい。おかげで良心の
隣をみると二人もズキズキと痛む胸に苦しんでいる様子である。俺たち三人ともが小人物なのであった。
うん発言の意味については、何も考えないことにしよう。
ボブヘアの娘が落ち着くと、彼女たちにオススメのお好み焼き屋はないか聞いてみる。すると「いい店を知ってるんで案内します」と提案された。
それはありがたいが、イケメンの彼は放っておいてもいいのかと尋ねる。答えは「元はと言えばあいつが不必要にお兄さん達を挑発したからこんなことになったんです。一晩ぐらい反省させますよ」とのことであった。
なんだか
そうしてやってきたのは一つの店舗だ。
見た目にはなんの変哲もないが、店の前には食欲誘う香ばしい匂いが漂っており、入店する前から期待感がハンパない。
そんな俺に気づいてか、ボブの娘が「私たちの先輩がバイトしてる店なんです、とっても美味しいですよ」と言ってくれる。そのまま、軽やかなに店舗内へと足を踏み入れていった。
「いらっしゃーい」
「あ」
「ん? って、あ。さっきのお兄さんだ」
カウンターを超えた向こう、大きな鉄板の前に立つ人物に見覚えがあり、つい声を上げてしまった。
ピアスの天使がそこにいたのだ。
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