第20話 独白①(長崎の少女視点)【改稿済み】
──さびしそうな『眼』をする人だな。
そう思ったのが、彼に対する第一印象だった。
穏やかそうな顔つきに、理知的に
とはいえ、初対面のときには状況がそれどころではなかった。
それは、お姉ちゃんが事故に巻き込まれたと聞いたときのことだ。
その後は、処置室にて検査を受けていたお姉ちゃんと対面した。
私は
そんな一幕もあり、私たち家族の中でも色々とあったが、それは今は話すことではないのでひとまずは置いておく。
家族での話し合いもひと段落したところで、ようやく彼と話す機会が
どうやらおじいちゃんもおばあちゃんも彼の人柄を気に入ったようだった。話の末に、自分達の住む家を彼に貸し出すとまで言い出したのだ。びっくりする。なんと世話役として私を当てるとまで言い出したから。普段から孫娘にデレデレなおじいちゃんから発せられる台詞とは思えなかった。それだけ彼のことを買ったのだろう。
私としては……実はまんざらでもなかった。
彼のその
自己紹介をすると、彼も名乗ってくれる。
──彼の名は佐藤さんといった。
●
彼がおじいちゃんの家で暮らし始めた日のこと。
本来なら
そんな経緯があり、彼をもてなす役目は私だけに任された。
私が、彼を満足させる必要がある。
私はパチンと
仕方なく、私は限られた食材で料理をする。レパートリーを
いつもの食卓で見るような、いつもの食事。
不本意だ。
もちろん調理に
そこではたと気づく。
ここまで自らの都合ばかりを優先して料理をしていたが、彼の都合というものまるで
私は慌てて客間へと向かう。
そんな風に
部屋の中で、彼は
楽しそうな顔をして、電話の相手へと安心させるような声をかけている。彼の物憂げだった眼が、優しげに
私は慌てて
台所へと戻ってきてからも、先ほどの彼の表情が頭から離れない。
彼はあんな顔をして笑う人なのだと理解するとともに、その笑顔は誰か知らない人に向けられていたことに気づいた。料理の
彼が居間にやってくると
二人で普通の食卓を
私にとっては特別でもない、ありふれた日常の味がした。それはなんだか、私のありのままを見せている気分になって恥ずかしかった。
けれど、彼はそんな私の料理を美味しいと言って食べてくれる。
どうしてだろうか、それがお
嬉しくてたまらなかった。
自分の作る料理が、ここまで人に喜んでもらえたのは初めてだった。
だからこそ、先ほどからのモヤモヤが気になってしまう。
私は尋ねてみることにした。
先ほどの電話の相手は、あなたの彼女なのかと。
答えは肯定だった。
そっか。残念ではあるが、こればかりは仕方ない話だ。
むしろこれで良かったのだと思う。色々と舞い上がってしまい、取り返しのつかないことをしでかす前に知れたのだから。そもそもだ、私は彼に理想の『お兄さん』を
だから、うん、大丈夫。
私は気持ちの折り合いをつけると、自分の立ち位置というのを決めることにした。これから先、どのように彼と接するべきなのか。どうやら彼の方は、私のことを親しい女友達といった感じで
私はちょっとした喜びを想像しながら、そのように決意した。
その前に少しだけ、一言だけだ、今の不満を口にしてしまおうと思う。気持ちを切り替えるためには、そういった儀礼的なものは大事だから。
「あーあ」
素敵な予感がしたんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます