第21話 独白②(長崎の少女視点)【改稿済み】
彼は話してみると、案外と気さくな人間だった。
彼の寂しげな眼の色が変わることはなかった。
だから最初に感じた印象が
どんなに馬鹿なことを口走ろうとも、うっかりドジを踏んだとしても、それは彼のもつ新たな一面が見つかっただけのことだった。世の中には矛盾したような性質を
二人で食卓を囲んだ次の日。
私は長崎の街を案内するために、彼を迎えに行く。山上にある家までえっちらおっちら。慣れた石段を難なく登り切ると、そこに彼がいた。なにやら、おじいちゃんの家を仰ぐようにしてマジマジと眺めている。気になって尋ねてみると、この古民家のことが知りたいようだった。
少しだけ複雑な気分になる。
もしかしたら、この家は私が受け
ただの
べつに嫌なわけではない。この家にも愛着がある。継げるのであれば、それは名誉なことだとも思う。
けれどだ。
この家を
ただなんとなく好きなだけの、この家と長崎の
そんな『内』の世界だけを
繰り返すが、別に嫌なわけじゃない。
ただ、それが本当に正しい道なのかと不安になるだけだ。
これはいけないと、首を振る。
思考が暗い方法へと向かっていた。それなので、ことさらに声を張り上げて元気を出してみる。から元気だとて演じていれば本当になるはずだ。
そして実際に楽しかった。
長崎の様々な場所へと彼と連れ立っていくが、その
不思議なものだ。
彼の旅に同行しているだけで、見慣れた長崎の街が見知らぬ外国であるように思えた。まるで、彼がその眼をとおして見ている世界を、私も一緒になって
そしてお腹も空いて、長崎名物を食べに行く話の流れになる。彼はちゃんぽんを食べたいと言った。それなので、私のオススメ店へと連れて行くことになる。
昨晩の
実のところ、その店というのは世間の評価では『普通』だと判断されている店だった。わかっていない観光客が
けれど私と同じ気持ちを彼が持ってくれるかは分からない。不味いと言われることはないだろうが「微妙だ」なんて感想を持たれたら、私はしょぼけてしまう自信がある。彼をその店へと連れていくのを尻込みするのも、そんなところが原因にあった。
しかし、そんな心配は
彼は「美味しい」と言ってくれた。
私は口元がニヤけるのを抑えられなくなる。
ただただ単純に、同じものを好きだと感じれるのが嬉しいと思えた。
ふと、ちゃんぽんの器を両手で抱えながら、
ずっとずっと、この街で。あの家で。彼とふたりで──
そんな夢想が溢れてきてしまい、慌てて首を振った。
それはしてはいけない妄想だった。
あまり夢中になってしまうと、私は彼を困らせる嫌な女になってしまう。彼にそんな風に思われるのだけは、どうしても嫌だった。拒絶されるのが何よりも恐ろしかった。
私は取り
そんなこんなにしながらの、数日が過ぎた。
私たちは長崎の様々な場所を巡っていき、さんざんに遊び倒した。ひょっとすると、彼よりも私の方がはしゃいでいる
ある日の朝。自宅にて私が浮かれて出かけようとすると、両親から呼び止められる。「一度、こちらの家へと招いて食事を一緒にしよう」と提案された。それは良い考えだと肯定する。勝手知ったる自分の家であれば、彼を
私は嘆息をついて「ちょっと待て」と釘を打つ。
彼には既にお付き合いしている人がいるのだ。
そう説明する。
すると、家族の反応は様々であった。
そこで私は
そうして我が家にて、彼との食事会が行われたのだ。
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